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徒花
1、偽物の始まり
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エデンの子供たち全員が初作戦を終えてから四日後。次の作戦のために、ソラとフィリアはデコード保管ベースにいた。作戦概要は敵軍事基地に面する前線空域の哨戒だ。前回の功績からか今回は小隊はついたりせず、他の哨戒班と同様に、一定時間哨戒を行う。
その空域は、EUIWの軍事基地があるにもかかわらず戦闘がほとんど起こっておらず、以前からマルエクシスが警戒していた場所でもあった。
入院後フィリアは精神安定剤を処方されており、又、本人の意向により作戦参加は継続して行われるようになった。
ソラからしてみれば不安の種は拭えていないけれど。ただフィリアの意向であればそれに従うしかない。
暗闇のコックピットで目を閉じ、深く息をはく。
俺にできることはなんだ。
1人考える。彼女を守ることだろうか。彼女の心が傷つかないようにすることであろうか。だが、それはどうしようもないことだった。それは彼女の問題であって、彼女が自分の精神と向き合わなければならない。ソラが敵を全て倒して、それでどうにかなることではない。そんな関係、いつか破綻するに決まっているのだから。
「レヴァテイン起動」
静かに、呟く。センターパネルが点灯したことによって、瞼の奥が白く照らされる。目を見開くと視界が白に包まれる。
そしてまた、戦いが始まる。
◇ ◇ ◇
特に何事も無く、作戦は遂行されていた。
「エリア9全領域、哨戒完了。異常ありません」
右サイドパネルの一部を、マムのいるエデン作戦指揮室と接続し連絡を取る。
「分かったわ。エリア13に移動し哨戒後、作戦終了よ」
「了解」
操縦桿を押し込み、ゆっくりと加速する。
マルエクシスの空域は全64区域に分かれており、その領域をそれぞれエリア1~13に分けている。今終えた空域は54区域のエリア9であり、これから二人はエリア13の哨戒に当たる。
他の小隊は通常の哨戒任務にあたっている。
いくら一度目の実戦がうまく行ったところで———いくら実力があったところで、長い時間を戦場で過ごしてきた軍にしてみればただの子供でしかないのだ。マムのお陰もあり、国軍とエデンの関係はうまく行っているが、エデンの存在をよく思わない兵士も少なからずいるのだ。
初作戦を終えた今、有用性や危険性を確認する段階にある。軍団戦の中に高火力機を投入するのは、味方であっても危険を伴う物なのだから。
エリア13の半分まで差し掛かった時、デコードのセンサーが反応する。
システムが拡大・高画質化を数回繰り返し、少しぼやけながらも、その全容を映し出す。
それと同時に、作戦指揮室から通信が入る。
「エリア13向かいにデコードによる熱反応を確認した。おそらく敵よ。注意して接近しなさい。何かが、あるわ」
マムはいつにも増して、ゆっくりと念を押す様に言った。
何かがある。例えばそれはそう、違和感。なにせその敵機は、たった一機で、敵国の領空乗り込んできたのだから。
命知らずとか、きっとそういう物ではない。そこに何かしらの確信があって侵攻してきたのだ。
エデンの情報は、以前EUIWの小隊と交戦した際に伝えられている筈である。そして、その恐ろしさもまた同様に。この状況で相手がそれを認識していないはずはなく、そして、それでも進行してくるとなればその機体とそのパイロットは、エデンを撃破する能力を有しているということになる。
そして、ソラには違和感を感じるのと同時にシンパシーも感じていた。
他の軍や量産機と比べ圧倒的な戦力を持ち、少数で敵機を撃破・任務を遂行する能力を持つ。
それじゃあまるで、
「まるで俺みたいじゃねぇーか、だろ? 人間モドキ」
オープンチャネルを使い、敵のパイロットはそう言って笑った。にやにやと、嘲笑うかの様に。
「?!」
混乱した。そもそも、重大なやりとりがされる戦場において、オープンチャネルが使われることはまずない。そのことがまず一つ目の要因。もう一つは、敵パイロットに話しかけられ、そして思っていたことを当てられたことにあった。
「フィリア、援護を頼む」
「うん」
敵機が加速したのを確認すると、ゆっくりと操縦桿を押し込みこちらも加速する。
オープンチャネルが表示されている左サイドパネルに敵機コクピットの様子が映し出される。
レヴァテインとあまり変わらない内装。所属する国が違うといえど、そもそもが1人の男によって生み出された物なのだから違いがないのも当たり前と言われればそうである。
そして、それを操るパイロット。金髪で左を刈り上げ、右は伸ばしたアシンメトリーな髪型。目も口もにやにやとしているのに、何故か目の奥はこちらを睨む様な、そんな目をしていた。
抜刀し片手で構え、戦闘の準備に入る。
「人間モドキってなんだよ。どういう意味だ?」
ソラは疑問に思ったことを投げかける。オープンチャネルが切断されていないということは、まだ相手は話すことがあるからに他ならない。
「なんだ? まだ知らされてないのかよ。戦うのも、訓練するのも他のマトモな人間に比べて早ぇのに、そんなのは遅いんだな。いや、わざと知らせてないってことか?」
敵機との距離が近づく。敵を捕捉したモニターを見ると、端に3500mと表示されている。
ゆっくりと息を吐き、気を引き締める。そんな距離、デコードならすぐに埋まってしまうのだから。
「そのまんまだろ、人間モドキだ。俺も、お前らも。人間に造られた人間ってことだよ!」
語尾の勢いのままに、ソラと敵機はぶつかり合う。敵機の剣との間に火花が散る。
ソラにも、フィリアにもその言葉の正しい意味が理解ができなかった。
ゆっくりと、圧され始める。ソラの中にわずかながら衝撃が走る。今まで、実践でも訓練においても、圧されたことなど一度もないからである。それほどまでにレヴァテインの出力は高く設計されている。だが、この敵機にはそれを押し退けるほどの力があるのである。
金属が軋む。
敵パイロットが叫び、剣を振り払う。ソラはわずかに後退しながら、フィリアに目配せをする。いくら単騎で不利になったとしても、こちらは2機いるのだから戦いようによってはどうにでもなる。
サブマシンガンから放たれた弾丸を交わしながら、さらに上空へ飛ぶ。
「くそっ」
ソラは小さくそう漏らすと、追いかけ加速する。
プレッシャーが伸し掛かる。改めて感じる、死への恐怖。格上の相手と手を合わせる感覚。今まで感じたことのない焦燥感。その焦りは死へと直結するものかもしれなかったが、ソラにはどうすることもできなかった。
「まぁ、理解できねぇのも無理ないか。その年になるまでひたすら隠されてきたんなら、ハナから教えるつもりなんかなかったってことだ。人間モドキ同士仲良くやろうぜ? なぁ」
追いかける中、敵機のバックパックと肩部から煙が噴き出る。
故障などではなくあれは、
「ミサイルか」
「ソラ、避けて」
「あぁ」
加速した勢いのまま旋回し、ミサイルをかわす。ホーミング型ミサイルなのか、それでもソラを撃ち落とそうとミサイルも旋回してくるが、フィリアがすべて爆破させる。
ミサイルの爆破によって生じた光が背後から差す。
「まぁ、この程度で負けてもらうわけにもいかねぇからな。わざわざ、俺たちも作戦を用意したんだ。お前には、その作戦の上で踊ってもらわないとなぁ」
にやにやと、敵パイロットは笑う。いくら戦闘中であっても、その口数が減ることはなかった。だが、戦闘しながら喋った状態にも関わらず、2人がかりで抑え込めない程の力を持つのだから脅威ではあった。2人だけでなく、エデンにとって。エデンの様に複数人集まっていた場合、その集団とエデンが寇する場合どちらか勝利するのか。
