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絶望の中で
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「ガス!!」
「ガストール!!」
アレックスが叫ぶ。ナターシャも叫びつつ、前方の助手席から後部車両に乗り移ってきた。
「だ、だいじょうぶ。だいじょうぶですよ! ガストールさん!! ツカサの治癒魔法で、こ、こんなのすぐに治りますから!!」
叫ぶ美亜。駆け寄ってきたナターシャが、ガストールに寄り添う美亜に近付く。
「ね? そうですよね!?」
確認するかのようにナターシャを見る美亜。しかし、ナターシャは強張った表情のまま何も言わない。
「ツカサの魔法は聖獣レベルの凄さだから! ちょっと時間かかるかもしれないけど、ね、ねぇ、ナターシャさん!!」
「……ミ、ミアちゃん……」
微かに首を左右に振るナターシャ。
「……欠損してしまった体は……もう戻らない……そんな魔法……存在しない……」
「……だ……だって。ほら! あいつだって……。再生したじゃないですか!!」
弱々しく呟いたナターシャに、思わず声を荒げてしまった。
うすうす分かっていた。でも認めたくなかった。いくら無茶苦茶な魔法だって必ず限界がある。わたしの魔法だって、自分自身を治癒することはできなかった。同じようにツカサの治癒魔法にだって、きっとどこかに限界がある。
じゃあ、あの魔人はなんなんだ。あいつに限界はないのか。不死身なのか。
魔人の転がっていった後方に視線を移した美亜。
「うわ!!」
思わず声をあげる。
遥か彼方に白い煙のようなものが立ち上っているのが見える。さっきの筋斗雲……。それは、空気中の水蒸気が急激に冷やされて出来た白い煙のようなもの。
まだ魔人が追ってきている……。
ナターシャも言葉をなくしてそれを見つめている。
「ナターシャさん! 橋はまだですか!?」
「もう……、見えるはず……。でも、やっぱりダメよ。橋まで行くってことは、渓谷に向かうってこと……。それは、逆に逃げ場がなくなるってこと……」
激しく頭を振るナターシャ。苦痛に顔を歪めるガストールの肩に手を添えながら、おろおろとした状態になってしまった。
そんなナターシャから視線を外して、美亜が振り返る。
「ツカサ! このまま全速で走り続けて!!」
「でも、このままじゃ。橋を渡れない!! アレックスも、ガストールも、この状態じゃ……。…… ムリ……。もう逃げられない……」
遂に気持ちが折れたのか、ナターシャが泣き出した。
「だ、大丈夫です!! わたしがなんとかしますから!!」
正直自分だって、内心パニック状態だ。力強く言っておきながら、なんの根拠も自信もない。いったいこの先どうするというのだ。例え橋を渡れたとして。例え結界まで辿り着いたとして。
「ガストール!!」
アレックスが叫ぶ。ナターシャも叫びつつ、前方の助手席から後部車両に乗り移ってきた。
「だ、だいじょうぶ。だいじょうぶですよ! ガストールさん!! ツカサの治癒魔法で、こ、こんなのすぐに治りますから!!」
叫ぶ美亜。駆け寄ってきたナターシャが、ガストールに寄り添う美亜に近付く。
「ね? そうですよね!?」
確認するかのようにナターシャを見る美亜。しかし、ナターシャは強張った表情のまま何も言わない。
「ツカサの魔法は聖獣レベルの凄さだから! ちょっと時間かかるかもしれないけど、ね、ねぇ、ナターシャさん!!」
「……ミ、ミアちゃん……」
微かに首を左右に振るナターシャ。
「……欠損してしまった体は……もう戻らない……そんな魔法……存在しない……」
「……だ……だって。ほら! あいつだって……。再生したじゃないですか!!」
弱々しく呟いたナターシャに、思わず声を荒げてしまった。
うすうす分かっていた。でも認めたくなかった。いくら無茶苦茶な魔法だって必ず限界がある。わたしの魔法だって、自分自身を治癒することはできなかった。同じようにツカサの治癒魔法にだって、きっとどこかに限界がある。
じゃあ、あの魔人はなんなんだ。あいつに限界はないのか。不死身なのか。
魔人の転がっていった後方に視線を移した美亜。
「うわ!!」
思わず声をあげる。
遥か彼方に白い煙のようなものが立ち上っているのが見える。さっきの筋斗雲……。それは、空気中の水蒸気が急激に冷やされて出来た白い煙のようなもの。
まだ魔人が追ってきている……。
ナターシャも言葉をなくしてそれを見つめている。
「ナターシャさん! 橋はまだですか!?」
「もう……、見えるはず……。でも、やっぱりダメよ。橋まで行くってことは、渓谷に向かうってこと……。それは、逆に逃げ場がなくなるってこと……」
激しく頭を振るナターシャ。苦痛に顔を歪めるガストールの肩に手を添えながら、おろおろとした状態になってしまった。
そんなナターシャから視線を外して、美亜が振り返る。
「ツカサ! このまま全速で走り続けて!!」
「でも、このままじゃ。橋を渡れない!! アレックスも、ガストールも、この状態じゃ……。…… ムリ……。もう逃げられない……」
遂に気持ちが折れたのか、ナターシャが泣き出した。
「だ、大丈夫です!! わたしがなんとかしますから!!」
正直自分だって、内心パニック状態だ。力強く言っておきながら、なんの根拠も自信もない。いったいこの先どうするというのだ。例え橋を渡れたとして。例え結界まで辿り着いたとして。
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