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第477話 ホワイト・サイレント・ナイト(2) at 1996/2/18
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「く……そ……っ! ロコ! 走れ! 先に行け! ここは僕が……コイツを食い止める!!」
――ざん!
振り向いた一瞬のスキをつき、大月大輔の姿はまばたきより早く雪だまりの中にかき消えた。
雪に覆われた周囲をくまなく見回す。だが、隠れている場所どころか、さっきまでどこに立っていたのかすら形跡が何ひとつ残されていない。焦る僕の視界の端には、まだロコが見えた。
「お――おい、馬鹿! なにしてる!? 行けったら、行け!」
「で、でも……っ!」
「やるしかない、やるしかないんだ! お前が捕まったらこの『リトライ』は終わりだぞ!?」
「ど――どうしてそうなるのよ!?」
「ヤツらは『代行者』なんだ! いまだに誰のかはわからない! けど!」
僕は周囲を警戒しながら一歩、二歩とあとずさった。
「僕らが相手にしているのは、過去と歴史だ! 書き換えられたら困るヤツがいるんだよ!!」
次の瞬間、
がしり――!
突如現れた白い手が僕の右の足首をつかみ、物凄いチカラで握り締めてきた。履いている黒い長靴ごと引きちぎられそうなほどの万力のようなチカラと、ゴム状の表面から伝わる、ぬるり、とした不快感に、僕はたまらず悲鳴を漏らしそうになる。反射的に左足で蹴りつける。
――ざん!
当たるかと思った寸前で、大月大輔の白い手は僕の足を放し、雪の中にかき消えてしまう。
(まさか、コイツ……! 雪の中を移動できるとでもいうのかよ!? 嘘……だろ……!?)
その場から一ミリでも距離を置くようにして、もがくように僕は立ち上がった。が、右足首からの激痛に、あやうく膝をつきそうになる。たぶん、折れてはいまい。それでも――。
(もう一度さっきのをやられたら、僕はこの場から一歩も動けなくなるぞ……どうする!?)
右足をかばうようにして背後にあるガードレールまでじりじりと後退する。その間、当然のようにあたりをくまなく観察して彼の動きや居場所を探ろうとするが、まったくわからない。
『最近音が聞き取りにくくてね。その分、見る方は得意なんだ――』
大月大輔の言葉をそのまま鵜呑みにするのなら、僕が今こうして、姿の見えない相手にどう立ち向かうか必死に考えを巡らせている間抜けなサマも見えているのだろう。焦りに泳ぐ瞳も、額をつたう汗も、ときおり襲う右足首の鈍痛にしかめられる眉も――。
――意味ありげに胸元に抱え込んでいるビニール袋も。
『おい、僕とヒロコの愛を妨げる愚かな少年、その大事そうに抱えた袋には何が入っている?』
後ろか――いや、左の繁みの方だったかもしれない。
「何が入ってようがいいだろ? 君には関係ないよ、大月大輔」
『なあ……さっきから興味がないから放っておいたんだが――』
前――違う、右の道路わきの雪だまりか?
『――お前ごとき部外者風情に、僕の名を軽々しく呼んで欲しくはない。この僕を、僕の名で呼ぶべきなのは、愛するヒロコだけだ。僕は、この僕は、ヒロコを護る白き騎士なのだから』
「何が騎士だ! この勘違いストーカー野郎が!」
『ストーカー……? ストーク……忍び寄る、っていう意味だったかな……?』
そうか、『ストーカー』が危険な要素を含む違法行為だと明確に認知されるようになったのは、九〇年代の終わり頃のハナシだ。たぶん警察に相談したところでどうにもできないだろう。どのみち、こんな異常なチカラを持っているヤツに警察はなんの手出しもできはしまい。
『僕が忍び寄るのはヒロコに害なす不届き者に対してだけだ。僕が、この僕が、君を排除する』
――ざん!
振り向いた一瞬のスキをつき、大月大輔の姿はまばたきより早く雪だまりの中にかき消えた。
雪に覆われた周囲をくまなく見回す。だが、隠れている場所どころか、さっきまでどこに立っていたのかすら形跡が何ひとつ残されていない。焦る僕の視界の端には、まだロコが見えた。
「お――おい、馬鹿! なにしてる!? 行けったら、行け!」
「で、でも……っ!」
「やるしかない、やるしかないんだ! お前が捕まったらこの『リトライ』は終わりだぞ!?」
「ど――どうしてそうなるのよ!?」
「ヤツらは『代行者』なんだ! いまだに誰のかはわからない! けど!」
僕は周囲を警戒しながら一歩、二歩とあとずさった。
「僕らが相手にしているのは、過去と歴史だ! 書き換えられたら困るヤツがいるんだよ!!」
次の瞬間、
がしり――!
突如現れた白い手が僕の右の足首をつかみ、物凄いチカラで握り締めてきた。履いている黒い長靴ごと引きちぎられそうなほどの万力のようなチカラと、ゴム状の表面から伝わる、ぬるり、とした不快感に、僕はたまらず悲鳴を漏らしそうになる。反射的に左足で蹴りつける。
――ざん!
当たるかと思った寸前で、大月大輔の白い手は僕の足を放し、雪の中にかき消えてしまう。
(まさか、コイツ……! 雪の中を移動できるとでもいうのかよ!? 嘘……だろ……!?)
その場から一ミリでも距離を置くようにして、もがくように僕は立ち上がった。が、右足首からの激痛に、あやうく膝をつきそうになる。たぶん、折れてはいまい。それでも――。
(もう一度さっきのをやられたら、僕はこの場から一歩も動けなくなるぞ……どうする!?)
右足をかばうようにして背後にあるガードレールまでじりじりと後退する。その間、当然のようにあたりをくまなく観察して彼の動きや居場所を探ろうとするが、まったくわからない。
『最近音が聞き取りにくくてね。その分、見る方は得意なんだ――』
大月大輔の言葉をそのまま鵜呑みにするのなら、僕が今こうして、姿の見えない相手にどう立ち向かうか必死に考えを巡らせている間抜けなサマも見えているのだろう。焦りに泳ぐ瞳も、額をつたう汗も、ときおり襲う右足首の鈍痛にしかめられる眉も――。
――意味ありげに胸元に抱え込んでいるビニール袋も。
『おい、僕とヒロコの愛を妨げる愚かな少年、その大事そうに抱えた袋には何が入っている?』
後ろか――いや、左の繁みの方だったかもしれない。
「何が入ってようがいいだろ? 君には関係ないよ、大月大輔」
『なあ……さっきから興味がないから放っておいたんだが――』
前――違う、右の道路わきの雪だまりか?
『――お前ごとき部外者風情に、僕の名を軽々しく呼んで欲しくはない。この僕を、僕の名で呼ぶべきなのは、愛するヒロコだけだ。僕は、この僕は、ヒロコを護る白き騎士なのだから』
「何が騎士だ! この勘違いストーカー野郎が!」
『ストーカー……? ストーク……忍び寄る、っていう意味だったかな……?』
そうか、『ストーカー』が危険な要素を含む違法行為だと明確に認知されるようになったのは、九〇年代の終わり頃のハナシだ。たぶん警察に相談したところでどうにもできないだろう。どのみち、こんな異常なチカラを持っているヤツに警察はなんの手出しもできはしまい。
『僕が忍び寄るのはヒロコに害なす不届き者に対してだけだ。僕が、この僕が、君を排除する』
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