153 / 539
第152話 僕らの『がっしゅく!』三日目(2) at 1995/7/29
しおりを挟む
「じゃあ、まずはおさらいからだ」
早三日目にして連携がスムーズになってきた女子チームの見事な腕前でこしらえられた、フレンチトーストにベーコンエッグ、そして熱々のコーヒーというしゃれた朝食に舌鼓を打ちつつ、僕は裏返しにしていたホワイトボードをひっくり返し、早速会議を再開させることにした。
「昨日、みんなが一生懸命アイディアを出してくれたおかげで、形になりそうなものが絞れてきたよね。ハカセの出してくれた『コンピューターの模型を組み立てることで仕組みを理解してもらう』、あれ、なかなかいいと思うんだ。どういうものなのか、親しみをもってもらえそうだよね」
まさか、最初に名前が上がると思っていなかったのか、五十嵐君は珍しく照れたように目をほんの少し丸くすると、かすかに頬を赤らめた。隣の水無月さんが嬉しそうに肩に触れている。
「あと、ツッキーが出してくれた『2進数と16進数で数字当てクイズを出す』、これも面白いと思う。プログラムを理解しているツッキーっぽいアイディアよね。普段見てる数字が、こんな風に書き換えられるのか、ってみんな面白がるんじゃないかな。うん、いいと思うよ!」
今度は攻守逆転だ。あわわ……と水無月さんは慌てまくって目の前でぶんぶん手を振る。たちまち小さくうずくまった水無月さんの頭を優しく五十嵐君が撫でているのが微笑ましい。
「そして、佐倉君! 『タイピングで敵を倒す』、これ、凄いよ! ずっと、上手になろうと練習してるもんね。だからこそ、こういうアイディアが浮かぶんだよ! パソコンのキー配列は特殊だ。それを知って、慣れて、楽しく上達してもらうってのは、もう売れるゲームだよね!」
来るだろうとは予想していたのだろうけれど、ひゃっ! と小さく悲鳴を上げた佐倉君は、僕の立て続けの絶賛に、真っ赤になった頬を押さえてくねくねと身をよじらせていた。女子か。
「……で、僕と副部長のシブチンのアイディアについてなんだけど、これはもうこの部がはじまる前から決まっててね。僕らは『相性診断をするゲーム』を発表したいと思っているんだ」
「それって……占いみたいな奴、ってこと?」
ロコが怪訝そうな顔付きで尋ねてきた。僕はうなずく。
「カンタンに言えばそうだよ、ロコ。……でもね? 僕らの『相性診断』は一味違うんだぜ?」
「どう違うのさ? タロット占いとか、星座占いとか、血液型占いみたいなのがあるじゃん?」
「ずばり、それのいいとこどり、ってとこなんだ、サトチン!」
「そーそー。しかも、僕らならではの工夫も施してある。僕らにしか作れない、僕ら流占いさ」
自信満々にこたえてから、僕と渋田はにっと笑みを交わした。逆に咲都子は、難しそうな顔付きで唇をとがらせ考え込んでいる。想像がつかない、そんな顔だ。まあ、無理もないだろう。
「で、でもね? でもだよ?」
そこで慌てたように口を開いたのは純美子だった。
「そんな凄いアイディア、四つの中からどれを文化祭の出し物にするつもりなの、ケンタ君?」
僕はしばし口をつぐみ、天井を見上げる。
いや、それは単なるポーズにすぎなかった。
「どれにするって? それはもちろん……この全部をやればいいんだよ!」
「ええっ!? ぜ、全部!? 本気なの、ケンタ君!?」
驚いたのは何も純美子だけじゃない。
アイディアを出したメンバーたちも仰天していた。
「さすがにそれは……! じゃあ、ゲームセンターみたいにするってこと、モリケン!?」
「それは違う、シブチン。バラバラにやるだけなら誰でもできる。でも、僕らっぽくない」
「すべてを一つに融合させる……ということなのでしょうか、古ノ森リーダー?」
「そ。融合というよりは……一本の筋道を作ってあげる、ってカンジかな?」
僕はそこで、純美子に意味ありげな視線を送る。
すると、じき表情にひらめきが宿り、ぱぁっと大輪の花がさきほころぶように笑顔になった。
「そっか、そういうことなんだ……! そういうことなんだよね、ケンタ君!!」
「さすが、スミちゃん! きっとわかってくれると思った! あの方法でいこうと思うんだ!」
早三日目にして連携がスムーズになってきた女子チームの見事な腕前でこしらえられた、フレンチトーストにベーコンエッグ、そして熱々のコーヒーというしゃれた朝食に舌鼓を打ちつつ、僕は裏返しにしていたホワイトボードをひっくり返し、早速会議を再開させることにした。
「昨日、みんなが一生懸命アイディアを出してくれたおかげで、形になりそうなものが絞れてきたよね。ハカセの出してくれた『コンピューターの模型を組み立てることで仕組みを理解してもらう』、あれ、なかなかいいと思うんだ。どういうものなのか、親しみをもってもらえそうだよね」
まさか、最初に名前が上がると思っていなかったのか、五十嵐君は珍しく照れたように目をほんの少し丸くすると、かすかに頬を赤らめた。隣の水無月さんが嬉しそうに肩に触れている。
「あと、ツッキーが出してくれた『2進数と16進数で数字当てクイズを出す』、これも面白いと思う。プログラムを理解しているツッキーっぽいアイディアよね。普段見てる数字が、こんな風に書き換えられるのか、ってみんな面白がるんじゃないかな。うん、いいと思うよ!」
今度は攻守逆転だ。あわわ……と水無月さんは慌てまくって目の前でぶんぶん手を振る。たちまち小さくうずくまった水無月さんの頭を優しく五十嵐君が撫でているのが微笑ましい。
「そして、佐倉君! 『タイピングで敵を倒す』、これ、凄いよ! ずっと、上手になろうと練習してるもんね。だからこそ、こういうアイディアが浮かぶんだよ! パソコンのキー配列は特殊だ。それを知って、慣れて、楽しく上達してもらうってのは、もう売れるゲームだよね!」
来るだろうとは予想していたのだろうけれど、ひゃっ! と小さく悲鳴を上げた佐倉君は、僕の立て続けの絶賛に、真っ赤になった頬を押さえてくねくねと身をよじらせていた。女子か。
「……で、僕と副部長のシブチンのアイディアについてなんだけど、これはもうこの部がはじまる前から決まっててね。僕らは『相性診断をするゲーム』を発表したいと思っているんだ」
「それって……占いみたいな奴、ってこと?」
ロコが怪訝そうな顔付きで尋ねてきた。僕はうなずく。
「カンタンに言えばそうだよ、ロコ。……でもね? 僕らの『相性診断』は一味違うんだぜ?」
「どう違うのさ? タロット占いとか、星座占いとか、血液型占いみたいなのがあるじゃん?」
「ずばり、それのいいとこどり、ってとこなんだ、サトチン!」
「そーそー。しかも、僕らならではの工夫も施してある。僕らにしか作れない、僕ら流占いさ」
自信満々にこたえてから、僕と渋田はにっと笑みを交わした。逆に咲都子は、難しそうな顔付きで唇をとがらせ考え込んでいる。想像がつかない、そんな顔だ。まあ、無理もないだろう。
「で、でもね? でもだよ?」
そこで慌てたように口を開いたのは純美子だった。
「そんな凄いアイディア、四つの中からどれを文化祭の出し物にするつもりなの、ケンタ君?」
僕はしばし口をつぐみ、天井を見上げる。
いや、それは単なるポーズにすぎなかった。
「どれにするって? それはもちろん……この全部をやればいいんだよ!」
「ええっ!? ぜ、全部!? 本気なの、ケンタ君!?」
驚いたのは何も純美子だけじゃない。
アイディアを出したメンバーたちも仰天していた。
「さすがにそれは……! じゃあ、ゲームセンターみたいにするってこと、モリケン!?」
「それは違う、シブチン。バラバラにやるだけなら誰でもできる。でも、僕らっぽくない」
「すべてを一つに融合させる……ということなのでしょうか、古ノ森リーダー?」
「そ。融合というよりは……一本の筋道を作ってあげる、ってカンジかな?」
僕はそこで、純美子に意味ありげな視線を送る。
すると、じき表情にひらめきが宿り、ぱぁっと大輪の花がさきほころぶように笑顔になった。
「そっか、そういうことなんだ……! そういうことなんだよね、ケンタ君!!」
「さすが、スミちゃん! きっとわかってくれると思った! あの方法でいこうと思うんだ!」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる