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シーズン1 魔法使いの塔
第四章 11)絵描きという職業
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プラーヌスは食後すぐ、どこかに出ていった。彼にはまだまだやらなければいけない準備があるようだった。
そういうわけで彼が帰ってくるまで時間がぽっかりと空いてしまったので、私はもう一度、この街を散策することにする。
昼前は市場などを回ったが、次は街の反対側、この街のシンボルとも言える大聖堂のほうに向かうことにした。
とはいえ、大聖堂を見るよりも、出来ることならあの少年にもう一度会って、心から謝りたい気分だった。
しかし、もはや彼の居所はわからない。
彼は蝋燭代を失うという不始末を仕出かしたことになっているのだから、しばらく仕事もさせてもらえていないかもしれない。
昨日のように街で行商もしていないであろう。彼が蝋燭を売っていた場所に行ってみても無駄なはずである。そういうわけで、大聖堂でも見学することにしたのである。
大聖堂は本当に巨大で、その鋭く突き立った尖塔部分は、街のどこを歩いていても目について、この街に到着した日からどうにも気になっていた。
せっかくこの街に来たのだから、是非とも見ておきたい建物だった。私はいくらかウキウキした足取りでそこに向かう。
大聖堂の位置は把握出来ていたのだけど、そこまで到着するのは苦労した。
意外と道が入り組んでいて、目的地は見えているのに、そこに通じる道をなかなか発見することが出来なかったのだ。
親切な通行人に教えを請いながら、どうにか目的の大聖堂に到着した。
しかしそれだけ苦労して到着した割には、その大聖堂をを間近に見上げても、それほどの感動を覚えなかった。
確かにそれは素晴らしい建築物である。
堅固な石造りの建物で、至るところに細やかな装飾が施されている。
中央の巨大な尖塔は近くで見てもその迫力は十分で、一際目を引くその豪奢さは凡百の寺院とは違うことを主張していて、私もその主張を受け入れざるを得ない気分にさせられた。
しかし今現在、私はあのプラーヌスの塔に住んでいるのである。
あの壮麗な塔と比べると、この大聖堂と言えど、さして感興を催すほどの建築物ではないのだ。
むしろあのような巨大な塔を所有している男と、この私が友人であるという事実に驚きたくなってきた。
私は大聖堂を前にして、この建物の偉観に打たれるのではなくて、プラーヌスの塔の住人である自分の現状に感動してしまった。
プラーヌスに強引に誘われ、嫌々あの塔に住むことになったわけであるが、私はもっとその事実に喜びを覚えても良いのかもしれない。
もしかしたら私は幸せ者なのではなかろうか? そんな思いすら、ふと心を過ったりする。
大聖堂にそれほど感動はしなかったのだけど、せっかくだからその辺りをウロウロする。
先程から私は、大聖堂の前で絵を描いている中年の男性が気になっていた。
まあ、こう見えても私も一応は絵描きのはしくれである。職業柄こういうとき、どれだけの腕前か気になるものだ。
私は背後からそっと覗きこみ、絵の出来栄えを見てみた。
それほど達者ではなかったので、絵を生業にはしていないようだ。
ちょっと洒落者の貴族か、成功して余裕のある商人が暇潰しに絵筆を持っているだけであろう。
だけどそれを見ていたら私も絵が描きたくて仕方なくなってきた。
塔に来てから、時間にまるで余裕がなくて、全然描くことが出来ないでいる。
仕事が一段落したらプラーヌスに掛け合うかして、何が何でも自分の時間を作ろう。
カバンの中に愛用の絵筆とパレットを押し込んでおいて良かった。時間さえあれば、いつでも描くことは可能なのだ。
まあ、私がこういうことを思うのも、ある意味、覚悟を決め始めているからであろう。
もう簡単にプラーヌスの塔を出ることは出来ないだろうって。
自分の街に帰れば、絵を描く以外やることはないのだから、そんなことプラーヌスの塔に来てまでやるものではないと考えていた。
しかしどうやら塔での生活を、私の日常にしなくてはいけなくなってきた気がするのだ。
プラーヌスと旅をして、その想いは更に強まったかもしれない。
それに今、描きたいものがたくさんある。
あの巨大な塔や、その周りの風景を描きたいし、プラーヌスの肖像画も描きたい。
塔の召使いたちもそれぞれ出自が違うから、顔立ちが皆違う。
考えてみれば、プラーヌスの塔は、私の画家としての嗅覚を刺激してくれるものばかりではないか!
そんなふうに私は妙な興奮に包まれた状態で、更に街を散策していた。
絵を描きたい気持ちになると、見ている風景全てが変貌していくものだ。
これまでの何げなく映っていた日常的な街の風景が、何やら絵画的な風景に変わるのである。
ちょっとした街角にも価値があり、転がっている石ころにも意味が生じて、さして感興を覚えなかった大聖堂すら、この建物をどのように切り取って、自分の作品にしようかなどと考えると、まるで私のために存在しているかのような気になってくる。
さっきまでは旅を終えるのが嫌だったが、今は一刻も早く塔に戻り、絵を描きたくて堪らなくなってきた。
そういうわけで彼が帰ってくるまで時間がぽっかりと空いてしまったので、私はもう一度、この街を散策することにする。
昼前は市場などを回ったが、次は街の反対側、この街のシンボルとも言える大聖堂のほうに向かうことにした。
とはいえ、大聖堂を見るよりも、出来ることならあの少年にもう一度会って、心から謝りたい気分だった。
しかし、もはや彼の居所はわからない。
彼は蝋燭代を失うという不始末を仕出かしたことになっているのだから、しばらく仕事もさせてもらえていないかもしれない。
昨日のように街で行商もしていないであろう。彼が蝋燭を売っていた場所に行ってみても無駄なはずである。そういうわけで、大聖堂でも見学することにしたのである。
大聖堂は本当に巨大で、その鋭く突き立った尖塔部分は、街のどこを歩いていても目について、この街に到着した日からどうにも気になっていた。
せっかくこの街に来たのだから、是非とも見ておきたい建物だった。私はいくらかウキウキした足取りでそこに向かう。
大聖堂の位置は把握出来ていたのだけど、そこまで到着するのは苦労した。
意外と道が入り組んでいて、目的地は見えているのに、そこに通じる道をなかなか発見することが出来なかったのだ。
親切な通行人に教えを請いながら、どうにか目的の大聖堂に到着した。
しかしそれだけ苦労して到着した割には、その大聖堂をを間近に見上げても、それほどの感動を覚えなかった。
確かにそれは素晴らしい建築物である。
堅固な石造りの建物で、至るところに細やかな装飾が施されている。
中央の巨大な尖塔は近くで見てもその迫力は十分で、一際目を引くその豪奢さは凡百の寺院とは違うことを主張していて、私もその主張を受け入れざるを得ない気分にさせられた。
しかし今現在、私はあのプラーヌスの塔に住んでいるのである。
あの壮麗な塔と比べると、この大聖堂と言えど、さして感興を催すほどの建築物ではないのだ。
むしろあのような巨大な塔を所有している男と、この私が友人であるという事実に驚きたくなってきた。
私は大聖堂を前にして、この建物の偉観に打たれるのではなくて、プラーヌスの塔の住人である自分の現状に感動してしまった。
プラーヌスに強引に誘われ、嫌々あの塔に住むことになったわけであるが、私はもっとその事実に喜びを覚えても良いのかもしれない。
もしかしたら私は幸せ者なのではなかろうか? そんな思いすら、ふと心を過ったりする。
大聖堂にそれほど感動はしなかったのだけど、せっかくだからその辺りをウロウロする。
先程から私は、大聖堂の前で絵を描いている中年の男性が気になっていた。
まあ、こう見えても私も一応は絵描きのはしくれである。職業柄こういうとき、どれだけの腕前か気になるものだ。
私は背後からそっと覗きこみ、絵の出来栄えを見てみた。
それほど達者ではなかったので、絵を生業にはしていないようだ。
ちょっと洒落者の貴族か、成功して余裕のある商人が暇潰しに絵筆を持っているだけであろう。
だけどそれを見ていたら私も絵が描きたくて仕方なくなってきた。
塔に来てから、時間にまるで余裕がなくて、全然描くことが出来ないでいる。
仕事が一段落したらプラーヌスに掛け合うかして、何が何でも自分の時間を作ろう。
カバンの中に愛用の絵筆とパレットを押し込んでおいて良かった。時間さえあれば、いつでも描くことは可能なのだ。
まあ、私がこういうことを思うのも、ある意味、覚悟を決め始めているからであろう。
もう簡単にプラーヌスの塔を出ることは出来ないだろうって。
自分の街に帰れば、絵を描く以外やることはないのだから、そんなことプラーヌスの塔に来てまでやるものではないと考えていた。
しかしどうやら塔での生活を、私の日常にしなくてはいけなくなってきた気がするのだ。
プラーヌスと旅をして、その想いは更に強まったかもしれない。
それに今、描きたいものがたくさんある。
あの巨大な塔や、その周りの風景を描きたいし、プラーヌスの肖像画も描きたい。
塔の召使いたちもそれぞれ出自が違うから、顔立ちが皆違う。
考えてみれば、プラーヌスの塔は、私の画家としての嗅覚を刺激してくれるものばかりではないか!
そんなふうに私は妙な興奮に包まれた状態で、更に街を散策していた。
絵を描きたい気持ちになると、見ている風景全てが変貌していくものだ。
これまでの何げなく映っていた日常的な街の風景が、何やら絵画的な風景に変わるのである。
ちょっとした街角にも価値があり、転がっている石ころにも意味が生じて、さして感興を覚えなかった大聖堂すら、この建物をどのように切り取って、自分の作品にしようかなどと考えると、まるで私のために存在しているかのような気になってくる。
さっきまでは旅を終えるのが嫌だったが、今は一刻も早く塔に戻り、絵を描きたくて堪らなくなってきた。
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