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第507話 コトセのチカラ at 1996/3/15
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『トランシーバー……? 缶ペンケース……? 銀色……? もしかすると……これか?』
通信の向こう側のコトセがどういう状態でどういう恰好なのかわからなかったが、なにやらひとしきりごそごそときぬ擦れの音がしたかと思うと、やがて、からん、と乾いた音がした。
『どうしてこんなモノを持っている……? 記憶にないし、なかったのだが……?』
「ツッキーごしに伝わっているものだとばっかり思ってたんだけど」
『だから今、なかった、と言っただろうに』
多くを語らないところを見ると、何かを用心しているらしい。
そこでロコがこんな質問をくり出した。
「ねえ、コトセ? 前から気になっていたんだけど、どうやってケンタと話してるの? あたしは、ほら、ウチのポスト経由のメモじゃない? でも、ケンタとはスマホで話してるよね?」
『スマホ、というシロモノが実際どういう仕組みなのか、まるで理解はしていない。ただ――』
コトセはこともなげにこう告白する。
『私が「リトライアイテム」であるがゆえに持っている、能力の一部がそれを可能にしている』
「「?」」
僕らはコトセのセリフを聞いてもただ黙って視線を合わせただけだ。さらに聞いてみることにした。
「どういうことだ? 能力の一部って言うのも気にはなるけど。念じれば通じる、みたいな?」
『そのとおり。仕組みに関しては、私の方が知りたいくらいでね。説明することは不可能だな』
「なるほど……。で、その能力の一部、ってのは? 他にもできることがあったりするのか?」
『そっちは大したことがなくてな――』
コトセはしばし沈黙してからこうこたえた。
『リトライまでの残り時間が、私にだけ見えているのだ。カウントダウンする数字が常に視界の左隅に映っている。とは言っても、示す日付は常に変わらない。忌々しき一九九六年の三月三十一日だ。あとはだ……これが能力にあたるのかはわからんが、琴世の記憶を共有できる』
「複数能力を持っている、っていうのはまれなのか?」
『さあな――だが、今までもいなかったワケじゃない――』
ぱかん、と乾いた音が響いた。
どうやらコトセは缶ペンケースを開けたようだった。
『なあ、古ノ森? この「トランシーバー」とやらは、電源が必要なのだろう? 電池がない』
「電池切れ……じゃなくって、物理的に電池が入っていない、ってことか?」
『……うむ』
なにか言いたそうに口を開いたロコを左手で制して僕は推理する。缶ペンケース=トランシーバーのことは笙氏に伝わっているのだろうか。水無月さんなら話している可能性は高そうだ。
けれど、大好きな五十嵐君とナイショのハナシもしたいだろう。なら、教えていない可能性だって捨てきれない。その場合問題になるのは――電池を抜いたのが水無月さんだという事実。
「なら残念だけれど、それは使えないね。もしかすると、そのへんに電池を隠してある可能性もありそうだけど。なあ、コトセ? 正直に教えてくれ……ここしばらくの記憶はあるのか?」
ひゅっ、と小さく息を呑む音は隠せなかった。
『……やはりお前は油断ならないヤツだな』
「何日だ?」
『断続的に、そして徐々に期間が長くなっている。最も直近のものでも――ほぼ丸々一ヶ月前』
「そんなに……! 大丈夫なのか? それ!?」
おそらくトランシーバーが完成したという報告を受けた二月十三日以来なのだろう。だからコトセは知らなかったのだ。これがどういうことを意味するのか、それはわからないが――。
『さあ、どうだかな。私にさえ、まだまだわからないことなどたくさんあるとも。たとえばそれは……お前たちにもカンケイのあることについてだとかだな。そう、それはつまり――』
「どうやって元の時間に戻るか、とか言わないでよ、コトセ?」
「………………嫌な予感しかしないんだが」
『私はな、こう言ったはずだ――「戻れるさ、一年経てば」と。戻してやるとは言っていない』
通信の向こう側のコトセがどういう状態でどういう恰好なのかわからなかったが、なにやらひとしきりごそごそときぬ擦れの音がしたかと思うと、やがて、からん、と乾いた音がした。
『どうしてこんなモノを持っている……? 記憶にないし、なかったのだが……?』
「ツッキーごしに伝わっているものだとばっかり思ってたんだけど」
『だから今、なかった、と言っただろうに』
多くを語らないところを見ると、何かを用心しているらしい。
そこでロコがこんな質問をくり出した。
「ねえ、コトセ? 前から気になっていたんだけど、どうやってケンタと話してるの? あたしは、ほら、ウチのポスト経由のメモじゃない? でも、ケンタとはスマホで話してるよね?」
『スマホ、というシロモノが実際どういう仕組みなのか、まるで理解はしていない。ただ――』
コトセはこともなげにこう告白する。
『私が「リトライアイテム」であるがゆえに持っている、能力の一部がそれを可能にしている』
「「?」」
僕らはコトセのセリフを聞いてもただ黙って視線を合わせただけだ。さらに聞いてみることにした。
「どういうことだ? 能力の一部って言うのも気にはなるけど。念じれば通じる、みたいな?」
『そのとおり。仕組みに関しては、私の方が知りたいくらいでね。説明することは不可能だな』
「なるほど……。で、その能力の一部、ってのは? 他にもできることがあったりするのか?」
『そっちは大したことがなくてな――』
コトセはしばし沈黙してからこうこたえた。
『リトライまでの残り時間が、私にだけ見えているのだ。カウントダウンする数字が常に視界の左隅に映っている。とは言っても、示す日付は常に変わらない。忌々しき一九九六年の三月三十一日だ。あとはだ……これが能力にあたるのかはわからんが、琴世の記憶を共有できる』
「複数能力を持っている、っていうのはまれなのか?」
『さあな――だが、今までもいなかったワケじゃない――』
ぱかん、と乾いた音が響いた。
どうやらコトセは缶ペンケースを開けたようだった。
『なあ、古ノ森? この「トランシーバー」とやらは、電源が必要なのだろう? 電池がない』
「電池切れ……じゃなくって、物理的に電池が入っていない、ってことか?」
『……うむ』
なにか言いたそうに口を開いたロコを左手で制して僕は推理する。缶ペンケース=トランシーバーのことは笙氏に伝わっているのだろうか。水無月さんなら話している可能性は高そうだ。
けれど、大好きな五十嵐君とナイショのハナシもしたいだろう。なら、教えていない可能性だって捨てきれない。その場合問題になるのは――電池を抜いたのが水無月さんだという事実。
「なら残念だけれど、それは使えないね。もしかすると、そのへんに電池を隠してある可能性もありそうだけど。なあ、コトセ? 正直に教えてくれ……ここしばらくの記憶はあるのか?」
ひゅっ、と小さく息を呑む音は隠せなかった。
『……やはりお前は油断ならないヤツだな』
「何日だ?」
『断続的に、そして徐々に期間が長くなっている。最も直近のものでも――ほぼ丸々一ヶ月前』
「そんなに……! 大丈夫なのか? それ!?」
おそらくトランシーバーが完成したという報告を受けた二月十三日以来なのだろう。だからコトセは知らなかったのだ。これがどういうことを意味するのか、それはわからないが――。
『さあ、どうだかな。私にさえ、まだまだわからないことなどたくさんあるとも。たとえばそれは……お前たちにもカンケイのあることについてだとかだな。そう、それはつまり――』
「どうやって元の時間に戻るか、とか言わないでよ、コトセ?」
「………………嫌な予感しかしないんだが」
『私はな、こう言ったはずだ――「戻れるさ、一年経てば」と。戻してやるとは言っていない』
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