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未開の土地のサバイバル

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 美亜は、森の中を歩き続ける。

 森はまばらに木々が立ち並ぶ雑木林なので、比較的歩きやすい。鬱蒼としたジャングルの様な森だったら、わざわざ分け入って突き進むというようなことはしなかっただろう。しかし雑木林のようなその風景は、進めどもいっこうに何も変わらず、どこまでいっても高い木々が立ち並ぶばかりだ。

 わたしは、人も存在しないようなとんでもなく未開の土地に、一人放り出されたのだろうか。

 微かに不安がよぎる。だけど、その不安て何だろう。未開の土地に放り出されて、わたしはいったい何が困るのだろうか。電気・ガス・水道とか、生活に必要な設備が無いってことだろうか。水道が無くても、川か何かを見つければいい気がする。ガスが無くても、自力で火を起こせば済むことだ。電気なんてスマホも持ってないし、はなから必要な気がしない。結局のところ、別に困ることなんてないじゃない。と、あっけらかんと考えた。

 まあそうは言っても、生活するなら未開の土地より、ある程度の文化圏の方がいいにこしたことはない。でも文化圏に辿り着いたら、人と会うことになる。せっかく一人になれたのに、また人との葛藤に巻き込まれて、そんなことで悩むのは嫌だ。

 だったら、このまま一人ぼっちでもいいんじゃないか。

 と、これまたあっけらかんと考えた。

 では何を求めて、わたしは歩いていくのか。

 それをあえて考えるとすれば、居心地の良い場所を探すくらいの理由でしかない。例えば、静かな山間の湖畔とか。できれば温泉も近くにあって欲しい。文化圏に入り込みたくはないけれど、近所に街というか人里があるくらいの安心感はあっても悪くない気もする。人とは関わりたくないけど、存在は感じたい。ぶっちゃけ便利なサービスがあれば利用したい。それって、何とも自分勝手な考えだ。

 でも、せっかくだから自分勝手に生きよう。

 そう思った。

 ところで人との関わりを心配してみたものの、美亜を取り囲んでいる森は、完全なる自然林。人の手が加わっている様子は、微塵もない。もしかして、この世界に文明はないのだろうか。まさか、人自体が存在しないのだろうか。そもそもこの世界の生物はどの様なものなのだろうか。

 時々木々の間で物音がする。スズメやカラスくらいの大きさの鳥が飛び交っているのは何度も見た。木の幹をつたうリスのような生き物や、枝の間を飛び移る猿のような生き物も見た。遠くの方で犬の遠吠えのような鳴き声は聞こえたが、狼とか熊とか大型の動物には遭遇していない。

 よく知る森の動物とは別に、魔物や精霊みたいな得体の知れない何かが出てくることもない。エルフやトロールやゴブリンなど、美亜が思い描く異世界住人との出会いの気配もまるで無しだ。
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