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第467話 エンドレス・バレンタイン(9) at 1996/2/14
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「痛たたた……助かった………………助かったけども!!」
僕ら『電算論理研究部』、人数こそ八人とそろっているものの、その半分はジョシで、残りの僕を除いた三人だってとりわけ運動が得意ってわけじゃ――どころか、割とニガテだ。なので、理科室の入り口から華麗なロングジャンプを決めた僕を受け止めるどころか、構えていたバレーボールのネットで全員ひとくるみにされて理科室の窓あたりでもみくちゃになっていた。
「助かったけども! みんな、僕なんかのために無茶しすぎ! 怪我したらどうすんだよ!?」
まるで底引き網にかかった獲物のような体勢で、みんなはやたらと嬉しそうにこたえる。
「う、うまくいきましたねっ! たぶん……ですけど」
「くん、かー。くん、かー……うふふ、かえでちゃんの匂いがするぅ……って、ふぐうっ!?」
「……アンタはフグってよりトドでしょ? セッ! セクハラすんならあたしにしなさいよ!」
「きちんと質量計算はしたつもりでしたが……こうなりますか……むう……」
「り、理論値だもん。し、仕方ないよ。でも、トランシーバー作っといてよかったね……♡」
「ねー。ケンタ君、無茶ばかりするからあってよかったー。で……居場所特定の機能はいつ?」
「………………やめたげなって、スミ」
誰も反省してねえ!?
つーか、最後の方、なんか怖い機能の追加実装のハナシが出てた気がするんですけど……。
と、てっきりそこに混じっていると思っていたもうひとりの姿を僕は探す――いた。
「あの……荻島センセイ、ありがとうございました。おかげでなんとかなりましたよ」
「ははは。ですねえ。おそらくはこれで、しばらく動けないでしょう、彼」
「一応、なんですけど……。何、したんです?」
「? ……ああ、ほら。古ノ森君、大掃除の日に、私に注意してくれたじゃありませんか」
と、にこやかに笑い返しながら、荻島センセイはゴム手袋をはめた手で慎重にコンセントからプラグを引き抜いていた。そこから伸びているコードの先は――被膜をはがされたむき身で。
「か――感電! させたんですか!?」
マジかよ!?
あなた、仮にも理科の教師ですよね!?
そりゃスタンガンの5万ボルトに比べたら大したことないけど、家庭用電源の100ボルト15アンペアだって、ニンゲン死ぬ時は死にますって! ヤベえな! この中学校教諭!!
「さて、今のうちに拘束しておきましょう。また暴れ出したら、私たちでは止められませんよ」
「う……は、はい」
あちこち痛むカラダを起こし荻島センセイを手伝うことにする。ほんの少しだけ心配になってタツヒコの両腕を後ろ手に組ませるついでに反応をたしかめたが――うん、生きている。ココロを病んだ自宅療養中に動画ばかり観ていたけれど、それが役立ちそうだ。手際よく進める。
「なんだか慣れていますねえ、古ノ森君。こうされては、とても動けそうにないですねえ」
「気っ!? 気のせい……ですって……。それよりも……うん?」
ふと気になって、タツヒコの全身にほどこされた赤い染料で描かれた文様を親指で、ぐい、とこすってみる。すると、思ったよりカンタンに消えていく。匂いを嗅いでみたが――ああ。
「これ、絵の具とかじゃないですね……。なんだか、チョコレートの匂いがするような……?」
「えっ! マジで!? ……くん、かー。くん、かー。……たしかにチョコレートだね、これ」
「さすが、チョコレートが好きなシブチン、だな」
「いやあ! それほどでも!」
「……ほめてはないんだけど」
ひょっとして――油絵具ではあるまいかという僕の予想は、ありがたいことに外れてくれた。
なら一体、タツヒコをこんな風に操って、僕を襲わせたのは誰なのか。
自分の意思?
それだけでこんな呪術めいたことまでやらないだろう。
「全身にチョコを塗りたくって……これってモリケンへのバレンタインの贈り物のつもりかな? ……うふ」
「あのな……? そういう悪趣味な冗談は、ホント……やめてくれ……」
僕ら『電算論理研究部』、人数こそ八人とそろっているものの、その半分はジョシで、残りの僕を除いた三人だってとりわけ運動が得意ってわけじゃ――どころか、割とニガテだ。なので、理科室の入り口から華麗なロングジャンプを決めた僕を受け止めるどころか、構えていたバレーボールのネットで全員ひとくるみにされて理科室の窓あたりでもみくちゃになっていた。
「助かったけども! みんな、僕なんかのために無茶しすぎ! 怪我したらどうすんだよ!?」
まるで底引き網にかかった獲物のような体勢で、みんなはやたらと嬉しそうにこたえる。
「う、うまくいきましたねっ! たぶん……ですけど」
「くん、かー。くん、かー……うふふ、かえでちゃんの匂いがするぅ……って、ふぐうっ!?」
「……アンタはフグってよりトドでしょ? セッ! セクハラすんならあたしにしなさいよ!」
「きちんと質量計算はしたつもりでしたが……こうなりますか……むう……」
「り、理論値だもん。し、仕方ないよ。でも、トランシーバー作っといてよかったね……♡」
「ねー。ケンタ君、無茶ばかりするからあってよかったー。で……居場所特定の機能はいつ?」
「………………やめたげなって、スミ」
誰も反省してねえ!?
つーか、最後の方、なんか怖い機能の追加実装のハナシが出てた気がするんですけど……。
と、てっきりそこに混じっていると思っていたもうひとりの姿を僕は探す――いた。
「あの……荻島センセイ、ありがとうございました。おかげでなんとかなりましたよ」
「ははは。ですねえ。おそらくはこれで、しばらく動けないでしょう、彼」
「一応、なんですけど……。何、したんです?」
「? ……ああ、ほら。古ノ森君、大掃除の日に、私に注意してくれたじゃありませんか」
と、にこやかに笑い返しながら、荻島センセイはゴム手袋をはめた手で慎重にコンセントからプラグを引き抜いていた。そこから伸びているコードの先は――被膜をはがされたむき身で。
「か――感電! させたんですか!?」
マジかよ!?
あなた、仮にも理科の教師ですよね!?
そりゃスタンガンの5万ボルトに比べたら大したことないけど、家庭用電源の100ボルト15アンペアだって、ニンゲン死ぬ時は死にますって! ヤベえな! この中学校教諭!!
「さて、今のうちに拘束しておきましょう。また暴れ出したら、私たちでは止められませんよ」
「う……は、はい」
あちこち痛むカラダを起こし荻島センセイを手伝うことにする。ほんの少しだけ心配になってタツヒコの両腕を後ろ手に組ませるついでに反応をたしかめたが――うん、生きている。ココロを病んだ自宅療養中に動画ばかり観ていたけれど、それが役立ちそうだ。手際よく進める。
「なんだか慣れていますねえ、古ノ森君。こうされては、とても動けそうにないですねえ」
「気っ!? 気のせい……ですって……。それよりも……うん?」
ふと気になって、タツヒコの全身にほどこされた赤い染料で描かれた文様を親指で、ぐい、とこすってみる。すると、思ったよりカンタンに消えていく。匂いを嗅いでみたが――ああ。
「これ、絵の具とかじゃないですね……。なんだか、チョコレートの匂いがするような……?」
「えっ! マジで!? ……くん、かー。くん、かー。……たしかにチョコレートだね、これ」
「さすが、チョコレートが好きなシブチン、だな」
「いやあ! それほどでも!」
「……ほめてはないんだけど」
ひょっとして――油絵具ではあるまいかという僕の予想は、ありがたいことに外れてくれた。
なら一体、タツヒコをこんな風に操って、僕を襲わせたのは誰なのか。
自分の意思?
それだけでこんな呪術めいたことまでやらないだろう。
「全身にチョコを塗りたくって……これってモリケンへのバレンタインの贈り物のつもりかな? ……うふ」
「あのな……? そういう悪趣味な冗談は、ホント……やめてくれ……」
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