262 / 539
第261話 波乱ぶくみの運動会(7) at 1995/10/10
しおりを挟む
きーんこーんかーんこーん――。
「わーい! やったぁー! お昼だ、お昼だー!」
お前は小学生か、シブチン。
つーか……。
「……よくあんな殺伐としたグロ光景見たあとに食欲湧くよな。キャラブレしてないっつーか」
「今日のお弁当は、煮込みハンバーグですがなにか?」
マジかよ。
西町田中学校運動会、午前の部のトリを飾る競技、二年生による「棒倒し」では、予想をはるかに上回るエキサイティングかつスプラッターな阿鼻叫喚の惨劇が繰り広げられたのであった。
『いくぞぉー!』『うぉおおおおお!』
という怒号が六色の陣営から響き渡ったかと思うと、それに続くように、やれ『殺せぇえええ!』だの『死ねぇえええ!』だのと狂気に満ちた叫びが続き、棒を支える生徒たち目がけて一斉にタックルや飛び蹴りが降り注いだのだ。
それだけでも十分常軌を逸しているというのに、あちこちで取っ組み合いや殴り合いがはじまってしまい、もう最初から競技と呼べるものではなかったと思う。これにはさすがに観覧に来ている父母たちもドン引きかと思いきや、意外にも、俺にもあたしにもやらせろ的なノリで激励の声をあげている光景には、さすがに地域の防犯レベルを疑うほどだ。
最後には、というか、途中から体育教師たちが割って入り――さすがにフツーの教師は尻込みしてた――いくつかの紛争を収めていたが、そんなもので沈められるわけもなく、競技が終わった今、お昼の時間になってもあちこちで女子生徒たちによる献身的な治療が行われているのであった。
「どんだけ血に飢えてんだよ、ウチの中学は……」
「み、みんな怖かったですよぅ……騎馬戦も、あんなカンジなんですかね……やだなぁ……」
「大丈夫だよ! かえでちゃんは僕が守るから!」
「同じ騎馬なのですから、守ることは不可能だと思うのですが、渋田サブリーダー……」
「はいはい! ちょっといいかしらー、陰キャの男子諸君?」
「な、なんだよ、ロコ……?」
僕ら『電算論理研究部』の男子部員たちが陰々鬱々とハムスターのように身を寄せ合ってぷるぷる震えているところに、突然ロコが声を掛けてきた。見ると、他の三人の姿もある。
「なんだよ、じゃないでしょ? お昼の時間じゃんか。ほら、こっち来る!」
「……はい?」
仕方なくロコたちに呼ばれるがままにのこのこついていく僕ら。
すると――。
「うわー! ごちそうだー! え? え? これ。どうしたの?」
生徒席の後ろにはすでにレジャーシートが四枚ほど敷かれていて、その中心にいろとりどりの豪華な料理がいくつもタッパーに詰められて並べられていたのだ。指さしながら尋ねる僕。
「ま……まさか、これ……みんなで作ってきてくれたの!?」
「じゃーん! そーだよ、ケンタ君! さーさー! みんな、座って座ってー!」
「座ってって……ス、スミちゃんの、と、隣に!?」
「そ、そこまでは言ってません! 馬鹿っ!」
ハンバーグに唐揚げ、玉子焼きにタコさんウインナー、おにぎりもカラフルで種類豊富でどれも美味しそうだ。いやいや、女子が一生懸命作ってきてくれたお弁当がマズいわけがない。
「麦茶いる人ー!」
「はーい!」
「ほ、ほら! こっちの奴も食べなさいよっ!」
「……あ、この不格好なの、絶対サトチンが作っごがげぶっ!」
「お、おいしい、かな?」
「もちろん、とても美味しいですよ、ツッキー」
「あ、ありがとう、スミちゃん! 練習しなきゃ、って言ってたもんね」
「えっ……ああ、うん! そうだよー、ケンタ君!」
これで僕らは、あと五年は戦える!(気持ちの上では)
