412 / 539
第410話 じゃあね、また at 1995/12/24
しおりを挟む
「じゃ――じゃあね、また」
「うん。次会うのはお正月だね! ……ちょっと寂しいけど、ウチにはモーリもいるし。うん」
「モ、モーリ?」
「あっ! あ、あの……えーっと――」
純美子は思わぬ失言に慌てたように首をすくめてマフラーに顔をうずめると、こう続ける。
「お誕生日の時に、ケンタ君がプレゼントしてくれた、シロイルカのぬいぐるみの名前なの。ホントは……ケ、ケンタって付けようかと思ったんだけど、パパとママに冷やかされそうで」
「そ――そうなんだ……」
すでにご両親にもバレてる!?
って言い方が悪いか。
純美子は素直で嘘がつけないから、ストレートに話してしまっていたとしても不思議じゃない。でなくとも、娘が毎日るんるんで学校に行っていたら、ははぁん、と察するだろう。それに、いくつかのプレゼントもそのうち家族にはバレる。特に大きなイルカのぬいぐるみなんて。
「気に入っててかわいがってくれてるなら、僕もうれしいよ。じゃあ、空の旅、気をつけてね」
「うん。おみやげも買ってくるから。ケンタ君だけに……」
「いやいやいや! いいのに。スミちゃんが無事ならそれだけで」
「じゃあ、帰ってきたら――」
こしょこしょこしょ――。
唐突に僕の耳元を少し冷たい手で覆い、純美子はひとことふたこと囁いた。純美子のまとう甘い香りと囁き声のなまめかしさに、僕のカラダがわずかに跳ねる。そして、僕も赤くなった。
「こ、こら! えっちなことを想像させるんじゃありません!」
「勝手にえっちなことを想像したのはケンタ君ですー。うふふ」
ななななんてこと言い出すのさ。
この清楚系文学美少女は!
ホントに一周目の純美子のイメージと違いすぎていて、とまどうんですけど……もう。
「えへへへ。ジョ、ジョーダンだよっ! 期待しすぎ、ケンタ君!」
「心臓に悪い……」
まんざらジョーダンでもなさそうな顔をしているところが怖いところでもある。
「じゃあ……そろそろ商店街だから……ね?」
「あ、うん。気をつけてね」
「じゃなくて。もうっ」
ぎゅーっ。
純美子が僕のカラダを精いっぱいのチカラをこめて抱きしめる。僕も抱きしめ返す。
「はぁ……これでケンタ君成分たっぷりいただきました!」
「栄養なさそうだね、それ……。ぼ、僕はうれしいけど」
「いーの! じゃあ、初詣、楽しみにしててね! またねー!」
僕はそのままその場に立ち尽くし、買い物客の行き交う中にそのたまらなく愛しい少女の姿が消えて見えなくなるまで黙って見送っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
僕は戻ってくるなりいつもの習慣で、ポストを開けて中身を確認してから、左上隅を手探りで触り――かさり――手に伝わった乾いた感触に少し驚きながらも、取り出して広げてみる。
『昨日はごめん。純美子とうまくいってるみたいでよかったじゃん。願いが叶ったね、ケンタ』
よく見慣れたロコの字だった。
とりわけキレイでも汚くもない、ロコのていねいな字だった。
「人を二階から突き落としておいてよく言うぜ……まったく」
でも僕の顔は、そんな皮肉めいたセリフとは裏腹に自然と微笑んでいたのだった。
「うん。次会うのはお正月だね! ……ちょっと寂しいけど、ウチにはモーリもいるし。うん」
「モ、モーリ?」
「あっ! あ、あの……えーっと――」
純美子は思わぬ失言に慌てたように首をすくめてマフラーに顔をうずめると、こう続ける。
「お誕生日の時に、ケンタ君がプレゼントしてくれた、シロイルカのぬいぐるみの名前なの。ホントは……ケ、ケンタって付けようかと思ったんだけど、パパとママに冷やかされそうで」
「そ――そうなんだ……」
すでにご両親にもバレてる!?
って言い方が悪いか。
純美子は素直で嘘がつけないから、ストレートに話してしまっていたとしても不思議じゃない。でなくとも、娘が毎日るんるんで学校に行っていたら、ははぁん、と察するだろう。それに、いくつかのプレゼントもそのうち家族にはバレる。特に大きなイルカのぬいぐるみなんて。
「気に入っててかわいがってくれてるなら、僕もうれしいよ。じゃあ、空の旅、気をつけてね」
「うん。おみやげも買ってくるから。ケンタ君だけに……」
「いやいやいや! いいのに。スミちゃんが無事ならそれだけで」
「じゃあ、帰ってきたら――」
こしょこしょこしょ――。
唐突に僕の耳元を少し冷たい手で覆い、純美子はひとことふたこと囁いた。純美子のまとう甘い香りと囁き声のなまめかしさに、僕のカラダがわずかに跳ねる。そして、僕も赤くなった。
「こ、こら! えっちなことを想像させるんじゃありません!」
「勝手にえっちなことを想像したのはケンタ君ですー。うふふ」
ななななんてこと言い出すのさ。
この清楚系文学美少女は!
ホントに一周目の純美子のイメージと違いすぎていて、とまどうんですけど……もう。
「えへへへ。ジョ、ジョーダンだよっ! 期待しすぎ、ケンタ君!」
「心臓に悪い……」
まんざらジョーダンでもなさそうな顔をしているところが怖いところでもある。
「じゃあ……そろそろ商店街だから……ね?」
「あ、うん。気をつけてね」
「じゃなくて。もうっ」
ぎゅーっ。
純美子が僕のカラダを精いっぱいのチカラをこめて抱きしめる。僕も抱きしめ返す。
「はぁ……これでケンタ君成分たっぷりいただきました!」
「栄養なさそうだね、それ……。ぼ、僕はうれしいけど」
「いーの! じゃあ、初詣、楽しみにしててね! またねー!」
僕はそのままその場に立ち尽くし、買い物客の行き交う中にそのたまらなく愛しい少女の姿が消えて見えなくなるまで黙って見送っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
僕は戻ってくるなりいつもの習慣で、ポストを開けて中身を確認してから、左上隅を手探りで触り――かさり――手に伝わった乾いた感触に少し驚きながらも、取り出して広げてみる。
『昨日はごめん。純美子とうまくいってるみたいでよかったじゃん。願いが叶ったね、ケンタ』
よく見慣れたロコの字だった。
とりわけキレイでも汚くもない、ロコのていねいな字だった。
「人を二階から突き落としておいてよく言うぜ……まったく」
でも僕の顔は、そんな皮肉めいたセリフとは裏腹に自然と微笑んでいたのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる