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ロマンスの扉
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白髪紳士に抱きついて、目を瞑ったままの美亜。緊張で震える体。強張る筋肉。妄想の世界で彷徨っていた心が、次第にこの世界での感覚を取り戻していく。
今わたしの命はこの人に握られている……。腰に回された手がしっかりとわたしを抱きしめてくれている。背中から回されたもう片方の手は、わたしの頭を支えてくれている。かつての生活に抱いていた不安。世の中に身を置くことが嫌になったわたしは、人との距離を置くようになった。でも不安は拭えなかった。せめて誰か。安心できる場所。本当はこうやって抱きしめてもらいたかった……。
何で……。何で今……。こんなこと考えてるんだろう……。
「どうだ、少し楽になったか?」
「……はひっ……」
白髪紳士に突然耳元で囁かれて、かすれた声で返事をした。うっすらと目を開けると、青い空が広がっている。相変わらず物凄い加速度を感じるけれど、段々とそれにも慣れてきた。これだけ高速に移動しているのに、風圧を感じないのは何故だろう。透明なカプセルにでも入っているかのように、風の流れすら感じないし音も静かだ。緊張し続けていた手足の筋肉を少しづつ緩めていく。白髪紳士がしっかりと支えてくれているので、力を抜いても大丈夫なことが分かった。
「私は、ハインケラ。お前の名は」
「……ミアです……」
優しく問いかけてきた白髪紳士に、震える声で答える。恐怖と緊張と過去の思い出とがグチャ混ぜになって、何故かロマンチックな感情を呼び起こしてしまう。これっていわゆる吊り橋効果的な……。とか思いつつも、そう言う気持ちは今後一切不要であると、かたくなに否定する。だけど、ファンタジーな世界でロマンスの一つや二つとか、思わず考えてしまう自分がいる……。
異世界で最初に出会った人間らしい存在。白髪の紳士、ハインケラ。見た目の年齢は30代後半くらいに見えるけど、実際はいくつなんだろう。この人にとって、わたしはまだ子供にしか見えないんだろうか……。
「お前も聖獣なのか?」
唐突な謎の質問に、開きかけたロマンスの扉を閉じて戻ってきた美亜。
もう少しボーッとしていたかったけれど、今の自分の立場を反芻する……。ロマンチックな空中遊泳をしているわけじゃない。どこぞの主人だか親分だかのもとに連れて行かれるところだった。
「……セ、セイジュウ? なんですかそれ?」
「クリラが連れていったあいつだ。人間の身に姿を変えることができる聖獣など初めて見た。お前も同じなのか」
クリラとは、一緒にいたエメラルド色の髪の少女の名前なのか。そして、白い猫のような動物であるツカサは聖獣と呼ばれているらしい。もしかしてツカサは、神聖な生き物なのだろうか。
自分はそれを一度は食べてしまおうともしたけれど……。
今わたしの命はこの人に握られている……。腰に回された手がしっかりとわたしを抱きしめてくれている。背中から回されたもう片方の手は、わたしの頭を支えてくれている。かつての生活に抱いていた不安。世の中に身を置くことが嫌になったわたしは、人との距離を置くようになった。でも不安は拭えなかった。せめて誰か。安心できる場所。本当はこうやって抱きしめてもらいたかった……。
何で……。何で今……。こんなこと考えてるんだろう……。
「どうだ、少し楽になったか?」
「……はひっ……」
白髪紳士に突然耳元で囁かれて、かすれた声で返事をした。うっすらと目を開けると、青い空が広がっている。相変わらず物凄い加速度を感じるけれど、段々とそれにも慣れてきた。これだけ高速に移動しているのに、風圧を感じないのは何故だろう。透明なカプセルにでも入っているかのように、風の流れすら感じないし音も静かだ。緊張し続けていた手足の筋肉を少しづつ緩めていく。白髪紳士がしっかりと支えてくれているので、力を抜いても大丈夫なことが分かった。
「私は、ハインケラ。お前の名は」
「……ミアです……」
優しく問いかけてきた白髪紳士に、震える声で答える。恐怖と緊張と過去の思い出とがグチャ混ぜになって、何故かロマンチックな感情を呼び起こしてしまう。これっていわゆる吊り橋効果的な……。とか思いつつも、そう言う気持ちは今後一切不要であると、かたくなに否定する。だけど、ファンタジーな世界でロマンスの一つや二つとか、思わず考えてしまう自分がいる……。
異世界で最初に出会った人間らしい存在。白髪の紳士、ハインケラ。見た目の年齢は30代後半くらいに見えるけど、実際はいくつなんだろう。この人にとって、わたしはまだ子供にしか見えないんだろうか……。
「お前も聖獣なのか?」
唐突な謎の質問に、開きかけたロマンスの扉を閉じて戻ってきた美亜。
もう少しボーッとしていたかったけれど、今の自分の立場を反芻する……。ロマンチックな空中遊泳をしているわけじゃない。どこぞの主人だか親分だかのもとに連れて行かれるところだった。
「……セ、セイジュウ? なんですかそれ?」
「クリラが連れていったあいつだ。人間の身に姿を変えることができる聖獣など初めて見た。お前も同じなのか」
クリラとは、一緒にいたエメラルド色の髪の少女の名前なのか。そして、白い猫のような動物であるツカサは聖獣と呼ばれているらしい。もしかしてツカサは、神聖な生き物なのだろうか。
自分はそれを一度は食べてしまおうともしたけれど……。
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