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第225話 『西中まつり』(12) at 1995/9/15
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「うーん……。すっかりお客さん、怖がって寄り付かなくなっちゃったねー……」
「まっ、仕方ないんじゃない? なにしろあんな大騒動があったあとなんだからさ」
こうなってしまうのはある程度予想はできていた。
しかし、僕たちが戻ってからも視聴覚室の前は閑散としていた。
いや、その前からずっとだと言う。
「あ、あのさ……あたし――!!」
「ロコちゃん? もしかして、あたしのせいだ、もうやめる、って言い出す気じゃないよね?」
もはや誰も来ないので、入り口前の受付のところに僕らは集合していた。ぐずり、とロコが震えた声で喋りかけたところに、純美子の厳しい口調がかぶせられた。しかし、にこりと笑う。
「ロコちゃんだからこうなった、ってわけじゃないんだよ? もしあたしだったとしても、サトちゃんだったとしても、他のみんなだったって、誰だって同じように怒ってたはずだから」
「そうは言うけど――!」
それでも責任を感じずにはいられないロコがもやつく感情を言葉にして吐き出したが、
「ノハラさんさ、なんか難しく考えすぎじゃない? あたしたちは頑張った! でも、ちょっと運がなかった。そんだけのハナシだって。それに、来てくれた人たちは楽しんでくれたしね」
「そーそー。きっと満足度調査ならいいセンいってると思うよ。僕とサトチン、頑張ったもん」
「まっ、主にあたしの演技力のおかげですけどー?」
「い、いやいやいや! 僕も頑張ったよね? ね?」
息の合った夫婦漫才に、みんなの顔に笑顔が浮かんだが――ひとりだけすぐに曇ってしまう。
やがて。
「あたし……最低だ……。みんなであんなに頑張ってきたのに……ううっ……」
止めようのない嗚咽とともに、くしゃくしゃに歪められたロコの顔を伝って、ぽとり、ぽとり、と大粒の涙が溢れて零れ落ちた。その光景を目の当たりにしてひとり僕は、ひどく驚き、すっかり慌てふためいてしまっていた。なぜなら、ロコのこんな泣き顔なんて、生まれてこの方見たことがなかったからだ。思わず空気も読まずに自分の頬をつねりそうになったくらいだ。
これにはさすがに誰ひとり言葉が出なくなった。
かろうじて声が出せたのは僕だけだ。
「お、おいおい、ロコ――」
「あんたにだって! ケンタにだって怪我させちゃったし! こんなあたしなんて……っ!!」
ダメだ。
僕が声を掛けたら逆効果になる。
その時だった。
「ロ、ロコ……ちゃん……? き、聞いて……くれる……?」
おずおずと口を開いたのは――水無月さんだ。
「あ、あたし――あたしはっ! と、とっても嬉しかった……よ! だって……だって……!」
まだ声は弱々しく頼りなげだったけれど、それでも懸命に拳を握り締めてチカラを込め叫ぶ。
「あ、あたしのために……怒ってくれる友だちなんて……い、いなかったもの……! ロ、ロコちゃんがいたから……! あ、あたしは変われたんだ……! 友だちができたんだよ……!」
「ツッキー……!」
「だ、だから……! あ、あたしたちもあきらめない……っ! ロ、ロコちゃんを取られるなんて……ぜ、絶対に許せないもん……! ぶ、部長……っ! そ、そうです……よね……!?」
純粋で疑うことを知らない水無月さんの目が僕をじっと見つめている。そこであっさり、ノー、と首を振れるほど、僕は現実主義者でも悲観論者でもなかった。
(なんてって僕ら、中学生なんだからな。この歳から人生悟ってどうすんだってハナシだろ)
一人、また一人と僕を見つめる目が増えていく。
そして全員が見つめる中、僕はにやりと笑ってみせた。
なんの根拠もない。
成功する自信なんてない。
でも、やる価値ならここにある。
「僕が思いつく作戦なんてたかが知れてる。効果なんて期待できない。それでもやるのかい?」
「まっ、仕方ないんじゃない? なにしろあんな大騒動があったあとなんだからさ」
こうなってしまうのはある程度予想はできていた。
しかし、僕たちが戻ってからも視聴覚室の前は閑散としていた。
いや、その前からずっとだと言う。
「あ、あのさ……あたし――!!」
「ロコちゃん? もしかして、あたしのせいだ、もうやめる、って言い出す気じゃないよね?」
もはや誰も来ないので、入り口前の受付のところに僕らは集合していた。ぐずり、とロコが震えた声で喋りかけたところに、純美子の厳しい口調がかぶせられた。しかし、にこりと笑う。
「ロコちゃんだからこうなった、ってわけじゃないんだよ? もしあたしだったとしても、サトちゃんだったとしても、他のみんなだったって、誰だって同じように怒ってたはずだから」
「そうは言うけど――!」
それでも責任を感じずにはいられないロコがもやつく感情を言葉にして吐き出したが、
「ノハラさんさ、なんか難しく考えすぎじゃない? あたしたちは頑張った! でも、ちょっと運がなかった。そんだけのハナシだって。それに、来てくれた人たちは楽しんでくれたしね」
「そーそー。きっと満足度調査ならいいセンいってると思うよ。僕とサトチン、頑張ったもん」
「まっ、主にあたしの演技力のおかげですけどー?」
「い、いやいやいや! 僕も頑張ったよね? ね?」
息の合った夫婦漫才に、みんなの顔に笑顔が浮かんだが――ひとりだけすぐに曇ってしまう。
やがて。
「あたし……最低だ……。みんなであんなに頑張ってきたのに……ううっ……」
止めようのない嗚咽とともに、くしゃくしゃに歪められたロコの顔を伝って、ぽとり、ぽとり、と大粒の涙が溢れて零れ落ちた。その光景を目の当たりにしてひとり僕は、ひどく驚き、すっかり慌てふためいてしまっていた。なぜなら、ロコのこんな泣き顔なんて、生まれてこの方見たことがなかったからだ。思わず空気も読まずに自分の頬をつねりそうになったくらいだ。
これにはさすがに誰ひとり言葉が出なくなった。
かろうじて声が出せたのは僕だけだ。
「お、おいおい、ロコ――」
「あんたにだって! ケンタにだって怪我させちゃったし! こんなあたしなんて……っ!!」
ダメだ。
僕が声を掛けたら逆効果になる。
その時だった。
「ロ、ロコ……ちゃん……? き、聞いて……くれる……?」
おずおずと口を開いたのは――水無月さんだ。
「あ、あたし――あたしはっ! と、とっても嬉しかった……よ! だって……だって……!」
まだ声は弱々しく頼りなげだったけれど、それでも懸命に拳を握り締めてチカラを込め叫ぶ。
「あ、あたしのために……怒ってくれる友だちなんて……い、いなかったもの……! ロ、ロコちゃんがいたから……! あ、あたしは変われたんだ……! 友だちができたんだよ……!」
「ツッキー……!」
「だ、だから……! あ、あたしたちもあきらめない……っ! ロ、ロコちゃんを取られるなんて……ぜ、絶対に許せないもん……! ぶ、部長……っ! そ、そうです……よね……!?」
純粋で疑うことを知らない水無月さんの目が僕をじっと見つめている。そこであっさり、ノー、と首を振れるほど、僕は現実主義者でも悲観論者でもなかった。
(なんてって僕ら、中学生なんだからな。この歳から人生悟ってどうすんだってハナシだろ)
一人、また一人と僕を見つめる目が増えていく。
そして全員が見つめる中、僕はにやりと笑ってみせた。
なんの根拠もない。
成功する自信なんてない。
でも、やる価値ならここにある。
「僕が思いつく作戦なんてたかが知れてる。効果なんて期待できない。それでもやるのかい?」
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