421 / 539
第419話 誤解と、嫉妬と at 1996/1/1
しおりを挟む
「君って奴はどこまで……! 今すぐロコから離れろ、モリケン! さもないと……!!」
女の子なら誰もが憧れる、学年いや学校一の美少年。
スポーツ万能で、誰にでも優しくて、誰からも好かれていて。
それでいて、好きな人のためなら命をも投げ出す覚悟と強い信念を持った――。
その室生秀一という爽やかさを具現化したかのような少年が、凄惨な鬼相を浮かべていた。
「待て! ムロはなんか誤解してる! ハナシを――聞いてくれ!」
「うるさい! もう君の言葉には騙されない! 僕はもう――真実を知ってるんだからな!」
「真実、って、一体なんの――」
――がつん!
一気に僕のカラダは引き剥がされ、鈍い痛みとともに目の前にまばゆい光の花が咲いては消えた。つ――と生温かい錆の臭いのする、どろり、としたモノが這い出てきて息苦しくなる。
「君はどこまでロコのココロを傷つければ気が済むんだ! 君に……そんな権利なんてない!」
「待て、って。僕の、ハナシも、聞いてくれ、って。何か、誤解が――」
――がつん!
また色のない花火が目の前で弾けた。
ピントがズレる。
カラダのバランスが崩れる。
「やめて! やめてよ、ムロ! 違うから! 違うんだって! あたしが『スキ』なのは――」
「……モリケン、だろ? 僕は……知ってる。知ってたんだ。……そう、あの頃から、ずっと」
ロコは必死に叫んだが――室生はロコの泣き顔をじっと見つめると、静かにそう告げた。ロコは――何も言えずに、そっと、口を閉じる。
「小学校の五年と六年。同じ四組になったあの頃からずっと。いいや、きっともっと前からなんだろ? それでも僕は、大切な友だちだと思って、君とも仲良くしようと思った。がんばった。努力したんだ。でも……君がロコの気持ちに気づかないのがどうしても許せなかった……」
「ご……ごめん」
「さっきも言ったはずだぞ? 悪いのは君じゃない。それをわかっていながら君は謝る。そこなんだよ、僕がどうしても君を好きになれないところは! 僕の方が……僕の方が……っ!!」
――がつん!
「が――っ!?」
思わずひざをつきそうになる。
それでも僕は、立っていなければならない、そう思った。
やれやれ――と同時に思う。
(すっかりオトナなんだな、僕は。話せばわかるはず、なんて思い込んでるんだから。ははは)
鼻から出たのか口の中を切ったのかわからない血を拳でぬぐいさり、室生に笑いかけてやる。
「よ――よかったな、ムロ。ここなら誰も来ないし、誰も見てない。思う存分、今までの仕返しができるぞ。学校一の人気者が、底辺陰キャに恋のかけ引きで負けただなんて、恥ずかしくって言えないもんな。大事なカノジョが怖い目にあってたってのに、助けたのはこの僕だぜ?」
――がつん!
「しかも、ロコが助けを求めたのも僕だぜ? おいおい、なんとも頼りないじゃないかよ、二枚目! ちゃんとしっかりカノジョを守ってやれないのなら、この僕が替わってやろうか!」
――がつん!
「ぐ――っ」
さすがにもう限界だった。
ムロの離れ際の一撃が、見事に僕のあごをとらえていた。
よろよろあとずさり、僕はスローモーションであおむけに倒れた。
ロコが駆け寄ってくる。
「ケンタ! あんた大丈――!」
「おい、ロコ……。ここで僕に手を貸しちゃダメなんだぜ……。僕よりもっと……もっともっと傷ついてる奴がいるじゃないか。ムロを……追いかけてやれ。そして、抱きしめてやれ……」
女の子なら誰もが憧れる、学年いや学校一の美少年。
スポーツ万能で、誰にでも優しくて、誰からも好かれていて。
それでいて、好きな人のためなら命をも投げ出す覚悟と強い信念を持った――。
その室生秀一という爽やかさを具現化したかのような少年が、凄惨な鬼相を浮かべていた。
「待て! ムロはなんか誤解してる! ハナシを――聞いてくれ!」
「うるさい! もう君の言葉には騙されない! 僕はもう――真実を知ってるんだからな!」
「真実、って、一体なんの――」
――がつん!
一気に僕のカラダは引き剥がされ、鈍い痛みとともに目の前にまばゆい光の花が咲いては消えた。つ――と生温かい錆の臭いのする、どろり、としたモノが這い出てきて息苦しくなる。
「君はどこまでロコのココロを傷つければ気が済むんだ! 君に……そんな権利なんてない!」
「待て、って。僕の、ハナシも、聞いてくれ、って。何か、誤解が――」
――がつん!
また色のない花火が目の前で弾けた。
ピントがズレる。
カラダのバランスが崩れる。
「やめて! やめてよ、ムロ! 違うから! 違うんだって! あたしが『スキ』なのは――」
「……モリケン、だろ? 僕は……知ってる。知ってたんだ。……そう、あの頃から、ずっと」
ロコは必死に叫んだが――室生はロコの泣き顔をじっと見つめると、静かにそう告げた。ロコは――何も言えずに、そっと、口を閉じる。
「小学校の五年と六年。同じ四組になったあの頃からずっと。いいや、きっともっと前からなんだろ? それでも僕は、大切な友だちだと思って、君とも仲良くしようと思った。がんばった。努力したんだ。でも……君がロコの気持ちに気づかないのがどうしても許せなかった……」
「ご……ごめん」
「さっきも言ったはずだぞ? 悪いのは君じゃない。それをわかっていながら君は謝る。そこなんだよ、僕がどうしても君を好きになれないところは! 僕の方が……僕の方が……っ!!」
――がつん!
「が――っ!?」
思わずひざをつきそうになる。
それでも僕は、立っていなければならない、そう思った。
やれやれ――と同時に思う。
(すっかりオトナなんだな、僕は。話せばわかるはず、なんて思い込んでるんだから。ははは)
鼻から出たのか口の中を切ったのかわからない血を拳でぬぐいさり、室生に笑いかけてやる。
「よ――よかったな、ムロ。ここなら誰も来ないし、誰も見てない。思う存分、今までの仕返しができるぞ。学校一の人気者が、底辺陰キャに恋のかけ引きで負けただなんて、恥ずかしくって言えないもんな。大事なカノジョが怖い目にあってたってのに、助けたのはこの僕だぜ?」
――がつん!
「しかも、ロコが助けを求めたのも僕だぜ? おいおい、なんとも頼りないじゃないかよ、二枚目! ちゃんとしっかりカノジョを守ってやれないのなら、この僕が替わってやろうか!」
――がつん!
「ぐ――っ」
さすがにもう限界だった。
ムロの離れ際の一撃が、見事に僕のあごをとらえていた。
よろよろあとずさり、僕はスローモーションであおむけに倒れた。
ロコが駆け寄ってくる。
「ケンタ! あんた大丈――!」
「おい、ロコ……。ここで僕に手を貸しちゃダメなんだぜ……。僕よりもっと……もっともっと傷ついてる奴がいるじゃないか。ムロを……追いかけてやれ。そして、抱きしめてやれ……」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる