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第273話 波乱ぶくみの運動会(19) at 1995/10/10
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「どう……だった、かえでちゃんの容態は?」
「!? ……ロコか。おどかすなよ」
僕自身の気持ちが沈んでいたせいもあるのだろう。不意に昇降口で声をかけられた僕は、不必要にどきりとしてしまい、ごまかすように大袈裟なリアクションでこたえた。それから言う。
「保険室の鈴白センセイの見立てでは、やっぱり捻挫だけで骨折まではしていないだろう、ってことだったよ。けど、無理を言って、病院で検査を受けさせてもらうようお願いしておいた」
「そっか……。でも、よかった」
「……最後まで佐倉君は、ロコを守るためなら怪我なんて、って抵抗してたよ」
「そっか……」
さすがに僕も堪えたのだろう。今すぐ戻る気にもなれず、スニーカーに履き替えた足はその場に貼り付いたように動かない。ついに、細く長く溜息を吐いてその場に座り込んでしまった。
「大丈夫、ケンタ?」
「……大丈夫なわけないだろ」
僕は隣に寄り添うように座るロコの問いかけを一蹴する。
「僕らのせいで、僕らがこの時代にタイムリープしたせいで、佐倉君の人生を変えてしまうところだったんだ……。佐倉君から、大好きなテニスを奪い取るところだったんだ……くそっ!」
僕は背を丸めて座り込んだ足の間に、とげとげしい言葉を吐き捨てる。
「僕らが来なければ、きっと起こらなかったことだ! 僕らと出会わなければ、みんな平和で静かに暮らせていたのに! 僕らの身勝手なエゴのせいで、五十嵐君や佐倉君に……くそっ!」
「……でもさ、ケンタ?」
僕の右肩の上に、ふわり、とやわらかなポニーテールがのせられ、はっ、とする。
「その人生を選んだのは、ケンタじゃないよ。ケンタがみんなに押しつけたんじゃない。ハカセもかえでちゃんも、みんな自分の意思で選んだんだよ? そうなりたい、そうしたい、って」
「そう……かもしれない。けど――!」
ロコのセリフにうなずくのはカンタンだっただろう。
ココロの底からそう思えたのなら、どんなに楽だっただろう。
しかし、どうしても許せない、自分を許せない気持ちが膨れ上がっていくのを止められない。
けれど、その迷いを祓うようにポニーテールが、とん、とん、と僕の肩を叩く。
「そうかも、じゃないの。そうなんだよ? それに、みんなその選択を楽しんでるじゃない? 誰ひとり、後悔なんてしてないし、これからもしないと思う。ケンタはチャンスをあげただけ」
「チャンスを……あげただけ?」
「そ。ツッキーに言ったこととおんなじ」
とん――ポニーテールはうなずいてこう続けた。
「変わりたい、って望めば、誰でも変われるんだって。その、ほんのちょっぴりの手助けを、ケンタがしてあげたってだけなんだ。その結果は、それぞれがきちんと背負う。それでいいの」
「それで……いいのかな?」
「いいの。冒険に、危険はつきもの、でしょ? だからこそ、ステキで、楽しいんじゃない!」
「……そんなもんか?」
「そんなもんなの!」
いつまでもぐずぐずはっきりしない僕の態度にしびれを切らしたロコは、肩の上で飛び跳ねるようにして僕に顔を向ける。横を向くと、もう鼻と鼻がこすりあうほどの近さで見つめていた。
思わず――どきり――とした。
息が――止まる。
心臓が――跳ねる。
その僕をますます落ち着かない気持ちにさせる、真夏の向日葵のような笑顔は僕に囁くのだ。
「あんたはみんなのヒーローなの! 先輩ヒーローのあたしが言うんだから間違いないって!」
「!? ……ロコか。おどかすなよ」
僕自身の気持ちが沈んでいたせいもあるのだろう。不意に昇降口で声をかけられた僕は、不必要にどきりとしてしまい、ごまかすように大袈裟なリアクションでこたえた。それから言う。
「保険室の鈴白センセイの見立てでは、やっぱり捻挫だけで骨折まではしていないだろう、ってことだったよ。けど、無理を言って、病院で検査を受けさせてもらうようお願いしておいた」
「そっか……。でも、よかった」
「……最後まで佐倉君は、ロコを守るためなら怪我なんて、って抵抗してたよ」
「そっか……」
さすがに僕も堪えたのだろう。今すぐ戻る気にもなれず、スニーカーに履き替えた足はその場に貼り付いたように動かない。ついに、細く長く溜息を吐いてその場に座り込んでしまった。
「大丈夫、ケンタ?」
「……大丈夫なわけないだろ」
僕は隣に寄り添うように座るロコの問いかけを一蹴する。
「僕らのせいで、僕らがこの時代にタイムリープしたせいで、佐倉君の人生を変えてしまうところだったんだ……。佐倉君から、大好きなテニスを奪い取るところだったんだ……くそっ!」
僕は背を丸めて座り込んだ足の間に、とげとげしい言葉を吐き捨てる。
「僕らが来なければ、きっと起こらなかったことだ! 僕らと出会わなければ、みんな平和で静かに暮らせていたのに! 僕らの身勝手なエゴのせいで、五十嵐君や佐倉君に……くそっ!」
「……でもさ、ケンタ?」
僕の右肩の上に、ふわり、とやわらかなポニーテールがのせられ、はっ、とする。
「その人生を選んだのは、ケンタじゃないよ。ケンタがみんなに押しつけたんじゃない。ハカセもかえでちゃんも、みんな自分の意思で選んだんだよ? そうなりたい、そうしたい、って」
「そう……かもしれない。けど――!」
ロコのセリフにうなずくのはカンタンだっただろう。
ココロの底からそう思えたのなら、どんなに楽だっただろう。
しかし、どうしても許せない、自分を許せない気持ちが膨れ上がっていくのを止められない。
けれど、その迷いを祓うようにポニーテールが、とん、とん、と僕の肩を叩く。
「そうかも、じゃないの。そうなんだよ? それに、みんなその選択を楽しんでるじゃない? 誰ひとり、後悔なんてしてないし、これからもしないと思う。ケンタはチャンスをあげただけ」
「チャンスを……あげただけ?」
「そ。ツッキーに言ったこととおんなじ」
とん――ポニーテールはうなずいてこう続けた。
「変わりたい、って望めば、誰でも変われるんだって。その、ほんのちょっぴりの手助けを、ケンタがしてあげたってだけなんだ。その結果は、それぞれがきちんと背負う。それでいいの」
「それで……いいのかな?」
「いいの。冒険に、危険はつきもの、でしょ? だからこそ、ステキで、楽しいんじゃない!」
「……そんなもんか?」
「そんなもんなの!」
いつまでもぐずぐずはっきりしない僕の態度にしびれを切らしたロコは、肩の上で飛び跳ねるようにして僕に顔を向ける。横を向くと、もう鼻と鼻がこすりあうほどの近さで見つめていた。
思わず――どきり――とした。
息が――止まる。
心臓が――跳ねる。
その僕をますます落ち着かない気持ちにさせる、真夏の向日葵のような笑顔は僕に囁くのだ。
「あんたはみんなのヒーローなの! 先輩ヒーローのあたしが言うんだから間違いないって!」
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