「わーい! やったぁー! お昼だ、お昼だー!」
お前は小学生か、シブチン。
つーか……。
「……よくあんな殺伐としたグロ光景見たあとに食欲湧くよな。キャラブレしてないっつーか」
「今日のお弁当は、煮込みハンバーグですがなにか?」
マジかよ。
西町田中学校運動会、午前の部のトリを飾る競技、二年生による「棒倒し」では、予想をはるかに上回るエキサイティングかつスプラッターな阿鼻叫喚の惨劇が繰り広げられたのであった。
『いくぞぉー!』『うぉおおおおお!』
という怒号が六色の陣営から響き渡ったかと思うと、それに続くように、やれ『殺せぇえええ!』だの『死ねぇえええ!』だのと狂気に満ちた叫びが続き、棒を支える生徒たち目がけて一斉にタックルや飛び蹴りが降り注いだのだ。
それだけでも十分常軌を逸しているというのに、あちこちで取っ組み合いや殴り合いがはじまってしまい、もう最初から競技と呼べるものではなかったと思う。これにはさすがに観覧に来ている父母たちもドン引きかと思いきや、意外にも、俺にもあたしにもやらせろ的なノリで激励の声をあげている光景には、さすがに地域の防犯レベルを疑うほどだ。
最後には、というか、途中から体育教師たちが割って入り――さすがにフツーの教師は尻込みしてた――いくつかの紛争を収めていたが、そんなもので沈められるわけもなく、競技が終わった今、お昼の時間になってもあちこちで女子生徒たちによる献身的な治療が行われているのであった。
「どんだけ血に飢えてんだよ、ウチの中学は……」
「み、みんな怖かったですよぅ……騎馬戦も、あんなカンジなんですかね……やだなぁ……」
「大丈夫だよ! かえでちゃんは僕が守るから!」
「同じ騎馬なのですから、守ることは不可能だと思うのですが、渋田サブリーダー……」
「はいはい! ちょっといいかしらー、陰キャの男子諸君?」
「な、なんだよ、ロコ……?」
僕ら『電算論理研究部』の男子部員たちが陰々鬱々とハムスターのように身を寄せ合ってぷるぷる震えているところに、突然ロコが声を掛けてきた。見ると、他の三人の姿もある。
「なんだよ、じゃないでしょ? お昼の時間じゃんか。ほら、こっち来る!」
「……はい?」
仕方なくロコたちに呼ばれるがままにのこのこついていく僕ら。
すると――。
「うわー! ごちそうだー! え? え? これ。どうしたの?」
生徒席の後ろにはすでにレジャーシートが四枚ほど敷かれていて、その中心にいろとりどりの豪華な料理がいくつもタッパーに詰められて並べられていたのだ。指さしながら尋ねる僕。
「ま……まさか、これ……みんなで作ってきてくれたの!?」
「じゃーん! そーだよ、ケンタ君! さーさー! みんな、座って座ってー!」
「座ってって……ス、スミちゃんの、と、隣に!?」
「そ、そこまでは言ってません! 馬鹿っ!」
ハンバーグに唐揚げ、玉子焼きにタコさんウインナー、おにぎりもカラフルで種類豊富でどれも美味しそうだ。いやいや、女子が一生懸命作ってきてくれたお弁当がマズいわけがない。
「麦茶いる人ー!」
「はーい!」
「ほ、ほら! こっちの奴も食べなさいよっ!」
「……あ、この不格好なの、絶対サトチンが作っごがげぶっ!」
「お、おいしい、かな?」
「もちろん、とても美味しいですよ、ツッキー」
「あ、ありがとう、スミちゃん! 練習しなきゃ、って言ってたもんね」
「えっ……ああ、うん! そうだよー、ケンタ君!」
これで僕らは、あと五年は戦える!(気持ちの上では)
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる