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この世界で魔法は一般的でした

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  美亜が一度は捕まえて食べようとした白い猫のような動物、ツカサ。ツカサはこの世界では聖獣と呼ばれる生き物らしい。

「……あ、ああ。ツカサのことですね。あれは、魔法で姿を変えたんです」

「魔法で姿を変えた? なるほど、幻影魔法か」

 わたしの魔法は、幻影魔法と言うのだろうか。立派に実体化しているし、決して幻影では無いような気もする。だけど、なるほど言い得て妙だとも思った。この世界で目覚めた時、魔法は自分だけに与えられた特別な力だと思っていた。だけど、空を飛ぶ人間の存在を目の当たりにしたことで、この世界でわたしの考える常識は通じないのだと理解した。更には彼らが魔力とか魔族とかいう言葉を使っているのを聞いて、魔法というものが一般的な存在であることを確信する。

「わたしは聖獣ではないですよ。普通の人間です」

「その様だな。私にもそう見えている。クリラが不思議なことを言っていたが、それはありえないことだ……」

 白髪紳士ハインケラが、そこで言葉を切って速度を落とした。いつの間にやら上空は薄紫色のオーロラのような煌めきに覆われており、雲が厚みを増して辺りが少し暗くなってきた。

「これって、魔法で空を飛んでいるんですか?」

「そうだ。お前は空力魔法を使えないのか?」

「はい。たぶん。試したことはないですけど」

 もしかして、自分も魔法で空を飛べるんだろうか。屋上に向かってジャンプしようと思ったとき、脚力に頼らず魔法で念じれば飛べたんだろうか。しかし、同じ魔法でも得意不得意があるのかもしれない。とは言え理不尽な程に思ったモノを出せるくらいだから、思ったことを何でもできる方が、むしろ理にかなっているような気もする。

「魔眼や幻影魔法は、お前の魔力によるものなのか?」

 望遠鏡を魔眼というのだろうか。モノを出現させることを幻影魔法というのだろうか。多少疑問はあるものの、この世界では、きっとそういう解釈なのだろう。

「はい。おそらく」

「やはりそうか。お前からそれ程強力な魔力は感じないのだが、クリラが言うように魔力ゼロというのは間違いのようだな。ましてや、レビアスとの調和率ゼロなどありえない」

 ハインケラは何やら納得した様子だけれど、わたしには盛大に疑問が残った。レビアスって何だろうか。人の名前ではなさそうだ。それに調和率ゼロって……。何となく協調性なしと言われたような気がして不愉快だ。だからと言って、人からの評価なんて今更この世界で気にしたってしょうがない。

 美亜がそんなことを考えていると、飛ぶ速度がさらに遅くなった。同時にハインケラが体制を垂直方向に戻していく。美亜が振り向くと、急角度にそびえ立つ塔のような山頂を持つ巨大な山々が迫っていた。
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