上 下
430 / 539

第428話 追跡者(3) at 1996/1/12

しおりを挟む
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」


 ずっと――ずっと走っている。
 なのに、その距離は離れるどころか縮まっている気さえした。


「く……そ……っ! どうして……こんなことに……っ! まさか……あの人が……!?」


 否――これは単なる偶然にすぎない。


 そもそも、あの人とに接点はないはずだ。
 あってたまるものか。

 そもそも、そこまでして僕を排除しようとする理由が、その動機が、あの人にはないからだ。


 水無月笙――ツッキーのパパ。

 笙パパは、あくまで僕の身を案じて忠告してくれたに過ぎない。笙パパは、僕にはわからない笙パパだけの望みと願いがあって、それを成就させるためには一切の邪魔が入らないようにする必要があるのだと言っていた。だからこその危機察知スキルであり、あくまでついでだ。


 けれど――けれど。


「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」


 の再登場は、誰がどう考えてもあり得ないことだった。もう舞台からは降りたはずだったのに。すべての役から外されて、二度と顔を見ることはない、そうなったはずだったのに。


「はぁ……! く……そ……っ! アイツはどうやって僕を正確に追ってきてるんだ……!?」


 路線バスに乗るというアイディアは真っ先に崩された。もしも仮にタイミングよくバスがやってきたとしても、追いつかれて乗り込まれてしまったら、もう僕に逃げ場はない。あまりにもリスクが高い。それに、他の乗客にまで被害が及ぶ可能性だってゼロではないのだ。


 ――うひ――ひひひっ!!


 陽が落ちた暗い道のいずこからか、獣じみた、まるで獲物を追うハイエナのような叫び声が聴こえた。僕は、ごくり、と唾を飲み、わずかに走る速度を落として周囲を用心深く見回す。見える限りの範囲には――いないと思う。確信なんてできない。何も信じられないのだから。


 ――うひっ――こぉーのぉーもぉーりぃー!!


「どこだ! なぜ僕を追ってくる!? お前の目的は――!!」


 ――なにもかもぉーおまえのぉーせいだからなぁー!!


「逆恨みもたいがいにしろよ! 自業自得だろ!!」


 ――おまえのよぉーすべてをぉーめちゃくちゃにしてやるぜぇー!!


「くそ……っ! やるなら正面から来い! 僕ひとりでじゅうぶんだろ!!」


 ――おまえのぉーたいせつなものぉーすべてだぜぇー!! うひ――うひひひひひっ!


 視界の隅の薄暗がりから影が走り、別の暗闇へと移動した。徐々に、だんだんと僕のいる方へと近づいてくる。ここではあまりにも不利だ。暗くて、相手の顔どころか動きが見えない。


(もしかして――ロコの時と同じなのか?)


 僕は再び走り出した。
 そして考えるのだ。


(僕の未来を、元のどうしようもないものへ戻すために、アイツは送り込まれたんじゃ――?)


 僕の背中に向けて、狂気に満ちた愉悦の嘲弄ちょうろうが、こだまのように浴びせられる。



 ――うひ――うひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

処理中です...