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第464話 エンドレス・バレンタイン(6) at 1996/2/14
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「なにをををひとりりりでぶつぶついいいってやがるるるんだあああ? 古ノ森ぃいいい!」
うひ――タツヒコだったモノにまで今の会話は届かなかったらしい。
いや、もしかするとすでに、まともな言語理解能力すらないのかもしれない。
ずるり、と舌なめずりしてにじりよるタツヒコだったモノから距離を置くように僕は下がる。
「おいおい、そんなに近寄らないでくれよ。ただでさえ怖くて、今にも漏らしそうだってのに」
「うううそおおおだあああねえええ! おまおまおまえから恐怖の匂いはしてしてしてねえ!」
そこで僕は、無駄そうなので怖がっているフリを即座にやめてそっと溜息をついた。
「……やっぱり匂いか。そんなに臭いかな、僕。ショックなんだけど?」
「おれおれおれさまの鼻は、おまおまえがどこにいていてもすぐわかわかるんだぜえ!」
タツヒコだったモノはそう言って顔をあげ、自慢の鼻を天に向けて伸ばした。
「そのかかかわり、目がすこしししばかりみにくくくなったけどぉおお、問題はねぇえええ!」
「……いちいち吼えるな。がなり立てるなよ。昔からそうだ、お前は。声で威圧するタイプだ」
「うるるうるせぇええええええ!」
タツヒコだったモノはいらだちのあまり雄叫びをあげながら両手でざんばらの長髪をかきむしった。それでも低く這いつくばるような姿勢は崩れない。かくうちに頭皮から血が噴き出す。
「おまおまおまえまえになにがわかわかかる!? 利口ぶるのをやめめろ、クソ陰キャ野郎!」
「……わからないね。さっぱりさ。だから、こうして直接聞いてるんじゃないか」
くそっ――隙がない。時間稼ぎの会話のネタがどんどん消費されていく。なるべく気取られないように目だけを動かし、タツヒコだったモノの背後にある、さっきのドアまでのルートを、
「――なににかたくくらんででる匂いがするうううなぁあああー! 古ぉノ森ぃいいいー!!」
くそっ!
匂いから、相手の感情や思考まで読めるだなんて、あまりにチート能力すぎるだろ!?
こうなったら――僕はドア目指して駆け出したが、タツヒコだったモノの方が反応が早い。器用に四つ足の体勢のまま這い進むと、たちまちドアに取りついて、一気にチカラを込めた。
――めしり!
「――うひ――ばかだおまえええ! うひひひひひ! これでえドアはあああ使えな――!」
「……さっきも言ったけどな? 馬鹿に馬鹿呼ばわりされるのは不愉快なんだよ」
はっ――タツヒコだったモノは振り返る。
しかし、そこには僕の姿は影もカタチもなかった。
なぜなら僕が目指したのは、さっきのとは反対側に建てられたドアの方だったからだ。
ひとりでに内側から開いたドアを右手で掴み、僕はそこで足を止めると、勝ち誇っていたタツヒコだったモノに向けて肩越しにこう告げた。
「一周目のアオハルを、勉強漬けで無駄に過ごしちまった天才のなりそこないをなめてもらっちゃ困る。お前に身体能力でかなうはずがないだろ? 僕には知恵と、仲間がいるからな」
「あ――! 古ノ森リーダー! は、早くこっちへ!」
職員室からカギを受け取った佐倉君からのトランシーバ―越しの通信は絶妙のタイミングだった。だが、そのまま僕が来るまで佐倉君がその場で待機していたのは少しマズい判断だ。
『――おまえのすべてをめちゃくちゃにしてやる――おまえのたいせつなものすべてを――!』
もちろん、佐倉君はその大切なものの中のひとりだから。
「佐倉君! 逃げろといったはずだ! アイツが狙ってるのは僕だけじゃないんだ! 急げ!」
「で、でも……! 僕の足なら……!」
「ダメだ! 今のアイツをニンゲンの尺度で考えたらダメなんだ! 先に行け! 今すぐだ!」
うひ――タツヒコだったモノにまで今の会話は届かなかったらしい。
いや、もしかするとすでに、まともな言語理解能力すらないのかもしれない。
ずるり、と舌なめずりしてにじりよるタツヒコだったモノから距離を置くように僕は下がる。
「おいおい、そんなに近寄らないでくれよ。ただでさえ怖くて、今にも漏らしそうだってのに」
「うううそおおおだあああねえええ! おまおまおまえから恐怖の匂いはしてしてしてねえ!」
そこで僕は、無駄そうなので怖がっているフリを即座にやめてそっと溜息をついた。
「……やっぱり匂いか。そんなに臭いかな、僕。ショックなんだけど?」
「おれおれおれさまの鼻は、おまおまえがどこにいていてもすぐわかわかるんだぜえ!」
タツヒコだったモノはそう言って顔をあげ、自慢の鼻を天に向けて伸ばした。
「そのかかかわり、目がすこしししばかりみにくくくなったけどぉおお、問題はねぇえええ!」
「……いちいち吼えるな。がなり立てるなよ。昔からそうだ、お前は。声で威圧するタイプだ」
「うるるうるせぇええええええ!」
タツヒコだったモノはいらだちのあまり雄叫びをあげながら両手でざんばらの長髪をかきむしった。それでも低く這いつくばるような姿勢は崩れない。かくうちに頭皮から血が噴き出す。
「おまおまおまえまえになにがわかわかかる!? 利口ぶるのをやめめろ、クソ陰キャ野郎!」
「……わからないね。さっぱりさ。だから、こうして直接聞いてるんじゃないか」
くそっ――隙がない。時間稼ぎの会話のネタがどんどん消費されていく。なるべく気取られないように目だけを動かし、タツヒコだったモノの背後にある、さっきのドアまでのルートを、
「――なににかたくくらんででる匂いがするうううなぁあああー! 古ぉノ森ぃいいいー!!」
くそっ!
匂いから、相手の感情や思考まで読めるだなんて、あまりにチート能力すぎるだろ!?
こうなったら――僕はドア目指して駆け出したが、タツヒコだったモノの方が反応が早い。器用に四つ足の体勢のまま這い進むと、たちまちドアに取りついて、一気にチカラを込めた。
――めしり!
「――うひ――ばかだおまえええ! うひひひひひ! これでえドアはあああ使えな――!」
「……さっきも言ったけどな? 馬鹿に馬鹿呼ばわりされるのは不愉快なんだよ」
はっ――タツヒコだったモノは振り返る。
しかし、そこには僕の姿は影もカタチもなかった。
なぜなら僕が目指したのは、さっきのとは反対側に建てられたドアの方だったからだ。
ひとりでに内側から開いたドアを右手で掴み、僕はそこで足を止めると、勝ち誇っていたタツヒコだったモノに向けて肩越しにこう告げた。
「一周目のアオハルを、勉強漬けで無駄に過ごしちまった天才のなりそこないをなめてもらっちゃ困る。お前に身体能力でかなうはずがないだろ? 僕には知恵と、仲間がいるからな」
「あ――! 古ノ森リーダー! は、早くこっちへ!」
職員室からカギを受け取った佐倉君からのトランシーバ―越しの通信は絶妙のタイミングだった。だが、そのまま僕が来るまで佐倉君がその場で待機していたのは少しマズい判断だ。
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もちろん、佐倉君はその大切なものの中のひとりだから。
「佐倉君! 逃げろといったはずだ! アイツが狙ってるのは僕だけじゃないんだ! 急げ!」
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