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第321話 球技大会・三日目(7) at 1995/11/10
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「え……一体何がはじまるの……?」
「吉川、怪我したんだってね……」
「サッカー、次の試合あるんじゃないの……?」
「なんか揉めてるのかな……やだなぁ……」
誰もいない校舎の中で、僕ら二年十一組の生徒だけがいつもの見慣れた教室の見慣れた場所に座り込んでいた。椅子は観戦用に運び出してしまい、机も教室の後ろの方にまとめて積み上げているので、木製タイル張りの床にそのまま座るよりない。
その、がらん、とした空間に、事情を知らないクラスメイトたちの囁き声だけが響いている。
そこに。
小山田が姿を現した。
なにごとかと、今まで潜めき合っていた生徒たちのカラダにわずかな震えが走った。しかし今日に限っては、それを見ても小山田は何も言わず、居心地悪そうに視線をそらすだけだった。
そして――。
「あの――今まですまなかった。許してくれ、頼む」
突然、小山田はそう切り出したのだ。
一同、あっけにとられて声も出てこない。
(はぁ……仕方ないな……)
そうココロの中でつぶやき、小山田の立つ教室の一番前まで歩み出たのは、ほかならぬ僕だ。
「あのさ、ダッチ? さすがにそれだけじゃ、みんな何もわかんないって。ひとつずつお願い」
「う……! そ、そうなのかよ!? くそっ、どうすりゃいい!?」
「うーん……じゃ、じゃあさ? 僕が質問していくから、それに答えるカタチで、どうかな?」
「ち――っ。くそっ、仕方ねぇな。そんならそれでいってみるか……」
小山田の口調はいくぶんやわらかい、のだが、それでも口を開けば、出てくるのは粗雑で乱暴な単語ばかり。さっきまで怯えていた生徒たちも、安心して良いやら判断がつかないようだ。
それでも、つい昨日までは『ダッチ』とあだ名で呼ばれるだけで火が付いたように怒っていたのだから、相当な進歩だと言える。しかし、それに気づけるものがどれくらいいるのやら。
僕は、はじめにこう尋ねた。
「ダッチはさ? みんなに謝りたいって言ってくれたよね? それって、どうしてなのかな?」
「そ、そりゃあ、さっき――!」
僕は首を振る。
それを見た小山田は、抗議するような仕草をしたが、やがてあきらめてくれたようだ。
「それは……俺様が、身勝手でわがままだったからだ。だから、みんなに謝りてぇんだって」
「かもね」
僕は容赦なくうなずいてみせた。
が、すぐさま首を振って否定もしてみせる。
「でも……ダッチの言うその『身勝手とわがまま』は、決して自分のためなんかじゃなかったんだろ? それをさ、みんなにもきちんと教えてあげないと。ちゃんとわかってもらわないと」
「………………べ、別に言わなくたってよ――」
「ダメだよ。僕は、ダッチを悪者にして裁きたいわけじゃない。さっき言っただろ?」
「けどよぅ――」
「ダメだってば」
しばらく僕と小山田は本気の睨み合いをする。
が、すでに一度あきらめたからなのか、溜息をつき、首を振ってみせたのは小山田だった。
「てめぇ……ホントに嫌な野郎だな?」
「褒め言葉だと受け取っておくよ。……で? どうなんだい?」
そうして小山田徹は、ぽつり、ぽつり、と話しはじめるのだった。
「吉川、怪我したんだってね……」
「サッカー、次の試合あるんじゃないの……?」
「なんか揉めてるのかな……やだなぁ……」
誰もいない校舎の中で、僕ら二年十一組の生徒だけがいつもの見慣れた教室の見慣れた場所に座り込んでいた。椅子は観戦用に運び出してしまい、机も教室の後ろの方にまとめて積み上げているので、木製タイル張りの床にそのまま座るよりない。
その、がらん、とした空間に、事情を知らないクラスメイトたちの囁き声だけが響いている。
そこに。
小山田が姿を現した。
なにごとかと、今まで潜めき合っていた生徒たちのカラダにわずかな震えが走った。しかし今日に限っては、それを見ても小山田は何も言わず、居心地悪そうに視線をそらすだけだった。
そして――。
「あの――今まですまなかった。許してくれ、頼む」
突然、小山田はそう切り出したのだ。
一同、あっけにとられて声も出てこない。
(はぁ……仕方ないな……)
そうココロの中でつぶやき、小山田の立つ教室の一番前まで歩み出たのは、ほかならぬ僕だ。
「あのさ、ダッチ? さすがにそれだけじゃ、みんな何もわかんないって。ひとつずつお願い」
「う……! そ、そうなのかよ!? くそっ、どうすりゃいい!?」
「うーん……じゃ、じゃあさ? 僕が質問していくから、それに答えるカタチで、どうかな?」
「ち――っ。くそっ、仕方ねぇな。そんならそれでいってみるか……」
小山田の口調はいくぶんやわらかい、のだが、それでも口を開けば、出てくるのは粗雑で乱暴な単語ばかり。さっきまで怯えていた生徒たちも、安心して良いやら判断がつかないようだ。
それでも、つい昨日までは『ダッチ』とあだ名で呼ばれるだけで火が付いたように怒っていたのだから、相当な進歩だと言える。しかし、それに気づけるものがどれくらいいるのやら。
僕は、はじめにこう尋ねた。
「ダッチはさ? みんなに謝りたいって言ってくれたよね? それって、どうしてなのかな?」
「そ、そりゃあ、さっき――!」
僕は首を振る。
それを見た小山田は、抗議するような仕草をしたが、やがてあきらめてくれたようだ。
「それは……俺様が、身勝手でわがままだったからだ。だから、みんなに謝りてぇんだって」
「かもね」
僕は容赦なくうなずいてみせた。
が、すぐさま首を振って否定もしてみせる。
「でも……ダッチの言うその『身勝手とわがまま』は、決して自分のためなんかじゃなかったんだろ? それをさ、みんなにもきちんと教えてあげないと。ちゃんとわかってもらわないと」
「………………べ、別に言わなくたってよ――」
「ダメだよ。僕は、ダッチを悪者にして裁きたいわけじゃない。さっき言っただろ?」
「けどよぅ――」
「ダメだってば」
しばらく僕と小山田は本気の睨み合いをする。
が、すでに一度あきらめたからなのか、溜息をつき、首を振ってみせたのは小山田だった。
「てめぇ……ホントに嫌な野郎だな?」
「褒め言葉だと受け取っておくよ。……で? どうなんだい?」
そうして小山田徹は、ぽつり、ぽつり、と話しはじめるのだった。
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