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第268話 波乱ぶくみの運動会(14) at 1995/10/10
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『ええーと……これは一体――どういうことでしょうか?』
盛り上げ役を任された放送部の生徒の、スピーカー越しの声は若干うわずって聴こえた。
『借り物競争に出場中のひとりの選手が――女子生徒を抱えて――校庭を一周しております!』
『これは――パフォーマンスですかねぇ? それとも――お題に書かれた指令なのでしょうか』
『あ! 今、放送室に情報が――入ってきました! 選手は二年十一組の五十嵐君のようです』
『どれどれ……抱えられている女子は――水無月さんっ!? あの――水無月さんですか!?』
二人がトラックを一周すると、盛り上がった観客席からたちまち冷やかしの言葉が飛んだ。
「いいぞー! 熱いぜー! ひゅーひゅー!」
「きゃー! お姫様だっこなんて憧れちゃうー!」
「そのまま結婚しちゃえー!」
その一方で、とまどいと羨望の入り混じった声もちらほら聴こえてくるようだった。
「水無月さんって……あの!? なんかすっごい可愛くなってない……?」
「ブッキーとか呼ばれてた子……だっけ? ぜんぜん印象違うんだけど?」
「なんか、照れちゃって真っ赤じゃん……でも、そこがかわいいなぁ……」
さて、当の本人たちはというと。
「ゆ、弓之助君……!? と、止めて! お、降ろして……くださいよぉおおおおおお……!」
「……いえ、それはできません。これは借り物競争のお題なのですから」
「は、恥ずかしい……よぅ……! そ、それに、こんなことしたら……弓之助君まで……!!」
水無月さんは、まるで四〇度近くの高熱が出てるんじゃないかと心配になるくらいに顔どころかむき出しの腕やふとももまで真っ赤になっていたが、細くてもチカラ強い両腕で抱え上げられていてはまともに身動きができないようだ。
抱える側の五十嵐君の方も、表情こそいつもの少し無機質にも見えるアルカイックスマイルを維持していたが、それだけに機械の故障かなにかで今にも耳から煙が出てきそうなイキオイだった。それに加えて、いくらやせ型で軽いとは言いつつも、人ひとりを抱えるのは辛そうだ。
「あと半周だぞ! がんばれー!」
「ファイトだよー! ゴーゴー!」
これがいかにも誰もがうらやむイケメン・イケ女のカップルであれば、ぐうの音も出ない代わりに妬みの声も聞こえたりするものだが、意外や意外、自分たちと同レベルもしくはそれより格下扱いということもあってか、観客たちには妙な親近感と保護欲が湧いている様子だった。
だが、しかし――。
「……なによ、あれ? ブッキーのくせに……! 超キモチワルイ!!」
「……男の方も相当な変わりモンなんでしょ? 変人で有名なさ。ウケるwww」
「……死にかけゾンビ女とマッド・サイエンティストのカップルなんて、超お似合いじゃん!」
その声がした二年二組の正面あたりで、ぴたり、と五十嵐君は足を止めた。そして、優しく水無月さんを降ろしてあげてから、ぎろり、と視線を向けて息を吸う。
一気に――吐き出した!
