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第295話 逆もまた真なり at 1995/10/27

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(明日のデートに備えて、いい加減眠らないと……)


 先週の金曜日までの最低気温は17~8℃だったが、今週に入ってからは本格的な秋到来だ。しかし、寝苦しい夜はとうに過ぎたはずなのに、僕はなかなか寝付けずにいた。


(早く忘れないと……特に、ロコやコトセに知られるのは良くない)


 おとといのタツヒコがらみの一件から、ひょんなことで知ってしまった『リトライ』の恩恵は、僕にとってはありがた嬉しいというよりは、甘い毒を含んだ悪魔の果実のようであって、触れるのも怖ろしい心持ちだったのだ。


(だってこんなこと……むしろこれを悪用した方が、世のことわりをたやすくねじ曲げてしまう……)


 運動会の時、雑賀さいがセンセイが僕を評して言ったセリフが、今は逆に責め苦のように感じていた。



『お前はその知識や見識を悪用したか?』

 ――答えは、ノーだ。



『未来を知っていながら、一から築き上げたんだろう?』

 ――答えは、イエスだ。





『悪い奴っていうのは、もっと手際が良くてズルいのさ――』





 僕は――少なくとも僕自身ではズル賢いとは思っていない。だが、あの夜思わぬ形で知ってしまった僕ら『リトライ者』に共通するルールの抜け道が、今はこの僕の手元にだけある。

 これをうまく利用すれば、僕はどんなヒーローにも、どんな英雄にもなれるのかもしれない。

 歴史そのものをねじ曲げる気さえ起こさなければ、たいていのことはやってのけるはずだ。



 思い起こしてみれば、ヒントはかなり序盤から目の前にあったのだ。



 だが、そんな事態になる前にすべて先手を打っていた。これについては、わざわざ考えるまでもないだろう。仮に僕でなくロコだったとしても同じだ。いや、僕とロコ以外の人間であろうが、基本的な対応方針については変わりがないはずだ。違うのは、手順と手段、それだけだ。



 どうか思い出して欲しい。

 粗悪な翻訳によって産み落とされた『マニュアル』に書かれていた、あの注意書きを。



『【注意:リトライするにあたって禁止事項】
 ・過去の歴史上、死ぬ運命にある誰かを救命するのは不可能です。』



 それは、ここだ。

 そして、おとといの出来事をふまえ正反対の言葉を当てはめると、この疑問が浮かぶはずだ。



『過去の歴史上、死ぬ運命にない誰かをするのは可能か?』と。



 僕と三溝さんは、おとといのあの夜、あの場所で、あの少年――赤川龍彦を僕らの世界から抹殺せんとする企みの下、闇の中でじっと息をひそめていた。そして、彼の死により『歴史が大きく変動してしまう』ことを恐れた僕が、迫り来る自動車へ向けて捨て身の特攻をかけた。


 その結果。
 誰一人、死ぬことはなかった。





 いや、正確に言わねばなるまい。

『過去の歴史上、死ぬ運命にない誰かをです。』と。





 もしもそんなことをしてしまえば、この世界の歴史は致命的な欠陥を抱えることになるからだ。四〇歳になった僕やロコは、元々存在しないことになる。となれば、この時代にタイムリープした僕たちなどいるはずもない。同窓会でのサプライズ再会もなく、どころか、僕と純美子がした短く儚い恋愛の事実すら消えてなくなる。



 今ここにいる僕は、僕なのか――すべてが。



(……つまり、今の僕とロコは、絶対に死なない、殺すことのできない『』なんだ)


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