私の邪悪な魔法使いの友人

ロキ

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シーズン1 魔法使いの塔

第二章 9)闇からの悲鳴

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 こうやって僕たちは、懐かしい話に花を咲かせながらワインと夕食を楽しんでいた。
 この美味しい料理のお陰で、この塔に来て二日目の晩は平和に過ぎていくかと思われた。

 しかしまた、あの悲しみに満ちた女性の泣き声が聞こえてきたのだ。 
 それでプラーヌスの顔色は一瞬で変わった。

 「この声だよ、シャグラン」

 プラーヌスは持っていたワイングラスを、やけに丁寧にテーブルに置いた。

 「・・・あ、ああ、僕が聞いたのもこれだった」

 私もナイフとフォークを置きながら言った。

 せっかくの私とプラーヌスの和やかな食事の時間を、この泣き声は邪魔してきたのだ。
 このとき私は、恐怖よりも怒りを覚えたかもしれない。

 それにこの声の謎を解かなければいけないという使命もあった。
 これが聞こえているうちに、どこから声がするのか探ろうと、私は椅子から立ち上がる。
 プラーヌスの手前、これがくらいの働きは見せなければいけない。

 しかしそのとき、その泣き声をかき消すようにして、何者かの絶叫が聞こえてきた。
 私はその声に、腰を抜かしてしまいそうなくらい驚いた。

 その声は塔の回廊を響くように聞こえてきて、どこから聞こえてくるのかわからない、あの女性の泣き声とは全く異質な感じであった。

 どうやら本当に召使いの誰かが発した声のよう。
 いずれにしろこれで完全に、夕食の時間が中断されたことは確かだった。

 「何か事件が起きたようだな」

 プラーヌスも苛立ちをあらわに、そう言って立ち上がった。「しかし次々に問題が頻出する塔だな。いくら割安だったとはいえここまで酷いとは」

 そのとき応接の間を慌ただしくノックする音がした。
 現れたのは青ざめた顔をしたアビュだった。

 「わ、私もよくわからないんだけど」彼女は切れた息を整えながら言った。「何か怪物が現れたって」

 「怪物だって?」

 私は問い詰めるようにアビュを見た。

 「う、うん、私も見てないからわからないけど・・・」

 「か、怪物なんていくらなんでも大袈裟じゃないのか。どうせ、どこかから迷い込んできた、ゴライアスガエルを見たとかだろ・・・」

 私はその報告を認めたくなかったばかりにそう言った。

 不気味な泣き声に続いて、謎の怪物まで現れるなんて、もはや私はついていけない。
 それにこれ以上、プラーヌスを苛立たせる材料が増加されるのもうんざりである。

 「そ、そうかもしれないね・・・」

 アビュも私の言葉に曖昧に頷いた。

 「どこだ、とにかくそこに案内するんだ」

 しかしプラーヌスは事態を重く見たのか、愛用の傘を掴み、すぐに部屋を出ていった。

 プラーヌスはやはり苛立っているようだ。
 その口調は一見穏やかだったが、明らかに怒りが滲み出ているのが感じられる。

 そんなプラーヌスの後をアビュが慌ててついていった。

 出来ることなら私は、このような騒ぎに関わりになるのは御免だったが、ここで留守番しているのも嫌なので、仕方なく彼らに従った。
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