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第317話 球技大会・三日目(3) at 1995/11/10
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「次も三年生のチームなんだね。最後の球技大会だからって、張り切ってそうだよねぇ……」
「そりゃそうでしょ。やっぱり、やるからには優勝したいじゃんか、このクラスで、って」
「その気持ちもわかるだけに……フクザツだなぁ。……あ! ケンタ君、こっちこっち!」
なんとか一試合目を無事終えた僕は、仲間たちの待っている場所まで戻ってきた。今はいいが、じきに疲労が、ずしり、とのしかかってくるだろうと思うと気が重い。
「つかれたぁ……! ん? ロコ……いないんだな?」
「う……ん。なんかね? ちょっと用事があるから、って。ずっと戻ってこないの」
「朝から? ずっと?」
「そうなの」
ウチのクラスの、女子種目であるバレーボールは順当に準決勝まで勝ち上がっているらしい、と風のウワサで聴いている。もちろん、エースアタッカーであるロコも出場していた。けれど、それで忙しいのであれば、なにも隠したり言葉を濁す必要はないはずだ。何か妙な感じがする。
「……そっか。で? ハカセとツッキーは、保健室から見学ってところかな?」
「そうそう。そうなんだよ!」
純美子は、くすくす、と忍び笑いを漏らすと、僕に顔を寄せてそっと耳打する。
「……ツッキーが言うんだよ? あの運動会以来、すっごく冷やかされて恥ずかしいって。でもね? それ以上に、気軽に話しかけてくれる人も増えたんだって! でも、そこはツッキー」
「――なんて答えたらいいのかわからないから困ってるんですぅ! とか言ってたんでしょ?」
「そうなの! よくわかったね、ケンタ君! うふふふ」
せっかくのチャンスなのに、極度の人見知りが発動してうまく生かせないところもある意味水無月さんらしいっちゃらしい。けれど、水無月さんを取り巻く環境が日増しによくなってきていることがうれしくなった。いまだに偏見を持つ生徒はいるのだろうけれど、味方も増えた。
「そ、それでね……? また今日も、お弁当作ってきたんだけれど……食べてくれるかな?」
「……え!? あ、ああ! もちろんだよ! 食べる、食べる!」
「しょ、食後にはね? レモンのはちみつ漬けも持ってきたの。マネージャーの子に作り方聞いて……疲労回復にいいんだって……。えっと……好き……かな……?」
「うわぁあああ! 好き! 大好きだよ、スミちゃん!」
「ふぇっ!? あ、あの……そういうのはぁ……二人っきりの時にぃ……」
なぜだか顔を真っ赤にして身をくねくねとよじらせている純美子と僕を眺めつつ、横で冷ややかな視線を浴びせてくる熟年喧嘩ップルがあきれたような声を出す。
「……なんだかお邪魔みたいねー」
「……ま、いいんじゃない? 僕らもあんな時が……ん? あったっけ……? ないかも……」
「あ、あったでしょっ! こ、このっ!」
「ふごっ!? い、今ので余計に記憶が……」
いいボディが入ったなー。
というかお前、内臓に記憶を蓄積してるのかよ、シブチン……。
そんなほのぼの&バイオレンスな光景に、小走りで駆け寄ってきたのは佐倉君だった。
「リ、リーダー! 大変ですよぅ!」
「ん? どうしたの、佐倉君?」
「僕、さっきまで、ロコちゃんの出るバレーボール応援しに行ってたんですけど……!」
もう松葉杖は使っていない佐倉君だったけれど、ふとした拍子に痛みの記憶が蘇るらしく、ときおりかばうような仕草を見せる。そのまま隣の席に腰を下ろすと、息を整えて喋り出した。
「準決勝、勝てたは勝てたんですけど、なぜかロコちゃん、一度もコートに入れなくって……」
「………………え!?」
「具合が悪いとかじゃないと思うんです。僕、なんとなくですけれど……わかるので」
「じゃあ……なんでだよ!? アイツは、最高のエースアタッカーなのに……!」
「あ、あの……なんの根拠もないんです、けど……。もしかしたら、なんです、けど……」
そっと僕だけに、佐倉君は耳打ちしてその仮説を伝えてくれた。