「僕は! 水無月さんのことが好きですっ! だからっ! 彼女を傷つけるようなことがあったらっ! 僕は絶っ対に許しませんっ! 彼女への文句はっ! この僕が受けて立ちますっ!」
その決意の瞳は、どこも見ていないようでいて――確実に彼女たちを捉えているようだった。
「僕のような! 何を考えているのかわからない奴を怒らせると、一体どうなるかっ! 足りない頭で想像してみるがいい! きっと僕は! その想像の一〇〇倍はイカレてますからっ!」
「ひ――っ……!」
どこからか、か細い悲鳴が漏れ出た。
だろうと思った――彼女たち以外の生徒は呆れたように軽く肩をすくめると、目の前の演説者に視線を戻した。
「でも! そんな奴らよりもっ! 何倍もっ! 何百倍もっ! 彼女を幸せにしてみせるっ! この世界は美しくて楽しいんだって! それこそがそんな奴らへの最大の復讐なのですっ!」
一拍ののち。
静かに耳を傾けていた聴衆は、小さな演説者に割れんばかりの惜しみのない拍手と声援を送ったのだった。
盛り上げ役を任された放送部の生徒の、スピーカー越しの声は若干うわずって聴こえた。
『借り物競争に出場中のひとりの選手が――女子生徒を抱えて――校庭を一周しております!』
『これは――パフォーマンスですかねぇ? それとも――お題に書かれた指令なのでしょうか』
『あ! 今、放送室に情報が――入ってきました! 選手は二年十一組の五十嵐君のようです』
『どれどれ……抱えられている女子は――水無月さんっ!? あの――水無月さんですか!?』
二人がトラックを一周すると、盛り上がった観客席からたちまち冷やかしの言葉が飛んだ。
「いいぞー! 熱いぜー! ひゅーひゅー!」
「きゃー! お姫様だっこなんて憧れちゃうー!」
「そのまま結婚しちゃえー!」
その一方で、とまどいと羨望の入り混じった声もちらほら聴こえてくるようだった。
「水無月さんって……あの!? なんかすっごい可愛くなってない……?」
「ブッキーとか呼ばれてた子……だっけ? ぜんぜん印象違うんだけど?」
「なんか、照れちゃって真っ赤じゃん……でも、そこがかわいいなぁ……」
さて、当の本人たちはというと。
「ゆ、弓之助君……!? と、止めて! お、降ろして……くださいよぉおおおおおお……!」
「……いえ、それはできません。これは借り物競争のお題なのですから」
「は、恥ずかしい……よぅ……! そ、それに、こんなことしたら……弓之助君まで……!!」
水無月さんは、まるで四〇度近くの高熱が出てるんじゃないかと心配になるくらいに顔どころかむき出しの腕やふとももまで真っ赤になっていたが、細くてもチカラ強い両腕で抱え上げられていてはまともに身動きができないようだ。
抱える側の五十嵐君の方も、表情こそいつもの少し無機質にも見えるアルカイックスマイルを維持していたが、それだけに機械の故障かなにかで今にも耳から煙が出てきそうなイキオイだった。それに加えて、いくらやせ型で軽いとは言いつつも、人ひとりを抱えるのは辛そうだ。
「あと半周だぞ! がんばれー!」
「ファイトだよー! ゴーゴー!」
これがいかにも誰もがうらやむイケメン・イケ女のカップルであれば、ぐうの音も出ない代わりに妬みの声も聞こえたりするものだが、意外や意外、自分たちと同レベルもしくはそれより格下扱いということもあってか、観客たちには妙な親近感と保護欲が湧いている様子だった。
だが、しかし――。
「……なによ、あれ? ブッキーのくせに……! 超キモチワルイ!!」
「……男の方も相当な変わりモンなんでしょ? 変人で有名なさ。ウケるwww」
「……死にかけゾンビ女とマッド・サイエンティストのカップルなんて、超お似合いじゃん!」
その声がした二年二組の正面あたりで、ぴたり、と五十嵐君は足を止めた。そして、優しく水無月さんを降ろしてあげてから、ぎろり、と視線を向けて息を吸う。
一気に――吐き出した!
「僕は! 水無月さんのことが好きですっ! だからっ! 彼女を傷つけるようなことがあったらっ! 僕は絶っ対に許しませんっ! 彼女への文句はっ! この僕が受けて立ちますっ!」
その決意の瞳は、どこも見ていないようでいて――確実に彼女たちを捉えているようだった。
「僕のような! 何を考えているのかわからない奴を怒らせると、一体どうなるかっ! 足りない頭で想像してみるがいい! きっと僕は! その想像の一〇〇倍はイカレてますからっ!」
「ひ――っ……!」
どこからか、か細い悲鳴が漏れ出た。
だろうと思った――彼女たち以外の生徒は呆れたように軽く肩をすくめると、目の前の演説者に視線を戻した。
「でも! そんな奴らよりもっ! 何倍もっ! 何百倍もっ! 彼女を幸せにしてみせるっ! この世界は美しくて楽しいんだって! それこそがそんな奴らへの最大の復讐なのですっ!」
一拍ののち。
静かに耳を傾けていた聴衆は、小さな演説者に割れんばかりの惜しみのない拍手と声援を送ったのだった。
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