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第410話 じゃあね、また at 1995/12/24

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「じゃ――じゃあね、また」

「うん。次会うのはお正月だね! ……ちょっと寂しいけど、ウチにはもいるし。うん」

?」

「あっ! あ、あの……えーっと――」


 純美子は思わぬ失言に慌てたように首をすくめてマフラーに顔をうずめると、こう続ける。


「お誕生日の時に、ケンタ君がプレゼントしてくれた、シロイルカのぬいぐるみの名前なの。ホントは……ケ、ケンタって付けようかと思ったんだけど、パパとママに冷やかされそうで」

「そ――そうなんだ……」


 すでにご両親にもバレてる!?
 って言い方が悪いか。

 純美子は素直で嘘がつけないから、ストレートに話してしまっていたとしても不思議じゃない。でなくとも、娘が毎日るんるんで学校に行っていたら、ははぁん、と察するだろう。それに、いくつかのプレゼントもそのうち家族にはバレる。特に大きなイルカのぬいぐるみなんて。


「気に入っててかわいがってくれてるなら、僕もうれしいよ。じゃあ、空の旅、気をつけてね」

「うん。おみやげも買ってくるから。ケンタ君だけに……」

「いやいやいや! いいのに。スミちゃんが無事ならそれだけで」

「じゃあ、帰ってきたら――」



 こしょこしょこしょ――。



 唐突に僕の耳元を少し冷たい手で覆い、純美子はひとことふたこと囁いた。純美子のまとう甘い香りと囁き声のなまめかしさに、僕のカラダがわずかに跳ねる。そして、僕も赤くなった。


「こ、こら! えっちなことを想像させるんじゃありません!」

「勝手にえっちなことを想像したのはケンタ君ですー。うふふ」


 ななななんてこと言い出すのさ。
 この清楚系文学美少女は!

 ホントに一周目の純美子のイメージと違いすぎていて、とまどうんですけど……もう。


「えへへへ。ジョ、ジョーダンだよっ! 期待しすぎ、ケンタ君!」

「心臓に悪い……」


 まんざらジョーダンでもなさそうな顔をしているところが怖いところでもある。


「じゃあ……そろそろ商店街だから……ね?」

「あ、うん。気をつけてね」

「じゃなくて。もうっ」



 ぎゅーっ。



 純美子が僕のカラダを精いっぱいのチカラをこめて抱きしめる。僕も抱きしめ返す。


「はぁ……これでケンタ君成分たっぷりいただきました!」

「栄養なさそうだね、それ……。ぼ、僕はうれしいけど」

「いーの! じゃあ、初詣、楽しみにしててね! またねー!」


 僕はそのままその場に立ち尽くし、買い物客の行き交う中にそのたまらなく愛しい少女の姿が消えて見えなくなるまで黙って見送っていた。





 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





 僕は戻ってくるなりいつもの習慣で、ポストを開けて中身を確認してから、左上隅を手探りで触り――かさり――手に伝わった乾いた感触に少し驚きながらも、取り出して広げてみる。



『昨日はごめん。純美子とうまくいってるみたいでよかったじゃん。願いが叶ったね、ケンタ』



 よく見慣れたロコの字だった。
 とりわけキレイでも汚くもない、ロコのていねいな字だった。


「人を二階から突き落としておいてよく言うぜ……まったく」


 でも僕の顔は、そんな皮肉めいたセリフとは裏腹に自然と微笑んでいたのだった。


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