僕は――言葉を失った。
【準々決勝】 第三試合 〇2―1 VS 3―2● (5―1)
第四試合 〇3―1 VS 3―6● (2―1)
「そりゃそうでしょ。やっぱり、やるからには優勝したいじゃんか、このクラスで、って」
「その気持ちもわかるだけに……フクザツだなぁ。……あ! ケンタ君、こっちこっち!」
なんとか一試合目を無事終えた僕は、仲間たちの待っている場所まで戻ってきた。今はいいが、じきに疲労が、ずしり、とのしかかってくるだろうと思うと気が重い。
「つかれたぁ……! ん? ロコ……いないんだな?」
「う……ん。なんかね? ちょっと用事があるから、って。ずっと戻ってこないの」
「朝から? ずっと?」
「そうなの」
ウチのクラスの、女子種目であるバレーボールは順当に準決勝まで勝ち上がっているらしい、と風のウワサで聴いている。もちろん、エースアタッカーであるロコも出場していた。けれど、それで忙しいのであれば、なにも隠したり言葉を濁す必要はないはずだ。何か妙な感じがする。
「……そっか。で? ハカセとツッキーは、保健室から見学ってところかな?」
「そうそう。そうなんだよ!」
純美子は、くすくす、と忍び笑いを漏らすと、僕に顔を寄せてそっと耳打する。
「……ツッキーが言うんだよ? あの運動会以来、すっごく冷やかされて恥ずかしいって。でもね? それ以上に、気軽に話しかけてくれる人も増えたんだって! でも、そこはツッキー」
「――なんて答えたらいいのかわからないから困ってるんですぅ! とか言ってたんでしょ?」
「そうなの! よくわかったね、ケンタ君! うふふふ」
せっかくのチャンスなのに、極度の人見知りが発動してうまく生かせないところもある意味水無月さんらしいっちゃらしい。けれど、水無月さんを取り巻く環境が日増しによくなってきていることがうれしくなった。いまだに偏見を持つ生徒はいるのだろうけれど、味方も増えた。
「そ、それでね……? また今日も、お弁当作ってきたんだけれど……食べてくれるかな?」
「……え!? あ、ああ! もちろんだよ! 食べる、食べる!」
「しょ、食後にはね? レモンのはちみつ漬けも持ってきたの。マネージャーの子に作り方聞いて……疲労回復にいいんだって……。えっと……好き……かな……?」
「うわぁあああ! 好き! 大好きだよ、スミちゃん!」
「ふぇっ!? あ、あの……そういうのはぁ……二人っきりの時にぃ……」
なぜだか顔を真っ赤にして身をくねくねとよじらせている純美子と僕を眺めつつ、横で冷ややかな視線を浴びせてくる熟年喧嘩ップルがあきれたような声を出す。
「……なんだかお邪魔みたいねー」
「……ま、いいんじゃない? 僕らもあんな時が……ん? あったっけ……? ないかも……」
「あ、あったでしょっ! こ、このっ!」
「ふごっ!? い、今ので余計に記憶が……」
いいボディが入ったなー。
というかお前、内臓に記憶を蓄積してるのかよ、シブチン……。
そんなほのぼの&バイオレンスな光景に、小走りで駆け寄ってきたのは佐倉君だった。
「リ、リーダー! 大変ですよぅ!」
「ん? どうしたの、佐倉君?」
「僕、さっきまで、ロコちゃんの出るバレーボール応援しに行ってたんですけど……!」
もう松葉杖は使っていない佐倉君だったけれど、ふとした拍子に痛みの記憶が蘇るらしく、ときおりかばうような仕草を見せる。そのまま隣の席に腰を下ろすと、息を整えて喋り出した。
「準決勝、勝てたは勝てたんですけど、なぜかロコちゃん、一度もコートに入れなくって……」
「………………え!?」
「具合が悪いとかじゃないと思うんです。僕、なんとなくですけれど……わかるので」
「じゃあ……なんでだよ!? アイツは、最高のエースアタッカーなのに……!」
「あ、あの……なんの根拠もないんです、けど……。もしかしたら、なんです、けど……」
そっと僕だけに、佐倉君は耳打ちしてその仮説を伝えてくれた。
僕は――言葉を失った。
【準々決勝】 第三試合 〇2―1 VS 3―2● (5―1)
第四試合 〇3―1 VS 3―6● (2―1)
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