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第十五話 常連三人
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よくよく聞けば。
街の東のその地にはいくつかのダンジョンが複数存在しているらしく、現在確認できている限りでも三つ、性質の異なるダンジョンがあるのだ、という。
今回、シーノが引き受けた《任務》は、そのダンジョン群の中でも最大規模と目されるその名もずばり《魔導士のダンジョン》の、中層以降の内部構造を《地図化》するという依頼内容だったようだ。
その《任務》という物にも、調査・探索・捜索・討伐と、さまざまな種類があるらしいのだが、なかでも今回受けた《地図化》は、冒険の初期段階の調査であり、募集人数も八名と大所帯だったこともあって、いつもどおりであれば比較的危険の少ない《任務》の筈だった、とシーノは語った。
「中層までのルートは、もう随分前に調査も探索も完了していたからね、そこまではすんなりと辿り着けたんだけどさ」
シーノは苦々しげに続けた。
「ダンジョンを調査する目的で募集をかける場合って、あたしと同じような盗賊職を、最低二人以上はパーティーに参加させるものなの。だから、あたしの他にもあと二人いたんだけれど、そのうちの一人の男が目先の欲に目が眩んで、みえみえの罠に引っかかっちゃったのよね」
これもまるきりシーノの受け売りだが、調査目的の場合、よほどのことがない限りは道中で宝箱を見つけたとしても手を出さないというのが暗黙のルールなのだと言う。パーティーの編成が戦闘よりも索敵向きに偏っているために、いざ魔物が出現してしまうとどうしても力不足の事態に陥るからなのだそうだ。
「まあ、元々《組合》からの報酬だけしか貰えない《任務》だからさ、つい、魔が差して余計なことをしでかす奴がいるんだよね」
で。
その罠というのが《魔物召喚》だったらしい。
「しかもね? 湧いて出たのはなんと、よりにもよって《死霊》だったのよ!!」
驚いてくれるものと期待していたのだろうが、対する銀次郎のぽかんとした顔付きを目にして、シーノは慌てて付け加えた。
「あ、そっか。ギンジローには分からないんだっけ。えっと……死者が蘇って人を襲うようになった怪物。噛まれたりすると感染して同じ《死霊》になっちゃうから凄く厄介なの。おまけに普通の武器で切ったりしたくらいじゃぴんぴんしてるし……。あ、死者なのにぴんぴんしてる、ってのは変かもね」
「よく分からんが、言いたいことは分かる」
銀次郎は苦手だったが、恐怖映画に登場するゾンビみたいなものだろう。
いや、銀次郎が見聞きしていないだけで、この世界には昨日まで空想の産物と決めつけていたゾンビすら実在するのかもしれなかった。ぶるり、と身を震わせてから、銀次郎は尋ねる。
「それで、大丈夫だったのか、お前さんたちは?」
すると、急にシーノは表情を輝かせ、
「それがね――!」
からん。
カウベルが鳴った。
今の今までそんなおどろおどろしい話を聞かされていただけに、銀次郎は聴き慣れた筈の音にも驚き、内心肝を冷やしてしまったのだが、二人の視線の先に見慣れた顔が二つ並んでいたのでほっとする。
「おい、ギンジロー! まだ開いてるよな?」
「ど、ども。ま、また来ちゃいました」
それはあのゴードンと、その太い腕にがっちりと捉えられたまま強引に連れてこられた門番のスミルだった。はじめは弱り切った表情を浮かべていた若き門兵だったが、
「――え!?」
そこにいた先客の顔を見るなり、顔を赤らめる。
「あ、あの……。シーノが何でここに……?」
「あー、スミルじゃない」
一方、シーノの方は特段驚いた様子も見せず、さらりと応じた。やがてその唇が不満げにすぼめられる。
「どこにいようが別にいいでしょ。っていうか、あんたたちもギンジローと知り合いなの?」
「ああ、そうだ」
話を向けられて、二人の代わりに銀次郎が答える。
「シーノがはじめての客だったんだがな。その後すぐにこの二人が来てくれたんだ」
「えっ!? あ……そ、そうなの……!?」
はじめての、というくだりが余程嬉しかったのだろう。シーノは出し抜けに小さな悲鳴に似た叫びを漏らすと、カウンター越しに身を乗り出した。それから妙に余裕たっぷりな態度でスツールの上で足を組んで座り直すと、まだ入り口に立ったままの二人を手招きする。
「ほらほら、そんなところに突っ立ってないでとっとと座ったらどうなの? ギンジローが困ってるじゃないのさ」
「……何だかえらく常連ぶってやがんな」
ゴードンは鼻白んでごにょごにょと呟いていたが、
「ま、ここは素直に従っとくとしようか。おい、スミルはここだ。早く座れ」
「えっ……! あ、ああ、うん」
手前からシーノ、スミル、ゴードンと三人カウンターに並んだ。二人に挟まれる格好になったスミルがやけに落ち着かない様子なのは気のせいだろうか。
とん。
とん。
銀次郎は先回りして用意しておいた珈琲を二人の前にも置いてやった。
「で……何話してたんだっけ?」
シーノは一瞬考え込むようにしてから、
「そ、そうそう! それがね――!」
街の東のその地にはいくつかのダンジョンが複数存在しているらしく、現在確認できている限りでも三つ、性質の異なるダンジョンがあるのだ、という。
今回、シーノが引き受けた《任務》は、そのダンジョン群の中でも最大規模と目されるその名もずばり《魔導士のダンジョン》の、中層以降の内部構造を《地図化》するという依頼内容だったようだ。
その《任務》という物にも、調査・探索・捜索・討伐と、さまざまな種類があるらしいのだが、なかでも今回受けた《地図化》は、冒険の初期段階の調査であり、募集人数も八名と大所帯だったこともあって、いつもどおりであれば比較的危険の少ない《任務》の筈だった、とシーノは語った。
「中層までのルートは、もう随分前に調査も探索も完了していたからね、そこまではすんなりと辿り着けたんだけどさ」
シーノは苦々しげに続けた。
「ダンジョンを調査する目的で募集をかける場合って、あたしと同じような盗賊職を、最低二人以上はパーティーに参加させるものなの。だから、あたしの他にもあと二人いたんだけれど、そのうちの一人の男が目先の欲に目が眩んで、みえみえの罠に引っかかっちゃったのよね」
これもまるきりシーノの受け売りだが、調査目的の場合、よほどのことがない限りは道中で宝箱を見つけたとしても手を出さないというのが暗黙のルールなのだと言う。パーティーの編成が戦闘よりも索敵向きに偏っているために、いざ魔物が出現してしまうとどうしても力不足の事態に陥るからなのだそうだ。
「まあ、元々《組合》からの報酬だけしか貰えない《任務》だからさ、つい、魔が差して余計なことをしでかす奴がいるんだよね」
で。
その罠というのが《魔物召喚》だったらしい。
「しかもね? 湧いて出たのはなんと、よりにもよって《死霊》だったのよ!!」
驚いてくれるものと期待していたのだろうが、対する銀次郎のぽかんとした顔付きを目にして、シーノは慌てて付け加えた。
「あ、そっか。ギンジローには分からないんだっけ。えっと……死者が蘇って人を襲うようになった怪物。噛まれたりすると感染して同じ《死霊》になっちゃうから凄く厄介なの。おまけに普通の武器で切ったりしたくらいじゃぴんぴんしてるし……。あ、死者なのにぴんぴんしてる、ってのは変かもね」
「よく分からんが、言いたいことは分かる」
銀次郎は苦手だったが、恐怖映画に登場するゾンビみたいなものだろう。
いや、銀次郎が見聞きしていないだけで、この世界には昨日まで空想の産物と決めつけていたゾンビすら実在するのかもしれなかった。ぶるり、と身を震わせてから、銀次郎は尋ねる。
「それで、大丈夫だったのか、お前さんたちは?」
すると、急にシーノは表情を輝かせ、
「それがね――!」
からん。
カウベルが鳴った。
今の今までそんなおどろおどろしい話を聞かされていただけに、銀次郎は聴き慣れた筈の音にも驚き、内心肝を冷やしてしまったのだが、二人の視線の先に見慣れた顔が二つ並んでいたのでほっとする。
「おい、ギンジロー! まだ開いてるよな?」
「ど、ども。ま、また来ちゃいました」
それはあのゴードンと、その太い腕にがっちりと捉えられたまま強引に連れてこられた門番のスミルだった。はじめは弱り切った表情を浮かべていた若き門兵だったが、
「――え!?」
そこにいた先客の顔を見るなり、顔を赤らめる。
「あ、あの……。シーノが何でここに……?」
「あー、スミルじゃない」
一方、シーノの方は特段驚いた様子も見せず、さらりと応じた。やがてその唇が不満げにすぼめられる。
「どこにいようが別にいいでしょ。っていうか、あんたたちもギンジローと知り合いなの?」
「ああ、そうだ」
話を向けられて、二人の代わりに銀次郎が答える。
「シーノがはじめての客だったんだがな。その後すぐにこの二人が来てくれたんだ」
「えっ!? あ……そ、そうなの……!?」
はじめての、というくだりが余程嬉しかったのだろう。シーノは出し抜けに小さな悲鳴に似た叫びを漏らすと、カウンター越しに身を乗り出した。それから妙に余裕たっぷりな態度でスツールの上で足を組んで座り直すと、まだ入り口に立ったままの二人を手招きする。
「ほらほら、そんなところに突っ立ってないでとっとと座ったらどうなの? ギンジローが困ってるじゃないのさ」
「……何だかえらく常連ぶってやがんな」
ゴードンは鼻白んでごにょごにょと呟いていたが、
「ま、ここは素直に従っとくとしようか。おい、スミルはここだ。早く座れ」
「えっ……! あ、ああ、うん」
手前からシーノ、スミル、ゴードンと三人カウンターに並んだ。二人に挟まれる格好になったスミルがやけに落ち着かない様子なのは気のせいだろうか。
とん。
とん。
銀次郎は先回りして用意しておいた珈琲を二人の前にも置いてやった。
「で……何話してたんだっけ?」
シーノは一瞬考え込むようにしてから、
「そ、そうそう! それがね――!」
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