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第360話 唐突な今昔物語のはじまりはじまり at 1995/12/1

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 今日から師走、十二月だ。

 僕らの『リトライ』も、残り五ヶ月ということになる。つまり、もう半年以上も中学生をやっているわけで、意外なほどライフサイクルがカラダになじんでいるのには驚いた。


 テレビは当然まだアナログ放送だ。

 某国営放送局と民放しかないから、夜更かしして深夜アニメを観る、なんてこともない。

 まあ、BS・CSともに、この当時から放送を開始していたわけなのだけれど、いずれも『アナログ放送』だったのだ。よほどの金持ちか新し物好きでもない限り、個人宅に衛星放送受信機――あの中華鍋みたいなパラボラアンテナの奴だ――なんてものはなく、観れたところで僕ら中学生が望むような番組なぞありもしなかった。


 インターネットもまだない。

 なので、僕の手元にスマホがあろうが、夜通しスクリーンを眺めて過ごすなんてこともない。

 いや、正確に記せば、インターネット通信そのものはきちんと存在していた。ただ、まだ肝心なコンピューター側に通信用の機能がそろっておらず、Windows発売一〇周年となった先月十一月に、デジタル世界の革命とも呼べる『Windows95』の日本語版が発売されたことで、ようやく本格的なコンピューターおよびインターネットの世界が幕を開けるのだ。


 ならば、ゲームはどうかって?

 中学生が徹夜でゲームなんて、とてもじゃないが親は許さない。そういう時代だったんだよ。

 だがしかし、この当時はいわゆる『第四世代』から『第五世代』への過渡期であり、ゲーム業界が活気に満ち溢れ、異常なまでに過熱していた時代だったのだ。

 つまり、スーパーファミコンやPCエンジン、メガドライブにネオジオの、ROMカセット勢が覇権を争っていた『第四世代』から、光ディスクという近未来的――少なくとも当時の僕らにはそう見えた――なメディアをひっさげたプレイステーションやセガサターン、PC―FXやネオジオCDといった――ジャガー? ピピンアットマーク? プレイディア? すまない、そいつらは忘れてくれ――『次世代機』が登場したのである。
 光メディアはROMカセットよりはるかに大容量で量産もたやすい。それにより音質の大幅な向上と美麗なムービーによる演出を取り入れた作品が多数生み出された。また3Dグラフィック機能を搭載したゲーム機が出現したことにより、従来の『ドット絵』から『ポリゴン』へと表現も変化していくこととなって、新進気鋭の若くてチャレンジングなゲーム会社がいくつも新規参入することになった。


 この『転機』がなければ、もしかすると『ホリィグレイル』という会社が生まれることもなく、俺がそこで働く『未来』もなかったのかもしれない、と思うと、感慨深いものがある。



 いやはや。



 かなりハナシは脱線してしまったけれど、とにかくこの当時の中学生という生き物は、今と比べたら驚くくらい品行方正で早寝早起きだったのである。そりゃそうだ、なにせ深夜の娯楽といえば、AMラジオを聴くか、マンガや小説を読むか、夜遅くまで開いているコンビニやファミレスでダベるくらいが関の山だったのだから。

 当然、最後の奴は場所もごく一部に限られているから学校側も常に目を光らせているわけで、もし捕まろうモンなら説教どころではすまない。反省文にはじまり、特別補習や親の呼び出し、自宅謹慎までとフルコースが準備されている。ビビってんのかって? そんな時代だったのさ。



 というわけで。



「つーかだな……?」


 今、『』――いや、『』こと古ノ森健太は、そのもっともリスクの高い『夜遊び』中だ。


「この集まりって『今夜』である必要性、あったか? 別に昼間でもよかったんじゃないか?」

「馬鹿者が。昼間であれば、この『私』がおいそれと出てはこれぬだろうが。頭を使いたまえ」


 この高飛車で高慢ちきで、やけに芝居がかった口調からおわかりだろうか。
 そう、一緒にいるのは、なんとあの時巫女・セツナ=コトセなのである。


「ったって……明日、土曜日じゃん? 定例会議があるだろうが?」

「そっ! それ……なんだが……。あ、明日はちと都合が悪くなってしまって……だな……?」


 急に勢いを失い、もじもじと身をくねらせては真っ赤になっているコトセを見てピンときた。


「……なんだ、ハカセとデートの約束か。そうならそうと言えばいいのに。面倒臭い奴だなぁ」

「うっ、うるさい! そ・れ・よ・り・も・だ! なんとしてでも『あやつ』を呼び出すぞ!」


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