敵機は振り返りながら相対する。しかしそれでも止まることはなく、その距離は埋まらないまま3機は作戦の哨戒範囲内を逸脱しようとしていた。
「もう今日はお前らには用はない。だがまぁ、すぐ会えるさ。会いにくるさ。その時は快く、殺してやるよ」
そういうと、敵パイロットはまるでビルから落ちるかの様に背を地に向けて落下する。重力を利用しさらに加速する。
「おい、待て。この状況で逃がすわけ…」
「待ちなさい」
敵パイロットを追いかけ加速しようとした途端に、マムから通信が入る。
「でも」
「周りをしっかりと確認しなさい。今のところ実質的な損害はない。それに、このままいけば逆にあなた達がEUIWの領空を審判することになるわ。それに、あの機体がどこ所属かわからない以上無闇に墜とすわけにはいかない。実力で見ても、2人で撃破出来るか怪しいレベルなのよ」
2人が特に言い返すこともなく、54領域エリア13の遥か上空。今にもマルエクシスとEUIWの国境を跨ごうという位置で、エデン所属の2機は進行を停止した。
◇ ◇ ◇
「お疲れ様、2人とも。あの機体の所属がわかったわ」
作戦終了後、帰還した後に2人が休んでいた休憩室に入ってすぐ、マムはそう言った。
マムが所持していたパネルを2人に見せると、そこにに先ほどまで戦っていた機体の3Dモデルが映し出される。
「2機のセンサーで確認できた箇所を繋ぎ合わせてAIで再現しただけだから精巧とまではいかないけれどね。
「あの機体はEUIW連合部隊試験小隊所属の専用機。スペックは詳しくわからなかったけれど、レヴァテインよりも僅かに上って感じね。バックパックと肩部の後ろに電波ホーミング誘導式のミサイル。脚部の作りからミサイルの様なものが格納されてるのは間違いないわ。主要武器としては剣と、おそらくビームマシンガンね。
「パイロットはリゼル。それ以外の情報はわからなかったわ。
「そして最後に。EUIW連合部隊試験小隊について説明するわ。一言で説明すると対エデン小隊ってところかしらね。本格的に動き出したのも最近で、国軍もどうやら今まで認知していなかったらしいわ。構成隊員は全6名。全員が高機動、高火力の専用機持ち。今後、一番警戒すべき小隊ね」
マムが矢継ぎ早に説明を終える。
1つ、ソラが疑問に思っていたことを口にする。でもそれは本心ではなく、何かをごまかすために。何かが壊れるような、そんな感じがするから。
「敵パイロットのリゼルが言っていた、作戦っていうやつの内容とかって…」
「さすがにそこまではわからなかったわ。でも、あの口調からして次もあなたたち2人とコンタクトを取るのはほぼ間違い。私から言えるのはそれくらいね」
「私も、1つ聞きたいことがあるんです」
彼女は、ソラがごまかそうとしていたものを口にした。あぁ、俺よりもフィリアの方が強いじゃあないか、とソラは心の底から思った。
「彼の言っていた、人間モドキ…人に造られたってどういう意味なんですか。マムは、そのことについて何か知っていて、それで私たちに伝えなかったんですか」
言い終えるころには消えてしまいそうな声で、そう尋ねた。マムのことを疑っている訳ではなく、信じたかった。ずっと母のように慕ってきた人だからこそ、そんな隠し事はしてほしくなかった。ソラもフィリアも、同じ気持ちだった。
「……それについては私自身は、何も知らなかったわ。そもそも私はエデンの創設やそのメンバーの収集に何も関わっていないのよ。メンバーが全員決められたあとに管理を任されたの。だから、私自身も初めて知ったのよ。そのことについて、これから調べてみようと思うわ。でも、私たちが家族みたいな、いや、家族であることは変わりはないわ、あなたたちが人間でもそうでなくとも、例え化け物だったとしてもね」
日が沈みはじめ、世界がゆっくりと黒に染まってゆく。星が煌めき、月が顔を出し始める。日の光の赤や橙、宇宙の蒼、月の白、夜の黒。様々な色が混ざり合い混沌としているはずなのに、それでも確かに美しいと感じる空だった。
その空域は、EUIWの軍事基地があるにもかかわらず戦闘がほとんど起こっておらず、以前からマルエクシスが警戒していた場所でもあった。
入院後フィリアは精神安定剤を処方されており、又、本人の意向により作戦参加は継続して行われるようになった。
ソラからしてみれば不安の種は拭えていないけれど。ただフィリアの意向であればそれに従うしかない。
暗闇のコックピットで目を閉じ、深く息をはく。
俺にできることはなんだ。
1人考える。彼女を守ることだろうか。彼女の心が傷つかないようにすることであろうか。だが、それはどうしようもないことだった。それは彼女の問題であって、彼女が自分の精神と向き合わなければならない。ソラが敵を全て倒して、それでどうにかなることではない。そんな関係、いつか破綻するに決まっているのだから。
「レヴァテイン起動」
静かに、呟く。センターパネルが点灯したことによって、瞼の奥が白く照らされる。目を見開くと視界が白に包まれる。
そしてまた、戦いが始まる。
◇ ◇ ◇
特に何事も無く、作戦は遂行されていた。
「エリア9全領域、哨戒完了。異常ありません」
右サイドパネルの一部を、マムのいるエデン作戦指揮室と接続し連絡を取る。
「分かったわ。エリア13に移動し哨戒後、作戦終了よ」
「了解」
操縦桿を押し込み、ゆっくりと加速する。
マルエクシスの空域は全64区域に分かれており、その領域をそれぞれエリア1~13に分けている。今終えた空域は54区域のエリア9であり、これから二人はエリア13の哨戒に当たる。
他の小隊は通常の哨戒任務にあたっている。
いくら一度目の実戦がうまく行ったところで———いくら実力があったところで、長い時間を戦場で過ごしてきた軍にしてみればただの子供でしかないのだ。マムのお陰もあり、国軍とエデンの関係はうまく行っているが、エデンの存在をよく思わない兵士も少なからずいるのだ。
初作戦を終えた今、有用性や危険性を確認する段階にある。軍団戦の中に高火力機を投入するのは、味方であっても危険を伴う物なのだから。
エリア13の半分まで差し掛かった時、デコードのセンサーが反応する。
システムが拡大・高画質化を数回繰り返し、少しぼやけながらも、その全容を映し出す。
それと同時に、作戦指揮室から通信が入る。
「エリア13向かいにデコードによる熱反応を確認した。おそらく敵よ。注意して接近しなさい。何かが、あるわ」
マムはいつにも増して、ゆっくりと念を押す様に言った。
何かがある。例えばそれはそう、違和感。なにせその敵機は、たった一機で、敵国の領空乗り込んできたのだから。
命知らずとか、きっとそういう物ではない。そこに何かしらの確信があって侵攻してきたのだ。
エデンの情報は、以前EUIWの小隊と交戦した際に伝えられている筈である。そして、その恐ろしさもまた同様に。この状況で相手がそれを認識していないはずはなく、そして、それでも進行してくるとなればその機体とそのパイロットは、エデンを撃破する能力を有しているということになる。
そして、ソラには違和感を感じるのと同時にシンパシーも感じていた。
他の軍や量産機と比べ圧倒的な戦力を持ち、少数で敵機を撃破・任務を遂行する能力を持つ。
それじゃあまるで、
「まるで俺みたいじゃねぇーか、だろ? 人間モドキ」
オープンチャネルを使い、敵のパイロットはそう言って笑った。にやにやと、嘲笑うかの様に。
「?!」
混乱した。そもそも、重大なやりとりがされる戦場において、オープンチャネルが使われることはまずない。そのことがまず一つ目の要因。もう一つは、敵パイロットに話しかけられ、そして思っていたことを当てられたことにあった。
「フィリア、援護を頼む」
「うん」
敵機が加速したのを確認すると、ゆっくりと操縦桿を押し込みこちらも加速する。
オープンチャネルが表示されている左サイドパネルに敵機コクピットの様子が映し出される。
レヴァテインとあまり変わらない内装。所属する国が違うといえど、そもそもが1人の男によって生み出された物なのだから違いがないのも当たり前と言われればそうである。
そして、それを操るパイロット。金髪で左を刈り上げ、右は伸ばしたアシンメトリーな髪型。目も口もにやにやとしているのに、何故か目の奥はこちらを睨む様な、そんな目をしていた。
抜刀し片手で構え、戦闘の準備に入る。
「人間モドキってなんだよ。どういう意味だ?」
ソラは疑問に思ったことを投げかける。オープンチャネルが切断されていないということは、まだ相手は話すことがあるからに他ならない。
「なんだ? まだ知らされてないのかよ。戦うのも、訓練するのも他のマトモな人間に比べて早ぇのに、そんなのは遅いんだな。いや、わざと知らせてないってことか?」
敵機との距離が近づく。敵を捕捉したモニターを見ると、端に3500mと表示されている。
ゆっくりと息を吐き、気を引き締める。そんな距離、デコードならすぐに埋まってしまうのだから。
「そのまんまだろ、人間モドキだ。俺も、お前らも。人間に造られた人間ってことだよ!」
語尾の勢いのままに、ソラと敵機はぶつかり合う。敵機の剣との間に火花が散る。
ソラにも、フィリアにもその言葉の正しい意味が理解ができなかった。
ゆっくりと、圧され始める。ソラの中にわずかながら衝撃が走る。今まで、実践でも訓練においても、圧されたことなど一度もないからである。それほどまでにレヴァテインの出力は高く設計されている。だが、この敵機にはそれを押し退けるほどの力があるのである。
金属が軋む。
敵パイロットが叫び、剣を振り払う。ソラはわずかに後退しながら、フィリアに目配せをする。いくら単騎で不利になったとしても、こちらは2機いるのだから戦いようによってはどうにでもなる。
サブマシンガンから放たれた弾丸を交わしながら、さらに上空へ飛ぶ。
「くそっ」
ソラは小さくそう漏らすと、追いかけ加速する。
プレッシャーが伸し掛かる。改めて感じる、死への恐怖。格上の相手と手を合わせる感覚。今まで感じたことのない焦燥感。その焦りは死へと直結するものかもしれなかったが、ソラにはどうすることもできなかった。
「まぁ、理解できねぇのも無理ないか。その年になるまでひたすら隠されてきたんなら、ハナから教えるつもりなんかなかったってことだ。人間モドキ同士仲良くやろうぜ? なぁ」
追いかける中、敵機のバックパックと肩部から煙が噴き出る。
故障などではなくあれは、
「ミサイルか」
「ソラ、避けて」
「あぁ」
加速した勢いのまま旋回し、ミサイルをかわす。ホーミング型ミサイルなのか、それでもソラを撃ち落とそうとミサイルも旋回してくるが、フィリアがすべて爆破させる。
ミサイルの爆破によって生じた光が背後から差す。
「まぁ、この程度で負けてもらうわけにもいかねぇからな。わざわざ、俺たちも作戦を用意したんだ。お前には、その作戦の上で踊ってもらわないとなぁ」
にやにやと、敵パイロットは笑う。いくら戦闘中であっても、その口数が減ることはなかった。だが、戦闘しながら喋った状態にも関わらず、2人がかりで抑え込めない程の力を持つのだから脅威ではあった。2人だけでなく、エデンにとって。エデンの様に複数人集まっていた場合、その集団とエデンが寇する場合どちらか勝利するのか。
敵機は振り返りながら相対する。しかしそれでも止まることはなく、その距離は埋まらないまま3機は作戦の哨戒範囲内を逸脱しようとしていた。
「もう今日はお前らには用はない。だがまぁ、すぐ会えるさ。会いにくるさ。その時は快く、殺してやるよ」
そういうと、敵パイロットはまるでビルから落ちるかの様に背を地に向けて落下する。重力を利用しさらに加速する。
「おい、待て。この状況で逃がすわけ…」
「待ちなさい」
敵パイロットを追いかけ加速しようとした途端に、マムから通信が入る。
「でも」
「周りをしっかりと確認しなさい。今のところ実質的な損害はない。それに、このままいけば逆にあなた達がEUIWの領空を審判することになるわ。それに、あの機体がどこ所属かわからない以上無闇に墜とすわけにはいかない。実力で見ても、2人で撃破出来るか怪しいレベルなのよ」
2人が特に言い返すこともなく、54領域エリア13の遥か上空。今にもマルエクシスとEUIWの国境を跨ごうという位置で、エデン所属の2機は進行を停止した。
◇ ◇ ◇
「お疲れ様、2人とも。あの機体の所属がわかったわ」
作戦終了後、帰還した後に2人が休んでいた休憩室に入ってすぐ、マムはそう言った。
マムが所持していたパネルを2人に見せると、そこにに先ほどまで戦っていた機体の3Dモデルが映し出される。
「2機のセンサーで確認できた箇所を繋ぎ合わせてAIで再現しただけだから精巧とまではいかないけれどね。
「あの機体はEUIW連合部隊試験小隊所属の専用機。スペックは詳しくわからなかったけれど、レヴァテインよりも僅かに上って感じね。バックパックと肩部の後ろに電波ホーミング誘導式のミサイル。脚部の作りからミサイルの様なものが格納されてるのは間違いないわ。主要武器としては剣と、おそらくビームマシンガンね。
「パイロットはリゼル。それ以外の情報はわからなかったわ。
「そして最後に。EUIW連合部隊試験小隊について説明するわ。一言で説明すると対エデン小隊ってところかしらね。本格的に動き出したのも最近で、国軍もどうやら今まで認知していなかったらしいわ。構成隊員は全6名。全員が高機動、高火力の専用機持ち。今後、一番警戒すべき小隊ね」
マムが矢継ぎ早に説明を終える。
1つ、ソラが疑問に思っていたことを口にする。でもそれは本心ではなく、何かをごまかすために。何かが壊れるような、そんな感じがするから。
「敵パイロットのリゼルが言っていた、作戦っていうやつの内容とかって…」
「さすがにそこまではわからなかったわ。でも、あの口調からして次もあなたたち2人とコンタクトを取るのはほぼ間違い。私から言えるのはそれくらいね」
「私も、1つ聞きたいことがあるんです」
彼女は、ソラがごまかそうとしていたものを口にした。あぁ、俺よりもフィリアの方が強いじゃあないか、とソラは心の底から思った。
「彼の言っていた、人間モドキ…人に造られたってどういう意味なんですか。マムは、そのことについて何か知っていて、それで私たちに伝えなかったんですか」
言い終えるころには消えてしまいそうな声で、そう尋ねた。マムのことを疑っている訳ではなく、信じたかった。ずっと母のように慕ってきた人だからこそ、そんな隠し事はしてほしくなかった。ソラもフィリアも、同じ気持ちだった。
「……それについては私自身は、何も知らなかったわ。そもそも私はエデンの創設やそのメンバーの収集に何も関わっていないのよ。メンバーが全員決められたあとに管理を任されたの。だから、私自身も初めて知ったのよ。そのことについて、これから調べてみようと思うわ。でも、私たちが家族みたいな、いや、家族であることは変わりはないわ、あなたたちが人間でもそうでなくとも、例え化け物だったとしてもね」
日が沈みはじめ、世界がゆっくりと黒に染まってゆく。星が煌めき、月が顔を出し始める。日の光の赤や橙、宇宙の蒼、月の白、夜の黒。様々な色が混ざり合い混沌としているはずなのに、それでも確かに美しいと感じる空だった。
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