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第462話 エンドレス・バレンタイン(4) at 1996/2/14

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 ――うひ――うひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!!



(くそっ! くそくそくそくそっ! どこだ! どこに行けばいい!?)


 まるで悪夢だ。
 いや、今まで見たどんな悪夢よりタチが悪い。


 僕はどこからともなく響き渡る嘲弄に急き立てられるように、ワックスの効いた廊下を必死に走り続けた。行き交う生徒たちにわめき散らし、道を空けろと怒鳴り続けながら必死に走る。


(どこが安全だ!? どこなら安心できる!? どこならんだ!?)


 昼休みの今は、どこに行っても生徒だらけだ。ちょうど昼食を終えて、次々と教室から出てくる生徒たちを避けるようにして僕は走った。そのうち、階下の遠くの方から悲鳴が聴こえた。


(ついに侵入してきたってことかよ! くそっ、どうしてアイツには僕の居場所がわかる!?)


 あの日もそうだった。
 水無月笙氏の尾行に失敗した帰り道のことだ。

 どんなに速度を上げても、どんなに複雑なルートを通ろうとも、タツヒコは正確に、いや、馬鹿正直なまでに僕の歩いた道をそのままなぞるように追跡してきていたように思えたのだ。


(匂い……気配……いやいや、この際、そんなことはどうだっていい! ついてくるなら――)


 どうやってもタツヒコからは逃げきれないのであれば、それを逆手に取るしかない。


(誰もいない広い場所………………屋上か……!)


 アクション映画ならチェックメイトになるだろうそこしか思いつかない。どのみち上へ上へと逃げ続けている限り、いずれは行き止まりになる。ならば、屋上で対決するしかない。

 だが、西町田中学校の屋上は、原則的に立ち入り禁止だ。なので、ドアは常に施錠されている。しかし、窓ガラスを割って開けるなり、なにかしらやりようはきっとあるはずだ。


 ――だだだだだっ!
 ――だだだだだっ!


 最後の階段を駆け上り、遺棄されていた古びた椅子を手に取って大きく振りかぶった。



 ――がつん――がつん――みしり!



「う……くそっ! 網入りガラスじゃないか! これじゃ……割りようがない!」


 封入されたワイヤーのせいで、どんなにチカラを込めても、割れも砕けもしない。わずかにひびが入っただけだ。衝撃が伝わり、手がしびれる。じわり、と汗で湿って握る手が滑る。



 ――うひ――うひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!!



「くそっ……こうなったらここで――はっ!?」


 屋上へとつながるドアのノブを見て、僕の頭にひとすじの光明が差した。うわばきをはぎ取るようにして右手で掴むと、一気にななめ45°の角度からドアノブめがけて振り下ろした。


「このタイプのドアロックは、こうやれば開くんだぜ! だったよな、ハカセ!?」



 ――がつん――かちゃり!

 一発で開いた!
 ついてるぞ!



 僕は肩で押し退けるようにしてドアを開け放つと、誰もいない広い屋上に足をもつらせながら駆け出る。そして、もう一方の屋上のドアとの中間あたりの位置まで一気に走った。


(どっちだ……!? タツヒコはどっちからくる気だ……!?)



 ――うひ。



 その時、這いずる蜘蛛のように、四階の一年の教室のある外壁あたりから、タツヒコが、がさり、と姿を現した。まさか、ベランダから壁づたいに登ってくるとは予想もしていなかったのだ。


(う……嘘……だろ……!? アイツは一体、『何』になっちまったっていうんだよ……!?)


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