上 下
344 / 539

第342話 話したいだけ、なのに。 at 1995/11/22

しおりを挟む
「――それでさ? あの時、ロコがこう言ったじゃん?」

「あー! 言った言った! あんときのムロの顔ってば!」

「い、言うなよ! 俺だって――!」


 室生とロコの会話が、ぎこちなく停止した。
 その原因は、教室に入ってくるなりロコの机の前で立ち止まった僕だ。


「……なに? モリケン? なんか用なのかい?」

「あ――う、うん。ちょっと、ね?」


 愛想のいい笑みを崩すことなく尋ねる室生。しかし、ロコの方は興味ないと言わんばかりに、左側の窓でそよぐカーテンに視線をそらしてそっぽを向いている。室生は僕とロコを見て言った。


「なんだい? 俺に用って?」

「えっと………………な、なんでもない。……ごめん、会話の邪魔しちゃって」


 不思議そうな顔つきの室生を残し、僕は教室のうしろの方にある自分の席に向かって歩き出す。その僕の背中に向けて、重苦しい質量を備えた溜息が遠慮なくぶつけられた。



 溜息の主は――ロコだ。
 だが何も言わない。



「……大丈夫? ケンタ君?」

「えっ? な、なんのこと?」

「なんでもないよ。……大丈夫ならいいの」


 ただでさえ息苦しい思いをしているのに、純美子の気づかう言葉まであいまいに濁してしまった僕は、ますます自己嫌悪のカタマリとなってユーウツな気分になっていた。


 おとといも、昨日も、そして今日も、僕はロコと話すことができずにいた。
 ひとこともだ。

 それはたぶん、いつもそばには室生がいるせいであって、そして、たとえ室生が隣にいなくたって、僕自身がロコと話すことを躊躇してしまって怖じ気づいているせいなのだろう。

 今まではこんなこと、一度もなかった。
 いつもそばにいてくれていたからだ、ロコが。


 でも、僕の一周目の『中学二年生』生活は、これよりもっとひどかったはずだ。

 小学校の頃に『友だち』になった、ロコはもちろん、室生とも荒山とも、ロクに会話らしき会話なんてした記憶がない。ロコはイケてる女子のAグループのリーダー的存在で、遠い遠い存在に見えていた。なにせ、学校一の美少女だったのだ。室生や荒山も同じで、明るくてスポーツ万能で、他人との――もちろん異性との――コミュニケーションだってお手のものだ。

 僕の『友だち』というと渋田が唯一無二であり、ニンゲン以外には勉強とコンピューターくらいしかなかったという惨憺たる状況だった。でもそれでも僕は、ここまでの息苦しさも居心地の悪さも感じていなかったはずだ。人間に興味がない、と言ったらカッコいいのかもしれないが、ともかく不器用でひたすらひねくれていて、自分の世界に閉じこもって膝を抱えていた。


 それでも一向構わなかった僕が、こうして頭を抱えて悩んでいるだなんて、妙なハナシだ。


 気づいてしまったからだろうか。
『友だち』のいる毎日のすばらしさに。


(はぁ……さて、どうにかしないと。ずっとこのままなんて、どう考えても無理だよ……)


 隣の純美子を心配させないように、と、ココロの中でだけ、そっと溜息をついた時だった。



 ――がらり!



 まもなく一時間目の予鈴が鳴り響こうとする矢先に、教室の前のドアがイキオイよく開いた。そのまま見覚えのない一人の女子生徒がずかずかと遠慮なく入り込んで、ロコの前で止まった。


「………………ちょっとハナシあるんだけど? 放課後、いい? 上ノ原さん?」


 刺すような鋭い視線に少しも怯むことなく、ロコは真っ向から睨み返してうなずくのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

処理中です...