上 下
139 / 539

第138話 僕らの『がっしゅく!』一日目(2) at 1995/7/27

しおりを挟む
「うーん! やっぱり、山の上の方だから、空気がキレイで新鮮だよね、ケンタ君」

「だね! こうして木陰こかげにいるだけでも涼しいし気持ちいいもんなぁー!」


 リビングのふかふかすぎるソファーに遠慮がちに腰掛け、持ち込んだのが申し訳なくなるくらいごく普通のよく冷えたペットボトル入りサイダーで喉を潤した僕らは、身軽になったところで改めて散策してみることにしたのだった。コテージに戻る前に夕食用の具材を買ってこないといけない、ってのを忘れちゃいけない。買い出しのお店を探しておくのも目的のひとつだ。


「ちょ――! ちゃ、ちゃんと手ぇ貸しなさい……ってば! 転びそうになったじゃない!」

「もー。照れちゃってー。中途半端に指先だけ握ってるからそうなるんだよ、サトチンはー」


 ……あれ?


「大丈夫ですか? 疲れてませんか、ツ――水無月さん? いつでも言ってくださいね?」

「だ……大丈夫……だよ……? あ……ありがと……い、五十嵐君……」


 ……あれれ?


「ほら! 手出して! いざという時には、かえでちゃんはあたしが絶対守ってあげるから!」

「う、うん……ありがと|(ぽっ)。……って! やっぱ女の子扱いされてませんか、僕ぅー!」


 ……ええと。

 最後の一組は見なかったことにしておこう。
 それが佐倉君のプライドを守るためだ。


 しかし――見事にというかなんというか、なんとなく男女のペアが完成してしまっていた。


 もちろん王道カップル|(保留中)は僕と純美子。
 夫婦ドツキ漫才の喧嘩ップルは渋田と咲都子。
 そして、どことなく昭和の香り漂う正統派純愛ドラマのような五十嵐君と水無月さん。


 ま、まあ、ロコとかえでちゃんの二人は、どっちかといえばペアというより仲良しな姉と弟みたいだったけれど、『避暑地での夏期合宿』という非日常のシチュエーションが、自然とそういう気持ちにさせているのかもしれなかった。とてもこんな姿はクラスの連中には見せられない。おいおい、なに底辺野郎が調子に乗って舞い上がってんだよ、と言われるのがオチだ。


 でもこれこそが、あの頃、中学時代に憧れていた『夏期合宿』のあるべき姿だ! くーっ!


「ハカセ? この辺の地理は大体把握済みなのかな?」


 アカマツの林を抜け、湖畔沿いの道路が見えてきた。僕が尋ねると五十嵐君はうなずいた。


「ええ。何度か家族で訪れていますので。ここから左手に進むと、ずらりと土産物店が立ち並んでいます。ヨットハーバーもありますよ。逆に右手に進むと、観光協会と『文学の森公園』があったと思います。静かで良いところですけれど、こちらにはあまり店舗はありませんね」

「じゃあ、とりあえず左側に行ってみようか。みんなもそれでいいよね?」


 どうせなら景色の楽しめる湖畔沿いを歩いた方がよい、という五十嵐君のアドバイスに従って、往来の車に一時停止してもらい、道の向こう側へと僕らは渡った。なんでも、湖沿いの途中途中にサイクリングロードが設けられていて、ぐるりと湖を一周することもできるらしい。


「ふーっ。さすがに標高が高いから日差しが強いなあ。帽子か日傘を忘れず持参のこと、ってしおりに書いといたのは正解だったね、こりゃ」


 じり、と照りつける太陽とときおり吹き抜ける涼風は爽快の極みだったけれど、剥き出しの腕が早くもちりちり焼かれはじめたのを感じ、額に浮きはじめた汗を拭い、まくっていた袖を下ろす。生粋のもやしっ子なので、すぐに日焼けして真っ赤っ赤になるタイプなのである。


「こんなに日差しが強いと、すぐ日焼けしちゃいそうだね、ケンタ君」

「ま、まあね。スミちゃんは日焼け止めとかちゃんと持ってきてる?」



 僕に笑いかける純美子がかぶっているのは――あの日と同じ、ストローハット。

 目にした光景に、ぐぐっ、と感情が揺さぶられそうになるのをなんとかこらえる僕。


 
 信じろ。信じるんだ。
 まだ、チャンスはある。

 今度は――今度こそは絶対に、僕ならうまくやれるはずだから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

処理中です...