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第292話 獅子の子落とし at 1995/10/25
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――シャーッ!
街灯のない真っ暗な下り坂を、一台の自転車がイキオイをつけて下りてくる。
道幅は車一台分しかない。元々この坂の上は、だだっ広いグラウンドと砂利引きでほこりっぽい駐車場と、あとは趣味の延長線上で耕しているらしい菜園とカブトムシのとれるクヌギの大木くらいしかなかった。小学校の頃、ロコに連れられて行ったことがあるから覚えている。
だからこそ街灯もあまり立っておらず、この坂に至っては金属ポールで組まれたガードレール――ガードパイプと呼ぶらしい――で道の両側から落ちないように仕切られているだけだ。
――シャーッ!!
その度胸試しにうってつけな地獄への一本道を、一台の自転車が飛ぶように下りてくる。
「おぉう! おぉおおおおおう!」
興奮を押し殺すような歓喜の呻き声が聴こえてきて、僕と三溝さんは思わず顔を見合わせた。
「……たしかにあの声はタツヒコみたいだな」
「ホントは自転車で来るのは禁止なんです」
まるで直接知っているような三溝さんのセリフだったが、梅センか誰かに聞いたのだろう。
「だから、みんなが帰るまで待っていて、隠しておいた自転車で家まで帰ってるみたいです」
「タツヒコの家はたしか……そんなに遠くないはずだろ?」
「そうなんですか? 興味ないから知りません」
「あるとか、ないとか……。ま、ともかく、サッカークラブに通うため、はただの口実だな」
――シャーッ!!!!
滑るように下りてくる一台の自転車から、なおも雄叫びのような声が轟いた。
「おぉう! おぉおおおおおう!」
それを見て、聞いて、三溝さんは心底不快そうに眉をしかめた。
「ううう、気持ち悪い。それにしても、失敗だったんでしょうか? ちっとも、なにも――」
――キィイイイイイイイイイイッ!
はじまった!
が、次の瞬間だった。
――ぶつり!!
「おぉおおおう! おっ!? おう!?」
何かが断ち切れる鈍い音と、それに気づいたらしいタツヒコのとまどいの声が届いた。
「やったやった! やってやりましたよ、古ノ森君! これで来週からは、きっと――!」
「ば、馬鹿っ! 言ってる場合じゃない! 向こうから自動車のライトが迫ってきてるっ!!」
「………………えっ!?」
僕は、その場で言葉もなく茫然と立ち尽くし、これから起こるだろう惨劇を予想すらしていなかったある意味純粋すぎる少女を残して、止まらない自転車めがけ脇目もふらず走り出した。
(く……そ……っ! 頼む……っ、間に合ってくれ……!!)
いくら憎い相手とはいえど、さすがに目の前で、しかも同級生が仕掛けたタチの悪いいたずらのせいでアイツを死なせるわけにはいかない。それに、これで殺人が成立してしまった時、三溝さんは一体どんなココロの傷を負ってしまうのか、この僕には予想すらできなかった。
(僕の記憶の中には、タツヒコが死んだ、というデータなんてない。だから、もしここで――)
彼の死が、僕とロコと、時巫女・セツナ=コトセの『リトライ』を大きく変えてしまう!?
ああ、しかしついに――ドンッッッッッ!!
街灯のない真っ暗な下り坂を、一台の自転車がイキオイをつけて下りてくる。
道幅は車一台分しかない。元々この坂の上は、だだっ広いグラウンドと砂利引きでほこりっぽい駐車場と、あとは趣味の延長線上で耕しているらしい菜園とカブトムシのとれるクヌギの大木くらいしかなかった。小学校の頃、ロコに連れられて行ったことがあるから覚えている。
だからこそ街灯もあまり立っておらず、この坂に至っては金属ポールで組まれたガードレール――ガードパイプと呼ぶらしい――で道の両側から落ちないように仕切られているだけだ。
――シャーッ!!
その度胸試しにうってつけな地獄への一本道を、一台の自転車が飛ぶように下りてくる。
「おぉう! おぉおおおおおう!」
興奮を押し殺すような歓喜の呻き声が聴こえてきて、僕と三溝さんは思わず顔を見合わせた。
「……たしかにあの声はタツヒコみたいだな」
「ホントは自転車で来るのは禁止なんです」
まるで直接知っているような三溝さんのセリフだったが、梅センか誰かに聞いたのだろう。
「だから、みんなが帰るまで待っていて、隠しておいた自転車で家まで帰ってるみたいです」
「タツヒコの家はたしか……そんなに遠くないはずだろ?」
「そうなんですか? 興味ないから知りません」
「あるとか、ないとか……。ま、ともかく、サッカークラブに通うため、はただの口実だな」
――シャーッ!!!!
滑るように下りてくる一台の自転車から、なおも雄叫びのような声が轟いた。
「おぉう! おぉおおおおおう!」
それを見て、聞いて、三溝さんは心底不快そうに眉をしかめた。
「ううう、気持ち悪い。それにしても、失敗だったんでしょうか? ちっとも、なにも――」
――キィイイイイイイイイイイッ!
はじまった!
が、次の瞬間だった。
――ぶつり!!
「おぉおおおう! おっ!? おう!?」
何かが断ち切れる鈍い音と、それに気づいたらしいタツヒコのとまどいの声が届いた。
「やったやった! やってやりましたよ、古ノ森君! これで来週からは、きっと――!」
「ば、馬鹿っ! 言ってる場合じゃない! 向こうから自動車のライトが迫ってきてるっ!!」
「………………えっ!?」
僕は、その場で言葉もなく茫然と立ち尽くし、これから起こるだろう惨劇を予想すらしていなかったある意味純粋すぎる少女を残して、止まらない自転車めがけ脇目もふらず走り出した。
(く……そ……っ! 頼む……っ、間に合ってくれ……!!)
いくら憎い相手とはいえど、さすがに目の前で、しかも同級生が仕掛けたタチの悪いいたずらのせいでアイツを死なせるわけにはいかない。それに、これで殺人が成立してしまった時、三溝さんは一体どんなココロの傷を負ってしまうのか、この僕には予想すらできなかった。
(僕の記憶の中には、タツヒコが死んだ、というデータなんてない。だから、もしここで――)
彼の死が、僕とロコと、時巫女・セツナ=コトセの『リトライ』を大きく変えてしまう!?
ああ、しかしついに――ドンッッッッッ!!
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