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第288話 策謀する少女 at 1995/10/23
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「あれ……? うーん、見当たらないな……。まだ来てないのか?」
本校舎の三階の、長い廊下の最東端に位置するのが、学年主任の梅田センセイが担当する、タツヒコのいる二年一組である。昇降口から階段を昇り、いつもとは反対方向に進んだ僕は、ほんの少し距離を置くようにして二年一組の教室の中を覗いてみた。が、姿は見えない。
(まさか……登校するなり直接ウチのクラスに押し掛けてるんじゃ……)
ないとは言えない。
先週の月曜日がまさにそのパターンだったからだ。
――と。
とんとん、と肩を叩かれ、不意をつかれた僕は少し身構えるようにして振り返る。
「――!? あ、あの……十一組の、古ノ森君、です、よね?」
「ですけど……?」
そこにいたのは、意外にもひとりの女子生徒だった。
初対面だと思われる僕の名前を知っているのが意外に思った点のひとつだったけれど、それ以上に意外に思えた点は、カノジョのそばかすだらけの浮かない表情に、どことなく見覚えがあったからだ。名前を知っているほどの仲じゃない。けれど、確かにどこかで会っている。
そして不思議そうな表情を浮かべているであろう僕に、カノジョは、ぺこり、と頭を下げた。
「あ、ほら。保健委員で一緒だったから、たまたま覚えていて……あたし、三溝って言います」
カノジョ――三溝優子はか細い声でそう言うと、ぎこちない笑みを浮かべてみせた。くるん、とカールのかかった髪が特徴的なボーイッシュなショートカット。背はひょろりと高くて、どことなくサバンナのキリンを連想させる。カノジョの線の細いカラダつきのせいかもしれない。
「誰か……探してます?」
「い、いや! そ、そういうわけじゃ……ないんだ、けど……」
くりりとした瞳でそう問われると、たちまち僕は落ち着きを失った。実際、カノジョの質問した、ズバリその通りだったのだけれど、かといってタイミング良くここでタツヒコを見つけたところで、その後何をするわけでもないし、特段アイディアや具体策があるわけじゃなかった。
「あは、あははは。じゃあ、ぼ、僕は自分のクラスに戻るから――」
「あの――っ! ……ひょっとして、タツヒコのことじゃないですか?」
――どきり。
なんでもないフリをして教室へ帰ろうと背を向けた、その足が無様に止まってしまっていた。
「なんで僕が、赤川君のことを――?」
「あの――っ、ちょっとこっちに来てください」
目線はそらしたまま、さっきのカノジョ以上にぎこちない笑顔だけを浮かべた僕を、三溝さんは物凄いチカラで教室とは反対方向の廊下の端の方へと引っ張っていく。すっかりバランスを崩された僕は逆らうことすらできずに、されるがままにカノジョの導く場所へと足を進めた。
ようやくまわりに誰もいないところまで辿り着くと、三溝さんは唐突にこう切り出した。
「近頃、タツヒコが十一組に入り浸っていることは知っています。だって、本人がそう言っていたから。古ノ森君、十一組じゃないですか。だから、タツヒコのことで来たのかなって」
「え……? え……?」
「あたしの勘違いだったら言ってください。……ううん、もしもあたしの勘違いだったとしても、これから話すことを聞いてもらえませんか? 同じクラスの人には話せない、から――」
「え……? え……?」
とまどうことしかできない僕は、カノジョの独特なペースに心乱されて、なんとなくハナシを聞く流れになってしまった。
しかし、三溝さんのセリフはあまりに衝撃的なものだった。
「どうか……どうかあたしにチカラを貸してくれませんか? あたしにはヒミツの計画があるんです。あの、赤川龍彦を葬り去るための計画です。誰にも話さないでください。お願いです」
本校舎の三階の、長い廊下の最東端に位置するのが、学年主任の梅田センセイが担当する、タツヒコのいる二年一組である。昇降口から階段を昇り、いつもとは反対方向に進んだ僕は、ほんの少し距離を置くようにして二年一組の教室の中を覗いてみた。が、姿は見えない。
(まさか……登校するなり直接ウチのクラスに押し掛けてるんじゃ……)
ないとは言えない。
先週の月曜日がまさにそのパターンだったからだ。
――と。
とんとん、と肩を叩かれ、不意をつかれた僕は少し身構えるようにして振り返る。
「――!? あ、あの……十一組の、古ノ森君、です、よね?」
「ですけど……?」
そこにいたのは、意外にもひとりの女子生徒だった。
初対面だと思われる僕の名前を知っているのが意外に思った点のひとつだったけれど、それ以上に意外に思えた点は、カノジョのそばかすだらけの浮かない表情に、どことなく見覚えがあったからだ。名前を知っているほどの仲じゃない。けれど、確かにどこかで会っている。
そして不思議そうな表情を浮かべているであろう僕に、カノジョは、ぺこり、と頭を下げた。
「あ、ほら。保健委員で一緒だったから、たまたま覚えていて……あたし、三溝って言います」
カノジョ――三溝優子はか細い声でそう言うと、ぎこちない笑みを浮かべてみせた。くるん、とカールのかかった髪が特徴的なボーイッシュなショートカット。背はひょろりと高くて、どことなくサバンナのキリンを連想させる。カノジョの線の細いカラダつきのせいかもしれない。
「誰か……探してます?」
「い、いや! そ、そういうわけじゃ……ないんだ、けど……」
くりりとした瞳でそう問われると、たちまち僕は落ち着きを失った。実際、カノジョの質問した、ズバリその通りだったのだけれど、かといってタイミング良くここでタツヒコを見つけたところで、その後何をするわけでもないし、特段アイディアや具体策があるわけじゃなかった。
「あは、あははは。じゃあ、ぼ、僕は自分のクラスに戻るから――」
「あの――っ! ……ひょっとして、タツヒコのことじゃないですか?」
――どきり。
なんでもないフリをして教室へ帰ろうと背を向けた、その足が無様に止まってしまっていた。
「なんで僕が、赤川君のことを――?」
「あの――っ、ちょっとこっちに来てください」
目線はそらしたまま、さっきのカノジョ以上にぎこちない笑顔だけを浮かべた僕を、三溝さんは物凄いチカラで教室とは反対方向の廊下の端の方へと引っ張っていく。すっかりバランスを崩された僕は逆らうことすらできずに、されるがままにカノジョの導く場所へと足を進めた。
ようやくまわりに誰もいないところまで辿り着くと、三溝さんは唐突にこう切り出した。
「近頃、タツヒコが十一組に入り浸っていることは知っています。だって、本人がそう言っていたから。古ノ森君、十一組じゃないですか。だから、タツヒコのことで来たのかなって」
「え……? え……?」
「あたしの勘違いだったら言ってください。……ううん、もしもあたしの勘違いだったとしても、これから話すことを聞いてもらえませんか? 同じクラスの人には話せない、から――」
「え……? え……?」
とまどうことしかできない僕は、カノジョの独特なペースに心乱されて、なんとなくハナシを聞く流れになってしまった。
しかし、三溝さんのセリフはあまりに衝撃的なものだった。
「どうか……どうかあたしにチカラを貸してくれませんか? あたしにはヒミツの計画があるんです。あの、赤川龍彦を葬り去るための計画です。誰にも話さないでください。お願いです」
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