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第223話 『西中まつり』(10) at 1995/9/15
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「とりあえず鼻血は止まったし、骨折とかもしてないようだから。けれど……本当に大丈夫?」
クレゾールの臭いがする保健室で鈴白センセイは、はじめにロコを見つめ、うつむき床を見つめたまま顔を上げようとしない姿に溜息をつくと、僕に視線をずらしてそう尋ねたのだった。
「ええと……不注意から起きた事故、なので。ほ、ほら、彼女たちも言ってたじゃないですか」
僕は歯切れの悪い口調でもごもごこたえる。
そして、ロコの額に貼られた絆創膏を見つめた。
実のところ、ついさっきまでは大変な騒ぎだったのだ。
『ば、馬鹿っ! やめ――ろっ!!』
ごがっ!!!
渾身のチカラを振り絞って、僕は例の二人のうちの一人――二組の向井さんとかいう子らしい――の顔目がけて、フルスイングされたロコのカラダをなんとか引き戻そうとした。直後、鈍い音がしたのは僕の顔面からだ。引き戻された反動と火事場のなんとやらでイキオイを増したロコの後頭部が、ついさっきも一発もらったばかりの僕の鼻っ柱を見事に捕らえたのだった。
『ぐ――っ!?』
『痛ったぁ!?』
『きゃあああああ!!』
さすがに二回目とあっては無理もなく、僕の鼻腔から、ぷっ、と鮮血が噴き出した。猛獣のごとく暴れるロコをチカラで抑えるために、息を溜め、止めていたせいもあった。思ったよりもイキオイがついた僕の鼻血に、集まっていたお客さんたちまでたちまちパニック状態になる。
しかし。
ロコだけは違った。
『痛たたた……! もう! 何すんのよ、ケンタッ!?』
突然の痛みとちかちかする視界に翻弄されて腕をゆるめたスキに、ロコは一声叫んだかと思うと、くるり、と振り返って、僕の胸倉をまだ収まらぬ怒りの赴くままに掴み引き寄せた。が、僕は半ば脳震盪のような状態に陥っていて、ロコの引くチカラに一切抵抗することはなかった。
で――ごつっ!!
『ぐ――っ!?』
『痛ったぁ!?』
その結果が、ロコの額に貼られている真新しい絆創膏だったりする。
ちなみに僕の方は、寸分違わず同じ場所に三回も手加減なしの一撃(いや、三撃か)を頂戴したわけだ。その後は、あまりの惨状に逃げるに逃げられなくなったあの二人が、僕らをここまで送り届けてくれたってわけ。
「不注意、ねぇ……」
鈴白センセイは呆れた声音でそう繰り返すと、ぐるりと椅子を回してデスクに向き直り、カルテに僕らの状況を記入しはじめた。やがて書き終えたのか、溜息をついてペンを置く。
「じゃあ、どういう事情かは聞かないわ。でもね? オトナに頼るのも大切なことなのよ?」
「は、はい。すみません……」
「……」
あいかわらずロコは口を開こうともせず、むっつりと唇を一文字に引き結んでいる。
ロコのことだ、絶対に納得はしていないし、彼女たちを許す気もないのだろう。かといって、今からわざわざ出向いて探し出して――というつもりでもないようだ。ただ、くすぶっている。
「せっかくの文化祭なんだもの、もうちょっと楽しい方向で思い出に残るようにしないとね?」
眉を下げて鈴白センセイは言い、僕たちのために羽織った白衣を脱いで椅子の背にかけた。
「じゃ念のため、もうしばらく安静にしていてね、古ノ森君。あたしはもう一度みんなの出し物の見学にいってくるから」
「え……あ、あの、部屋の鍵は……?」
「んー。開けたままでいいわよ? さすがに今日はもう来る子もいないと思うし」
「……はぁ」
がらら、ぴしっ――。
そして保健室の中に、満身創痍の僕と物言わぬロコだけが取り残された。
クレゾールの臭いがする保健室で鈴白センセイは、はじめにロコを見つめ、うつむき床を見つめたまま顔を上げようとしない姿に溜息をつくと、僕に視線をずらしてそう尋ねたのだった。
「ええと……不注意から起きた事故、なので。ほ、ほら、彼女たちも言ってたじゃないですか」
僕は歯切れの悪い口調でもごもごこたえる。
そして、ロコの額に貼られた絆創膏を見つめた。
実のところ、ついさっきまでは大変な騒ぎだったのだ。
『ば、馬鹿っ! やめ――ろっ!!』
ごがっ!!!
渾身のチカラを振り絞って、僕は例の二人のうちの一人――二組の向井さんとかいう子らしい――の顔目がけて、フルスイングされたロコのカラダをなんとか引き戻そうとした。直後、鈍い音がしたのは僕の顔面からだ。引き戻された反動と火事場のなんとやらでイキオイを増したロコの後頭部が、ついさっきも一発もらったばかりの僕の鼻っ柱を見事に捕らえたのだった。
『ぐ――っ!?』
『痛ったぁ!?』
『きゃあああああ!!』
さすがに二回目とあっては無理もなく、僕の鼻腔から、ぷっ、と鮮血が噴き出した。猛獣のごとく暴れるロコをチカラで抑えるために、息を溜め、止めていたせいもあった。思ったよりもイキオイがついた僕の鼻血に、集まっていたお客さんたちまでたちまちパニック状態になる。
しかし。
ロコだけは違った。
『痛たたた……! もう! 何すんのよ、ケンタッ!?』
突然の痛みとちかちかする視界に翻弄されて腕をゆるめたスキに、ロコは一声叫んだかと思うと、くるり、と振り返って、僕の胸倉をまだ収まらぬ怒りの赴くままに掴み引き寄せた。が、僕は半ば脳震盪のような状態に陥っていて、ロコの引くチカラに一切抵抗することはなかった。
で――ごつっ!!
『ぐ――っ!?』
『痛ったぁ!?』
その結果が、ロコの額に貼られている真新しい絆創膏だったりする。
ちなみに僕の方は、寸分違わず同じ場所に三回も手加減なしの一撃(いや、三撃か)を頂戴したわけだ。その後は、あまりの惨状に逃げるに逃げられなくなったあの二人が、僕らをここまで送り届けてくれたってわけ。
「不注意、ねぇ……」
鈴白センセイは呆れた声音でそう繰り返すと、ぐるりと椅子を回してデスクに向き直り、カルテに僕らの状況を記入しはじめた。やがて書き終えたのか、溜息をついてペンを置く。
「じゃあ、どういう事情かは聞かないわ。でもね? オトナに頼るのも大切なことなのよ?」
「は、はい。すみません……」
「……」
あいかわらずロコは口を開こうともせず、むっつりと唇を一文字に引き結んでいる。
ロコのことだ、絶対に納得はしていないし、彼女たちを許す気もないのだろう。かといって、今からわざわざ出向いて探し出して――というつもりでもないようだ。ただ、くすぶっている。
「せっかくの文化祭なんだもの、もうちょっと楽しい方向で思い出に残るようにしないとね?」
眉を下げて鈴白センセイは言い、僕たちのために羽織った白衣を脱いで椅子の背にかけた。
「じゃ念のため、もうしばらく安静にしていてね、古ノ森君。あたしはもう一度みんなの出し物の見学にいってくるから」
「え……あ、あの、部屋の鍵は……?」
「んー。開けたままでいいわよ? さすがに今日はもう来る子もいないと思うし」
「……はぁ」
がらら、ぴしっ――。
そして保健室の中に、満身創痍の僕と物言わぬロコだけが取り残された。
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