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第280話 月夜の邂逅(3) at 1995/10/14
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「――!?」「う……嘘、だろ……!?」
その告白は、敵対心と警戒心を解かなかったロコの張った障壁すらたやすく破壊する威力を有していた。この僕もまた、さまざまな視点で立ててきた仮説を上回る現実に驚愕していた。
「ははン――」
トキミコ・セツナは、期待どおりの反応を得られたからなのか少し上機嫌のようにも見えた。
「それだ、その顔が見たかったのだ! 驚いたかね? 驚くだろうとも! ククク……!」
トキミコ・セツナはその芝居がかった口調に反して、腰かけている手すりの上で子どものように足をばたばたとせわしなく動かしてはしゃいでいる。それを横目に僕は質問をしてみた。
「さしずめ、ドッキリ大成功! ってところか? ご満悦のところ悪いんだけどな、呼び出した理由を言えよ。もう時間がない、そう言ってただろうが? 悠長にしていていいのかよ?」
「おっと。そうだったな――」
そうしてトキミコ・セツナは、自分の肩口からむき出しの左手の手首を見つめたが、そこには何もない。はぁ、と小さく溜息をついたかと思うと、僕に向き直ってこう尋ねてきた。
「古ノ森健太、今の正確な時刻は? 教えてくれ」
「はぁ? ええと……二十二:三〇だけど……」
すると、トキミコ・セツナはにんまりと笑ってからこうこたえた。
「ククク……! やったぞ……最長記録だ!」
「お、おい……まさか、それって……!」
「その、まさか、さ」
トキミコ・セツナは手すりから反動をつけて降りると、僕とロコの前でバレエダンサーのように舞い踊ってみせた。薄手の薄青色のナイトウェアが月光を浴びてさらに光を放つ。
「今まで、どんなに頑張っても、今日この日を超えることはできなかったのだよ。しかし、お前たちのおかげで、こうして無事に生きている。なんともステキなことじゃないか。なあ?」
そのセリフを耳にすると、僕とロコのカラダはたちまちこわばった。別の可能性が選択されていたとしたら、僕らは彼女が死ぬところを目の当たりにするところだったのだから、
「お、お前……!」
「おいおいおい。少しは喜んでくれてもよいだろうに。それともなにか――?」
「そんなわけ、ないでしょ!?」
ずっとだんまりだったロコが堪えていた感情を爆発させてそう叫ぶと、トキミコ・セツナはうつろな笑いを口元に貼り付けたまま、ロコの前まで進み、まだ震えているその手を握った。
「ありがとう。そして、すまなかった……。お前の優しさを利用するつもりなんてなかったのだ。私はいつも傍から見ているだけに過ぎなかったが、琴世は本当にお前のことが好きなのだ」
「じゃあ、あなたは誰なの?」
「さっきもいったはずだ。琴世の『リトライ・アイテム』だと」
そう告げてから、それだけでは不足だろうと視線を月の輝く天に向け、それから前を見る。
「私は、琴世の一部であり、また、別の人格だとも言えるのだろう。ま、正直自分自身でもすべてを明らかにできたわけではない。しかし、これだけは言える。私は、琴世の味方だとな」
「でも、同じカラダを共有している、ってわけだよな?」
「それだよ。それこそが、今まで疎遠にしていた理由の一つでもある」
聞きたいか? と無言で問いかけるトキミコ・セツナ。
僕らは顔を見合わせ、そしてうなずいてみせた。
「この私という存在は、琴世がカラダの支配権を放棄した時にしか現れることができない。つまり……深い睡眠中の間や、なんらかの要因で精神的に喪失した状態でないとダメなのだ」
「ということは……今、ツッキーは、寝ている状態、ってことなんだな?」
「ご名答。良い夢を見ているよ……とても幸せな夢を、な」
その告白は、敵対心と警戒心を解かなかったロコの張った障壁すらたやすく破壊する威力を有していた。この僕もまた、さまざまな視点で立ててきた仮説を上回る現実に驚愕していた。
「ははン――」
トキミコ・セツナは、期待どおりの反応を得られたからなのか少し上機嫌のようにも見えた。
「それだ、その顔が見たかったのだ! 驚いたかね? 驚くだろうとも! ククク……!」
トキミコ・セツナはその芝居がかった口調に反して、腰かけている手すりの上で子どものように足をばたばたとせわしなく動かしてはしゃいでいる。それを横目に僕は質問をしてみた。
「さしずめ、ドッキリ大成功! ってところか? ご満悦のところ悪いんだけどな、呼び出した理由を言えよ。もう時間がない、そう言ってただろうが? 悠長にしていていいのかよ?」
「おっと。そうだったな――」
そうしてトキミコ・セツナは、自分の肩口からむき出しの左手の手首を見つめたが、そこには何もない。はぁ、と小さく溜息をついたかと思うと、僕に向き直ってこう尋ねてきた。
「古ノ森健太、今の正確な時刻は? 教えてくれ」
「はぁ? ええと……二十二:三〇だけど……」
すると、トキミコ・セツナはにんまりと笑ってからこうこたえた。
「ククク……! やったぞ……最長記録だ!」
「お、おい……まさか、それって……!」
「その、まさか、さ」
トキミコ・セツナは手すりから反動をつけて降りると、僕とロコの前でバレエダンサーのように舞い踊ってみせた。薄手の薄青色のナイトウェアが月光を浴びてさらに光を放つ。
「今まで、どんなに頑張っても、今日この日を超えることはできなかったのだよ。しかし、お前たちのおかげで、こうして無事に生きている。なんともステキなことじゃないか。なあ?」
そのセリフを耳にすると、僕とロコのカラダはたちまちこわばった。別の可能性が選択されていたとしたら、僕らは彼女が死ぬところを目の当たりにするところだったのだから、
「お、お前……!」
「おいおいおい。少しは喜んでくれてもよいだろうに。それともなにか――?」
「そんなわけ、ないでしょ!?」
ずっとだんまりだったロコが堪えていた感情を爆発させてそう叫ぶと、トキミコ・セツナはうつろな笑いを口元に貼り付けたまま、ロコの前まで進み、まだ震えているその手を握った。
「ありがとう。そして、すまなかった……。お前の優しさを利用するつもりなんてなかったのだ。私はいつも傍から見ているだけに過ぎなかったが、琴世は本当にお前のことが好きなのだ」
「じゃあ、あなたは誰なの?」
「さっきもいったはずだ。琴世の『リトライ・アイテム』だと」
そう告げてから、それだけでは不足だろうと視線を月の輝く天に向け、それから前を見る。
「私は、琴世の一部であり、また、別の人格だとも言えるのだろう。ま、正直自分自身でもすべてを明らかにできたわけではない。しかし、これだけは言える。私は、琴世の味方だとな」
「でも、同じカラダを共有している、ってわけだよな?」
「それだよ。それこそが、今まで疎遠にしていた理由の一つでもある」
聞きたいか? と無言で問いかけるトキミコ・セツナ。
僕らは顔を見合わせ、そしてうなずいてみせた。
「この私という存在は、琴世がカラダの支配権を放棄した時にしか現れることができない。つまり……深い睡眠中の間や、なんらかの要因で精神的に喪失した状態でないとダメなのだ」
「ということは……今、ツッキーは、寝ている状態、ってことなんだな?」
「ご名答。良い夢を見ているよ……とても幸せな夢を、な」
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