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第209話 その15「スクール水着を堪能しよう!」 at 1995/9/11
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「うへぇ、この天気でやるの……!?」
教室の窓から遠く空を見上げれば、夏の代名詞である入道雲――ではなく、にょきりと傘の広いキノコのようなカタチの積乱雲が見える。それ以外は澄んだ青色の空。でも、降りそうだ。
「晴れてて暑いし、ちょうどいいじゃん、モリケン」
「お気楽な奴だな……。あの雲、きっと途中から降り出すぞ? それも、轟々と音立ててさー」
「なら、余計に楽しみじゃんか! 雨の中、泳ぐだなんて、なかなか経験できないことだよ?」
まったく……呑気なもんだ。
渋田はとにかく泳ぐことが好きな奴だ。水中なら重力の干渉を受けずに済む、とでも言いたいのか、他のなにをするよりも生き生きとするのだ。確かに泳ぎは人一倍、いや数倍もうまい。
僕だって泳ぐことは好きではあるものの、もう何年泳いでなかったろう。いやいや、今は中学生の僕なのだから、最低月に一度は市内の温水プールで泳いでいたはずである――けれど。
「今ごろ、女子は更衣室でお着換え中か……」
「あーれれー? そんなえっちなこと考えてたの、モ・リ・ケ・ン・?」
「そっ、そんなこと! 考えてない……わけじゃないけどさ」
体育授業全般が隣のクラスとの合同授業だったので、男子は偶数クラス、女子は奇数クラスにお邪魔して着替える決まりだ。割とどこもそんなカンジだったんじゃないかな、って思う。
僕らの西町田中学校の校庭の片隅にある、学校正面の通りに面したプール施設にも、当然のように男女ともに更衣室がひとつずつ設置されていた。なのになぜか、男子については偶数側の教室で水着に着替えてからプールへ移動するのが決まりとなっていたのだった。謎である。
ただでさえ思春期真っ盛りなわけで。あまりよく知らない隣のクラスの野郎どもに囲まれ、普段誰が座っているのか知らない席で着替えさせられるわけで。僕はそれがとても嫌だった。
そして、もっと嫌なのが――。
「おーい! ちょっと揉ませろよー、シブチーン!」
「うひっ!? ちょ――ちょやめて、くすぐったいからー!!」
……これである。
まあ、百歩譲って、えっちなことに興味深々なのは仕方ないと思う。だって花も恥じらう中学生男子だもん。でも。だからって。手近な野郎の胸を揉んでにやにやしてて、一体何が楽しいのか、と声を大にして言いたいのである。標的になるのは、決まって太めで気弱な男子だ。
となれば。
「おーい! ちょっと来いよー、モリケ――って……え?」
「……今、着替えてる途中なんだ。邪魔しないでくれる?」
声をかけてきた十二組の見たことがあるようなないような男子生徒は、僕のたるみと重みが消え失せた上半身を見て、アテが外れたような、調子が狂ったような返答をして引き下がった。
「おっ? なんだ、ナプキン王子さんよ?」
代わりに目の前に姿を見せたのは小山田と吉川だった。
「ずいぶんすっきりしたな、お前? 僕、夏休みにこっそり隠れて鍛えてました、ってか?」
「……馬鹿にするような言い方が気に喰わないけれど、まあ、だいたいそんなところだよ」
ついイラっとした気持ちを言葉に変えて吐き出した僕の前に吉川が一歩近づいたが無視する。
「正々堂々と勝負、なんだろ? だったら僕も、それなりに努力しないといけない。だって、何もしないで、今までどおりの僕のままで勝てる相手じゃないだろ、君は。……違うかい?」
「はっ――」
――ぱしい!
はじめこそ怖い顔で睨みつけていた小山田だったが、セリフの意味を理解できぬ馬鹿ではなかったようだ。妙に楽しそうな笑い声をひとつあげて、僕の背中を嫌というほど張り飛ばした。
「ったく、おもしれえ奴だ! しかもこいつ、俺様に勝つつもりでいやがるぜ! くくく――」
「痛っ――! ……それはどうも」
そう――今までどおりの僕のままで勝てる相手じゃない。
けど――二周目なんだぜ、僕はな。
教室の窓から遠く空を見上げれば、夏の代名詞である入道雲――ではなく、にょきりと傘の広いキノコのようなカタチの積乱雲が見える。それ以外は澄んだ青色の空。でも、降りそうだ。
「晴れてて暑いし、ちょうどいいじゃん、モリケン」
「お気楽な奴だな……。あの雲、きっと途中から降り出すぞ? それも、轟々と音立ててさー」
「なら、余計に楽しみじゃんか! 雨の中、泳ぐだなんて、なかなか経験できないことだよ?」
まったく……呑気なもんだ。
渋田はとにかく泳ぐことが好きな奴だ。水中なら重力の干渉を受けずに済む、とでも言いたいのか、他のなにをするよりも生き生きとするのだ。確かに泳ぎは人一倍、いや数倍もうまい。
僕だって泳ぐことは好きではあるものの、もう何年泳いでなかったろう。いやいや、今は中学生の僕なのだから、最低月に一度は市内の温水プールで泳いでいたはずである――けれど。
「今ごろ、女子は更衣室でお着換え中か……」
「あーれれー? そんなえっちなこと考えてたの、モ・リ・ケ・ン・?」
「そっ、そんなこと! 考えてない……わけじゃないけどさ」
体育授業全般が隣のクラスとの合同授業だったので、男子は偶数クラス、女子は奇数クラスにお邪魔して着替える決まりだ。割とどこもそんなカンジだったんじゃないかな、って思う。
僕らの西町田中学校の校庭の片隅にある、学校正面の通りに面したプール施設にも、当然のように男女ともに更衣室がひとつずつ設置されていた。なのになぜか、男子については偶数側の教室で水着に着替えてからプールへ移動するのが決まりとなっていたのだった。謎である。
ただでさえ思春期真っ盛りなわけで。あまりよく知らない隣のクラスの野郎どもに囲まれ、普段誰が座っているのか知らない席で着替えさせられるわけで。僕はそれがとても嫌だった。
そして、もっと嫌なのが――。
「おーい! ちょっと揉ませろよー、シブチーン!」
「うひっ!? ちょ――ちょやめて、くすぐったいからー!!」
……これである。
まあ、百歩譲って、えっちなことに興味深々なのは仕方ないと思う。だって花も恥じらう中学生男子だもん。でも。だからって。手近な野郎の胸を揉んでにやにやしてて、一体何が楽しいのか、と声を大にして言いたいのである。標的になるのは、決まって太めで気弱な男子だ。
となれば。
「おーい! ちょっと来いよー、モリケ――って……え?」
「……今、着替えてる途中なんだ。邪魔しないでくれる?」
声をかけてきた十二組の見たことがあるようなないような男子生徒は、僕のたるみと重みが消え失せた上半身を見て、アテが外れたような、調子が狂ったような返答をして引き下がった。
「おっ? なんだ、ナプキン王子さんよ?」
代わりに目の前に姿を見せたのは小山田と吉川だった。
「ずいぶんすっきりしたな、お前? 僕、夏休みにこっそり隠れて鍛えてました、ってか?」
「……馬鹿にするような言い方が気に喰わないけれど、まあ、だいたいそんなところだよ」
ついイラっとした気持ちを言葉に変えて吐き出した僕の前に吉川が一歩近づいたが無視する。
「正々堂々と勝負、なんだろ? だったら僕も、それなりに努力しないといけない。だって、何もしないで、今までどおりの僕のままで勝てる相手じゃないだろ、君は。……違うかい?」
「はっ――」
――ぱしい!
はじめこそ怖い顔で睨みつけていた小山田だったが、セリフの意味を理解できぬ馬鹿ではなかったようだ。妙に楽しそうな笑い声をひとつあげて、僕の背中を嫌というほど張り飛ばした。
「ったく、おもしれえ奴だ! しかもこいつ、俺様に勝つつもりでいやがるぜ! くくく――」
「痛っ――! ……それはどうも」
そう――今までどおりの僕のままで勝てる相手じゃない。
けど――二周目なんだぜ、僕はな。
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