249 / 539
第248話 負けられない戦い(なお練習につき) at 1995/9/25
しおりを挟む
「よ……よし! 女だからって手加減なんかしないからな!」
「あらあら、カッコイイことゆーじゃん? かかって来な!」
カッコイイか、これ。
むしろ、悪役が口にしそうなセリフ、ベスト5には入りそうなんだが。
ふと冷静になって客観視してみると、向かい合うように三〇センチメートルの距離で並べられた跳び箱の上にまたがって、柔道の試合よろしくどちらも相手を威嚇するかのように両手を高々と掲げ構えている。その姿はまるで『ドキッ! 丸ごと水着、女だらけの水泳大会』恒例の、水の上の丸太にまたがり、ソフトな棒で相手を殴りつけて落としたら勝ち、の格闘ゲームのようでもあり、真剣なのにどことなく間の抜けた印象が拭えない。誰のアイディアだ、これ。
「あれあれあれー? 口ばっかじゃんか。ぜんぜん手ぇ出してこないし。……びびってんの?」
「ちょ――! ここ、バランス悪いんだって! そういうロコだって、待ちの一手じゃんか!」
「ふーん、こっちから攻めてもいいのー? 一瞬で決まっちゃうよー?」
「はっはーん! そうは行くかって! いくらロコがフィジカルお化けでもだな――」
――ひょいっ。
「んー? なんか言った? あら? あたしの手の中に、いつの間にかケンタのハチマキが!」
「んぐぐぐぐぐ! くっそ! もう一回だ! もう一回!!」
ぽい、とゴミでも捨てるかのように雑な仕草で放り投げられたハチマキをキャッチする。
いや、いくらなんでも動きが早すぎるだろ……。
今の、ほとんど目で追えてなかったんだけど!
今度こそ、と、きっちりとハチマキを締め直し、僕は再び余裕しゃくしゃくのロコを睨んだ。
「うっわ……引くくらい顔がマジなんだけど。でも、そんなもんで怖がると思ったら大間違い」
「うっせ! せいぜいいい気になってるがいいさ! こういうのはムキになった方が負け――」
またしても――ひょいっ。
「あっれー? おかしいなー? ムキになってるのはケンタの方なんじゃなーい? くすくす」
「かっちーん! あーあ! お前、僕を本気にさせたことを後悔させてやる! ……か、返せ」
ぺちん、とさらに挑発するかのように、僕の顔目がけてハチマキが投げ返されてきた。
この時点で僕はまったく冷静ではないし、なんなら悔しさのあまり跳び箱上面のクッション部分をばんばん叩いていた。四〇にもなって……と言われそうだが、相手も四〇なのである。
「こうなったら秘策を使うしかないな……。これだけは最後までとっておきたかったんだけど」
さっきよりもさらにきつく、締めすぎて脳が耳と鼻から漏れるんじゃあるまいかと思うくらいに念入りにハチマキを締め直した僕に、負ける要素などひとつもない、とロコがうそぶく。
「なーんか真剣みが足りないんじゃなーい? ご褒美のひとつでもあればやる気出るのかしら」
「あーはいはい、言ってろ言ってろ。こう見えて、僕だってこれ以上ないくらい真剣なんだ! だって、もし負けたら、ロコをムロに取られちゃうんだからな! それだけは――嫌なんだ!」
「は――はぇ? ………………あぁっ!?」
――がしっ!
「よっし! とったどぉおおおおお!!」
「えっ、えっ? ええええええぇー!?」
まさか本当に、この僕ごときにハチマキを取られるとは思っていなかったのか、顔じゅうを真っ赤に染めて放心状態になったロコは驚きのあまり叫び声をあげている。ざまあみろだ。
まあ、驚いているのは、無我夢中で手を伸ばしたら取れてしまった僕も同じだ。秘策とか言ってみたものの、別にこれといった作戦なんて何もない。なんとなく言ってみただけである。
「ちょ――ちょっと! 今のは! 今のはナシだからっ! だって……だって……!」
「はーっはっはっはー! 見苦しいぞ、ロコ! これぞ僕の実力だ!」
「ナシったらナシだって! 高笑いしてないで、ハチマキ返しなさ――きゃあああああぁ!」
「あらあら、カッコイイことゆーじゃん? かかって来な!」
カッコイイか、これ。
むしろ、悪役が口にしそうなセリフ、ベスト5には入りそうなんだが。
ふと冷静になって客観視してみると、向かい合うように三〇センチメートルの距離で並べられた跳び箱の上にまたがって、柔道の試合よろしくどちらも相手を威嚇するかのように両手を高々と掲げ構えている。その姿はまるで『ドキッ! 丸ごと水着、女だらけの水泳大会』恒例の、水の上の丸太にまたがり、ソフトな棒で相手を殴りつけて落としたら勝ち、の格闘ゲームのようでもあり、真剣なのにどことなく間の抜けた印象が拭えない。誰のアイディアだ、これ。
「あれあれあれー? 口ばっかじゃんか。ぜんぜん手ぇ出してこないし。……びびってんの?」
「ちょ――! ここ、バランス悪いんだって! そういうロコだって、待ちの一手じゃんか!」
「ふーん、こっちから攻めてもいいのー? 一瞬で決まっちゃうよー?」
「はっはーん! そうは行くかって! いくらロコがフィジカルお化けでもだな――」
――ひょいっ。
「んー? なんか言った? あら? あたしの手の中に、いつの間にかケンタのハチマキが!」
「んぐぐぐぐぐ! くっそ! もう一回だ! もう一回!!」
ぽい、とゴミでも捨てるかのように雑な仕草で放り投げられたハチマキをキャッチする。
いや、いくらなんでも動きが早すぎるだろ……。
今の、ほとんど目で追えてなかったんだけど!
今度こそ、と、きっちりとハチマキを締め直し、僕は再び余裕しゃくしゃくのロコを睨んだ。
「うっわ……引くくらい顔がマジなんだけど。でも、そんなもんで怖がると思ったら大間違い」
「うっせ! せいぜいいい気になってるがいいさ! こういうのはムキになった方が負け――」
またしても――ひょいっ。
「あっれー? おかしいなー? ムキになってるのはケンタの方なんじゃなーい? くすくす」
「かっちーん! あーあ! お前、僕を本気にさせたことを後悔させてやる! ……か、返せ」
ぺちん、とさらに挑発するかのように、僕の顔目がけてハチマキが投げ返されてきた。
この時点で僕はまったく冷静ではないし、なんなら悔しさのあまり跳び箱上面のクッション部分をばんばん叩いていた。四〇にもなって……と言われそうだが、相手も四〇なのである。
「こうなったら秘策を使うしかないな……。これだけは最後までとっておきたかったんだけど」
さっきよりもさらにきつく、締めすぎて脳が耳と鼻から漏れるんじゃあるまいかと思うくらいに念入りにハチマキを締め直した僕に、負ける要素などひとつもない、とロコがうそぶく。
「なーんか真剣みが足りないんじゃなーい? ご褒美のひとつでもあればやる気出るのかしら」
「あーはいはい、言ってろ言ってろ。こう見えて、僕だってこれ以上ないくらい真剣なんだ! だって、もし負けたら、ロコをムロに取られちゃうんだからな! それだけは――嫌なんだ!」
「は――はぇ? ………………あぁっ!?」
――がしっ!
「よっし! とったどぉおおおおお!!」
「えっ、えっ? ええええええぇー!?」
まさか本当に、この僕ごときにハチマキを取られるとは思っていなかったのか、顔じゅうを真っ赤に染めて放心状態になったロコは驚きのあまり叫び声をあげている。ざまあみろだ。
まあ、驚いているのは、無我夢中で手を伸ばしたら取れてしまった僕も同じだ。秘策とか言ってみたものの、別にこれといった作戦なんて何もない。なんとなく言ってみただけである。
「ちょ――ちょっと! 今のは! 今のはナシだからっ! だって……だって……!」
「はーっはっはっはー! 見苦しいぞ、ロコ! これぞ僕の実力だ!」
「ナシったらナシだって! 高笑いしてないで、ハチマキ返しなさ――きゃあああああぁ!」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる