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第212話 ヒーロー≠ヒロイン at 1995/9/13
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「ふーっ! これで、ひとまずは一通りのリハーサルができたぞー! みんな、お疲れ様!」
ぱちぱちぱちぱち――みんなの拍手が一斉に鳴り響いた。
ようやく自分たちの作ってきた物が、ひとつのカタチになったのだ。その自分たちですらおぼろげにしか見えていなかった輪郭が、ようやく鮮明なイメージとなって姿を現したのだ。
「いやー、それにしても、なんだか凄いね! こういうのなんていうの? アトラクション?」
「ええと……脱出ゲーム、とかって言うんじゃないの? でしょ、ケンタ?」
「えっ……? う、うん、そうかもな、ロコ。で……体験してみたカンジ、どうだった?」
いよいよあさってに迫った『西中まつり』。当日は体操部としてステージに立つロコには、あえて役割分担をせず、できる範囲で許す時間だけ協力してもらうことになっている。なので、この出し物の体験役としてはうってつけだったのだ。
「超楽しかった! 勉強にもなったしー。でさー、まず最初のナレーションのとこだけど――」
早速ロコから全体通しての感想と、それぞれ個々に向けてのアドバイスが述べられた。少し言葉足らずで何度もつっかえているものの、そこはさすがのロコだ。的確にポイントを押さえ、どうすれば良くなると思うかをロコなりの視点で伝えていた。みんなも真剣に耳を傾けている。
「――ってカンジ? 今のままでも、すっごい楽しいけど、さっきのとこ気をつけると、もっともっと良くなると思うんだ! いちお、これでも? ダンスとか舞台では先輩だかんね?」
「さすがロコちゃんだー! もうちょっと声を張って、か……。先生にも言われたなー……」
「ん? 荻セン、来てたの?」
「ちっ!? 違うよ? こっちのハ・ナ・シ」
すっかり感心した様子の純美子は、危うくロコに養成所に通っていることを漏らしそうになり、失言をかき消すように慌てて両手を振った。まさかそんなことになっていようとは知る由もないロコがとても不思議そうな顔付きで、ん? と僕を見てきた。やめろ、こっち見んな。
でも、やっぱりロコは凄い奴だ。
全体のバランスや、調和といった大きなくくりの『まとまり』を把握する能力に長けている。
思えば小さな頃からそうだった。その『全体像』が見えているロコだからこそ、個々人それぞれに今何が足りないかを感じ取ることができるのだ。はっきりと、これ! とは言えなくても、足りないところ、弱いところがロコには見えているのだ。
だからだ。
だからロコは――。
(ダメだな……。やっぱり僕は、いつも肝心なところで頼っちゃうんだよな、ロコに)
だからロコは――いつも弱い奴の味方、ヒーローだったのだ。
だからロコは――いつもか弱い女の子、ヒロインになれない。
「あん? ちょっと? さっきから何にやにやして見てんのよ、ケンタ!?」
「に、にやにやはしてないからな!? つーか、なんで僕のことに関しては……まあ、いっか」
またそういうハナシをするとスミちゃんが――必殺の一撃が来るか? と、とっさに身構えた僕だったが、なぜかというか拍子抜けというか、純美子は楽しそうに笑っているだけだった。
「ん? どうしたのかな?」
「い、いや……また脇腹に、ぶすっ! って来るかと……。し、しないの?」
「んー? して欲しいのカナー!?」
「いっ! いやいやいや! で、でもさ――」
どう答えたらいいのかわからなくなった僕がしどろもどろになって言うと、純美子は笑った。
「だってー。ロコちゃんならいいんだもーん。ねー?」
「ふえっ!? へ、変なこと言わないでよ、スミっ!」
そして、なぜかたちまち真っ赤な顔になったロコに半ば強引に腕をからませられ、妙ににこにこしたままの純美子はいずこかへと連れ去られていったのだった。
なんだったんだ一体……?
ぱちぱちぱちぱち――みんなの拍手が一斉に鳴り響いた。
ようやく自分たちの作ってきた物が、ひとつのカタチになったのだ。その自分たちですらおぼろげにしか見えていなかった輪郭が、ようやく鮮明なイメージとなって姿を現したのだ。
「いやー、それにしても、なんだか凄いね! こういうのなんていうの? アトラクション?」
「ええと……脱出ゲーム、とかって言うんじゃないの? でしょ、ケンタ?」
「えっ……? う、うん、そうかもな、ロコ。で……体験してみたカンジ、どうだった?」
いよいよあさってに迫った『西中まつり』。当日は体操部としてステージに立つロコには、あえて役割分担をせず、できる範囲で許す時間だけ協力してもらうことになっている。なので、この出し物の体験役としてはうってつけだったのだ。
「超楽しかった! 勉強にもなったしー。でさー、まず最初のナレーションのとこだけど――」
早速ロコから全体通しての感想と、それぞれ個々に向けてのアドバイスが述べられた。少し言葉足らずで何度もつっかえているものの、そこはさすがのロコだ。的確にポイントを押さえ、どうすれば良くなると思うかをロコなりの視点で伝えていた。みんなも真剣に耳を傾けている。
「――ってカンジ? 今のままでも、すっごい楽しいけど、さっきのとこ気をつけると、もっともっと良くなると思うんだ! いちお、これでも? ダンスとか舞台では先輩だかんね?」
「さすがロコちゃんだー! もうちょっと声を張って、か……。先生にも言われたなー……」
「ん? 荻セン、来てたの?」
「ちっ!? 違うよ? こっちのハ・ナ・シ」
すっかり感心した様子の純美子は、危うくロコに養成所に通っていることを漏らしそうになり、失言をかき消すように慌てて両手を振った。まさかそんなことになっていようとは知る由もないロコがとても不思議そうな顔付きで、ん? と僕を見てきた。やめろ、こっち見んな。
でも、やっぱりロコは凄い奴だ。
全体のバランスや、調和といった大きなくくりの『まとまり』を把握する能力に長けている。
思えば小さな頃からそうだった。その『全体像』が見えているロコだからこそ、個々人それぞれに今何が足りないかを感じ取ることができるのだ。はっきりと、これ! とは言えなくても、足りないところ、弱いところがロコには見えているのだ。
だからだ。
だからロコは――。
(ダメだな……。やっぱり僕は、いつも肝心なところで頼っちゃうんだよな、ロコに)
だからロコは――いつも弱い奴の味方、ヒーローだったのだ。
だからロコは――いつもか弱い女の子、ヒロインになれない。
「あん? ちょっと? さっきから何にやにやして見てんのよ、ケンタ!?」
「に、にやにやはしてないからな!? つーか、なんで僕のことに関しては……まあ、いっか」
またそういうハナシをするとスミちゃんが――必殺の一撃が来るか? と、とっさに身構えた僕だったが、なぜかというか拍子抜けというか、純美子は楽しそうに笑っているだけだった。
「ん? どうしたのかな?」
「い、いや……また脇腹に、ぶすっ! って来るかと……。し、しないの?」
「んー? して欲しいのカナー!?」
「いっ! いやいやいや! で、でもさ――」
どう答えたらいいのかわからなくなった僕がしどろもどろになって言うと、純美子は笑った。
「だってー。ロコちゃんならいいんだもーん。ねー?」
「ふえっ!? へ、変なこと言わないでよ、スミっ!」
そして、なぜかたちまち真っ赤な顔になったロコに半ば強引に腕をからませられ、妙ににこにこしたままの純美子はいずこかへと連れ去られていったのだった。
なんだったんだ一体……?
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