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第460話 エンドレス・バレンタイン(2) at 1996/2/14

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「あ、あの……っ! こ、古ノ森クン……いますか……? どうしても……会いたくて……!」


 それは、いつものとおり『電算研』の仲間たちの昼食を終えたあとのことだった。教室のうしろのドアのあたりから、か細い声をなんとか振り絞って僕を呼ぶ声がしたのだ。


 反射的にそっちを向いて――思わず、ぎょっ、とする。


「な、なんで君がここに……!?」


 そして僕は――正面を向いて、ぎょっ。


「ちちちちょーっと待って! スミちゃん! すね、蹴るのやめて! 痛い、痛いからぁ!」

「うふ……うふふふふふふふふふふ。ふーん……モテるんだねー、ケンタくーん……」

「なんかの勘違いだって! そういうんじゃないんだって! だって、僕とカノジョは――!」

「カ・ノ・ジ・ョ・ね……。うふ……うふふふふふふふふふふ!!」


 ――殺される!?

 黒くて凍えるように冷たく、底知れない禍々しさのオーラが純美子の背後からゆらめきたつ。


 僕はその場に座り続けることができずに転げるように椅子から降りると、どこか、ぽけーっ、と傍観している声の主のところまで文字どおり四本足で這うように駆けつけた。そして言う。


「誤解を生むような言い方はやめて! 僕と君は、そういうカンケイじゃないでしょうが!!」

「はぁ?」


 ん? 何言ってるの、って表情を浮かべてから、目の前のひょろりとしたカノジョは言った。


「そういうカンケイ……って、この場合、です?」

「選択肢ないからね? どれ、もなにも、選びようがないでしょうが。あいかわらずだなぁ」

「いえ、そんなことはどうでもいいんですよ、古ノ森君」


 まわりの好奇の視線も物ともせず、二年一組の『草食動物系不思議少女』三溝さんは言う。


「タイヘンですよ、もう! 古ノ森君のせいです! 変なハナシするから……あ、チョコです」

「えっ!? ……あ、ども」


 ついでのついでに渡されたチョコレートをよく見ると、五円玉のカタチを模した駄菓子だ。

 いやいやいや。『ごえんがあるよ』じゃねえよ。
 どうしてこれを僕に渡そうと思ったんだよ。


「タイヘン……ってなんのハナシさ?」

「アイツ、ですよ! 出たんです!」


 それを聞いた瞬間、ぐ、と思わず反射的に僕のカラダはこわばった。


「出たって………………まさか、感化院からか!?」

「あ。それは知らないですけど」

「……は、はい? ……ええと、じゃあどこから?」

「どこから……? どこに? じゃなくてですか?」

「それを聞いてるのは僕なんだよなぁ」


 深々と眉間に刻まれた悩みじわを見ているとこっちのペースまでおかしくなりそうだ。三溝さんはしばらくぶつぶつとつぶやきながらハナシを整理して、それからもう一度話しはじめた。


「アイツ――赤川龍彦――うわ、ヤバっ! フルネームで呼んじゃった! ――が、咲山団地商店街の裏の森に出たらしいんですよ! ほら、木曽根咲山のコミセンの裏あたりですって!」

「出た、って……そういうことね。アイツはタヌキかなにかなのか……?」


『商店街の裏の森』と言っても、元は調整池だったところのまわりに雑木林がある程度の規模だ。ぐるりとコンクリートで歩道も敷かれているので、通学路に使ったり、散歩したりする人だっている。要は、森と呼ばれるほどの森じゃないってことだ。身を隠すには不向きだろう。





 では――なぜそこにいた?





「その、目撃されたのっていつのハナシなんだい、三溝さん?」

「今朝、です! え………………ああっ、アレってまさか!?」


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