455 / 539
第453話 サニー・デイ・ホリデイ(2) at 1996/2/12
しおりを挟む
「……まーた、難しい顔してる」
むにゅり――純美子の人さし指が僕の右の頬にやさしくねじこまれる。
「さてさて、頑張り屋さんで、みんなのヒーローのケンタ君のお悩みごとはなにカナー?」
「ご――ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてただけだって」
「………………大スキなカノジョとのデート中にですかー?」
「うっ……すみません」
ぷぅ、と子どもっぽい仕草で両手を腰に当てた純美子がふくれてみせる。僕は平謝りするしかない。今は二周目の中学時代のアオハル真っ最中で、後悔を取り戻すための『リトライ中』だってのに。なんでこう、昔のことばっかり思い出して、センチメンタルに浸ってるんだ。
「う・そ。スミ、ちっとも怒ってないからね」
よほど僕の顔はしょんぼりしているように見えたのだろう。
純美子の人さし指が、僕のくちびるの端っこを強引に、ぐいっ、と引き上げる。
「そんなことでいちいち怒ってたら、ケンタ君のカノジョやってられないもーん。でしょ?」
「ありがと……っていうか、もっと申し訳ない気持ちになってきたんですが」
「い・ま・さ・ら、だよ? そんなケンタ君だからスキになったんだもーん」
なんだか今日はやけにスキスキ連発してくる純美子さんである。
しかしだ。今僕らがいる『鶴岡八幡宮』は、武家社会の護り神として広く崇敬されてきた。なかでも勝負運・仕事運・出世運ご利益ありと信じられており、時期的に受験生らしき参拝者が多いようだ。
そんななかで僕らはイチャコラしているわけで。
ヘイト値の上昇がハンパない。
今すぐ賽銭箱の前からどくか爆発しろ! という無言の圧力に屈した僕は純美子の手を引く。
「ちょ――ちょーっと場所移動しよっか、スミちゃん?」
「えー? 場所を変えてー……それから何をする気なのカナー?」
「ぶっ! い、いやいやいや! 行こう、うん行こう! 天気がいい鎌倉はサイコーだなー!」
ダメだ、今すぐ移動しないと境内にいる参拝客全員が暴徒化する……!
不思議そうな顔つきの純美子と、こそこそと人目を避けるように顔を伏せる僕。ざり、ざり、と玉砂利を踏み鳴らして次なる目的地へと急ぐ。すっかり葉を散らした大イチョウをくぐり、階段を降りたところで、ふと、僕は気になっていたことを尋ねてみることにした。
「そういえばさ、なんで鎌倉がよかったの、スミちゃん?」
純美子は、あっ、と小さく声をあげたと思ったら、頬を赤らめて黙り込んだ。
それから囁く。
「ま、前に来た時にはね? ロコちゃんと……半分こだったでしょ?」
「……ん? うん」
「今日はスミが、ケンタ君を……ひとりじめしたかった……から……」
「………………う、うん、そっか」
なにこのかわいい生き物。
萌え死ぬぅううう。
おかげでふたりしてぽかぽか。真っ赤になった顔も、つないだ手のぬくもりも。あっつい。
参道の先にある太鼓橋を渡り、道なりに右に折れると、佐倉君が見たがっていた『鎌倉十井』のひとつ、『鉄の井』がある。その角を曲がると『小町通り』だ。鎌倉らしい町並みにカフェやレストランが立ち並んでいて、そこかしこからいい匂いが漂ってきた。
「ね? ね? クレープ! ちょっと食べたくない?」
「いいね。行こう」
立ち寄った緑色のお店は、なんともレトロなフンイキが満載だった。しかし、メニューの書かれた黒板みたいなのはあるけれど、サンプルも写真も見当たらない。仕方ないので、券売機の前でボタンに書かれた文字とにらめっこして悩む僕たち。
うーんと……これだ!
「あたしは抹茶シュガーにしてみたよ! ケンタ君は?」
「僕は、イチオシっぽいレモンシュガーさ。ほら、目の前で焼いてくれるみたいだよ?」
はい、どうぞ――あっという間にできあがりだ。
受け取ったほかほかもちもちのクレープをかじりながら歩き出すと、僕のコートのポケットに隣に並んだ純美子の手が潜りこんできて、やさしく指をからませた――ぎゅっ。
むにゅり――純美子の人さし指が僕の右の頬にやさしくねじこまれる。
「さてさて、頑張り屋さんで、みんなのヒーローのケンタ君のお悩みごとはなにカナー?」
「ご――ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてただけだって」
「………………大スキなカノジョとのデート中にですかー?」
「うっ……すみません」
ぷぅ、と子どもっぽい仕草で両手を腰に当てた純美子がふくれてみせる。僕は平謝りするしかない。今は二周目の中学時代のアオハル真っ最中で、後悔を取り戻すための『リトライ中』だってのに。なんでこう、昔のことばっかり思い出して、センチメンタルに浸ってるんだ。
「う・そ。スミ、ちっとも怒ってないからね」
よほど僕の顔はしょんぼりしているように見えたのだろう。
純美子の人さし指が、僕のくちびるの端っこを強引に、ぐいっ、と引き上げる。
「そんなことでいちいち怒ってたら、ケンタ君のカノジョやってられないもーん。でしょ?」
「ありがと……っていうか、もっと申し訳ない気持ちになってきたんですが」
「い・ま・さ・ら、だよ? そんなケンタ君だからスキになったんだもーん」
なんだか今日はやけにスキスキ連発してくる純美子さんである。
しかしだ。今僕らがいる『鶴岡八幡宮』は、武家社会の護り神として広く崇敬されてきた。なかでも勝負運・仕事運・出世運ご利益ありと信じられており、時期的に受験生らしき参拝者が多いようだ。
そんななかで僕らはイチャコラしているわけで。
ヘイト値の上昇がハンパない。
今すぐ賽銭箱の前からどくか爆発しろ! という無言の圧力に屈した僕は純美子の手を引く。
「ちょ――ちょーっと場所移動しよっか、スミちゃん?」
「えー? 場所を変えてー……それから何をする気なのカナー?」
「ぶっ! い、いやいやいや! 行こう、うん行こう! 天気がいい鎌倉はサイコーだなー!」
ダメだ、今すぐ移動しないと境内にいる参拝客全員が暴徒化する……!
不思議そうな顔つきの純美子と、こそこそと人目を避けるように顔を伏せる僕。ざり、ざり、と玉砂利を踏み鳴らして次なる目的地へと急ぐ。すっかり葉を散らした大イチョウをくぐり、階段を降りたところで、ふと、僕は気になっていたことを尋ねてみることにした。
「そういえばさ、なんで鎌倉がよかったの、スミちゃん?」
純美子は、あっ、と小さく声をあげたと思ったら、頬を赤らめて黙り込んだ。
それから囁く。
「ま、前に来た時にはね? ロコちゃんと……半分こだったでしょ?」
「……ん? うん」
「今日はスミが、ケンタ君を……ひとりじめしたかった……から……」
「………………う、うん、そっか」
なにこのかわいい生き物。
萌え死ぬぅううう。
おかげでふたりしてぽかぽか。真っ赤になった顔も、つないだ手のぬくもりも。あっつい。
参道の先にある太鼓橋を渡り、道なりに右に折れると、佐倉君が見たがっていた『鎌倉十井』のひとつ、『鉄の井』がある。その角を曲がると『小町通り』だ。鎌倉らしい町並みにカフェやレストランが立ち並んでいて、そこかしこからいい匂いが漂ってきた。
「ね? ね? クレープ! ちょっと食べたくない?」
「いいね。行こう」
立ち寄った緑色のお店は、なんともレトロなフンイキが満載だった。しかし、メニューの書かれた黒板みたいなのはあるけれど、サンプルも写真も見当たらない。仕方ないので、券売機の前でボタンに書かれた文字とにらめっこして悩む僕たち。
うーんと……これだ!
「あたしは抹茶シュガーにしてみたよ! ケンタ君は?」
「僕は、イチオシっぽいレモンシュガーさ。ほら、目の前で焼いてくれるみたいだよ?」
はい、どうぞ――あっという間にできあがりだ。
受け取ったほかほかもちもちのクレープをかじりながら歩き出すと、僕のコートのポケットに隣に並んだ純美子の手が潜りこんできて、やさしく指をからませた――ぎゅっ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる