上 下
120 / 128

絶望の中で

しおりを挟む
「ガス!!」

「ガストール!!」

 アレックスが叫ぶ。ナターシャも叫びつつ、前方の助手席から後部車両に乗り移ってきた。

「だ、だいじょうぶ。だいじょうぶですよ! ガストールさん!! ツカサの治癒魔法で、こ、こんなのすぐに治りますから!!」

 叫ぶ美亜。駆け寄ってきたナターシャが、ガストールに寄り添う美亜に近付く。

「ね? そうですよね!?」
 
 確認するかのようにナターシャを見る美亜。しかし、ナターシャは強張った表情のまま何も言わない。

「ツカサの魔法は聖獣レベルの凄さだから! ちょっと時間かかるかもしれないけど、ね、ねぇ、ナターシャさん!!」

「……ミ、ミアちゃん……」

 微かに首を左右に振るナターシャ。

「……欠損してしまった体は……もう戻らない……そんな魔法……存在しない……」

「……だ……だって。ほら! あいつだって……。再生したじゃないですか!!」

 弱々しく呟いたナターシャに、思わず声を荒げてしまった。

 うすうす分かっていた。でも認めたくなかった。いくら無茶苦茶な魔法だって必ず限界がある。わたしの魔法だって、自分自身を治癒することはできなかった。同じようにツカサの治癒魔法にだって、きっとどこかに限界がある。

 じゃあ、あの魔人はなんなんだ。あいつに限界はないのか。不死身なのか。

 魔人の転がっていった後方に視線を移した美亜。

「うわ!!」

 思わず声をあげる。

 遥か彼方に白い煙のようなものが立ち上っているのが見える。さっきの筋斗雲……。それは、空気中の水蒸気が急激に冷やされて出来た白い煙のようなもの。

 まだ魔人が追ってきている……。

 ナターシャも言葉をなくしてそれを見つめている。

「ナターシャさん! 橋はまだですか!?」

「もう……、見えるはず……。でも、やっぱりダメよ。橋まで行くってことは、渓谷に向かうってこと……。それは、逆に逃げ場がなくなるってこと……」

 激しく頭を振るナターシャ。苦痛に顔を歪めるガストールの肩に手を添えながら、おろおろとした状態になってしまった。

 そんなナターシャから視線を外して、美亜が振り返る。

「ツカサ! このまま全速で走り続けて!!」

「でも、このままじゃ。橋を渡れない!! アレックスも、ガストールも、この状態じゃ……。…… ムリ……。もう逃げられない……」

 遂に気持ちが折れたのか、ナターシャが泣き出した。

「だ、大丈夫です!! わたしがなんとかしますから!!」

 正直自分だって、内心パニック状態だ。力強く言っておきながら、なんの根拠も自信もない。いったいこの先どうするというのだ。例え橋を渡れたとして。例え結界まで辿り着いたとして。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました

Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。 実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。 何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・ 何故か神獣に転生していた! 始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。 更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。 人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m なるべく返信できるように努力します。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

アガダ 齋藤さんのこと

高橋松園
ファンタジー
ユーラシア大陸を拠点に活動する闇の組織がいた。その闇の組織は、ユーラシア地下都市構想の為に膨大なエネルギーを必要とし新潟佐渡沖で採掘している二千二十三年商品化予定の原油を横流しする計画を水面下で進行していが、海の民と名乗る者たちによって妨害されていた。闇の組織は海の民の指導者の殺害と同時に日本側の動向を探る為、日本にスパイを送り込んだ。そんな時、新潟で不可思議な事件が相次いで起こりその容疑者として一人の人物が浮上した。この物語は不運な事件に巻き込まれ世界中から追いかけられることになるホームセンター齋藤さんの話である。 この小説は2021年に書かれ、2022年3月に某小説コンテストに応募した作品です。全てフィクションであり、小説内で使用されている氏名や地名で起こる出来事等は事実ではありません。現代ファンタジー作品としてお読み下さい。 宜しくお願い致します。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

処理中です...