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第127話 布団の中から出たくない at 1995/7/17
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(ん……朝か。学校、どうしようかな……)
布団の中で胎児のように丸まりながら、今日も変わらない朝の日差しにそっと溜息をつく。
結局昨日は、ロコの自転車の後ろに乗せられ、我が家へと帰宅したのだった。
僕は、自分が一体どこにいたのか、よくわかっていない。ただ、ロコはそんな僕を見つけ、乗ってきた自転車の後ろに強引に乗せると『ちゃんと捕まってて』と短く告げて走り出した。
するとすぐに、
『ああ、もう! こんな掴まり方してたら落ちるでしょ? ちゃんと、こう……わかった?』
むつり、としたままそう言って、僕の手を引き寄せると、まるで蝶結びでもするかのように自分の腰にしっかりと巻きつけてしまった。僕にはそれに抗う気力がまるでなかったのだ。
どくん、どくん。
ロコの背中に押しつけられた右耳から、一定のリズムで熱を帯びた鼓動が流れ込んでくる。それが僕にまだ生きていることを思い出させ、すべては夢ではなく現実なのだと痛感させたのだった。
(ロコは、絶対に学校は休むな、ってくりかえし言ってたけれど……けれど……)
僕は記憶の世界から現実に戻り、壁にかけられた時計の針を見る。そろそろ準備をはじめなければ一時間目には間に合わなくなってしまう。だがしかし、どうにもカラダが動かない。
(嘘、だ。動いてないのはきっと、僕の心の方だ)
知っている。
わかっている。
そう。これもまた、古ノ森健太というひとりの男が体験した過去のひとつなのだから。
と――。
玄関のチャイムが鳴った。
キッチンで朝食の準備をしていたお袋が一声こたえて開ける。
「はーい。……あーら、広子ちゃん! 昨日はホントにごめんなさいねぇ、ウチのバカ息子が」
「い、いえいえいえ! いーんです! それより、起きてます? ……んと、上がりますね!」
………………ん?
今、『上がる』って言わなかったか!?
すると、身構える間もなく、六畳と四畳半とを仕切っているふすまが一気に、すかーん! と引き開けられて、腕を組んで仁王立ちしているロコに僕は見下ろされることになった。
「ったく! 早く起きなさいよ、馬鹿ケンタッ! 学校、遅刻しちゃうでしょうが!!」
「………………行きたくない」
「はぁ……やっぱり来てみて正解だったわ。……ほら、さっさと起きて準備・す・る・の・!」
「やっ! やめろぉ……引っ張……るなぁ……! く……っ!」
夏用の掛け布団の端を掴んで引き剥がそうとするロコとのチカラ比べがはじまってしまった。
「くぉのっ! 往生際の悪い奴め! こうなったら、こっちも本気だすんだからっ!」
「ぐぎぎぎ……! や、やめろって言って――ぶっ!?」
そもそも体勢がよくなかった。寝っ転がったままの僕と、大股開きで布団を引っ張るロコ。となれば、当然のように制服のスカートの中は丸見えなわけで。小さなリボンの付いた、澄み渡った今日の青空のようなスカイブルーががが。その強烈な刺激が脳内を駆け巡り、一点に集中。
「お、起きる……から……起きるからぁ……! 布団から手を離してくださいお願いします!」
「ふーんだ! 騙されないわよ! そーやってまた布団の中にぐずぐず潜り込む気でしょ!?」
いろんな意味で……今布団を剥がれたら……まずいんだって……ばっ!!
「う、嘘じゃないって! もう降参です! ギブです! 起きます起きてます起きましたぁ!」
「ぬぉおおお! 最後のぉ! ロコちゃんフルパワーでぇ! でぇえいっ!!」
哀れ掛け布団は一気に奪い去られ、残された僕はカラダを丸めしくしくと泣くしかなかったのだった。
布団の中で胎児のように丸まりながら、今日も変わらない朝の日差しにそっと溜息をつく。
結局昨日は、ロコの自転車の後ろに乗せられ、我が家へと帰宅したのだった。
僕は、自分が一体どこにいたのか、よくわかっていない。ただ、ロコはそんな僕を見つけ、乗ってきた自転車の後ろに強引に乗せると『ちゃんと捕まってて』と短く告げて走り出した。
するとすぐに、
『ああ、もう! こんな掴まり方してたら落ちるでしょ? ちゃんと、こう……わかった?』
むつり、としたままそう言って、僕の手を引き寄せると、まるで蝶結びでもするかのように自分の腰にしっかりと巻きつけてしまった。僕にはそれに抗う気力がまるでなかったのだ。
どくん、どくん。
ロコの背中に押しつけられた右耳から、一定のリズムで熱を帯びた鼓動が流れ込んでくる。それが僕にまだ生きていることを思い出させ、すべては夢ではなく現実なのだと痛感させたのだった。
(ロコは、絶対に学校は休むな、ってくりかえし言ってたけれど……けれど……)
僕は記憶の世界から現実に戻り、壁にかけられた時計の針を見る。そろそろ準備をはじめなければ一時間目には間に合わなくなってしまう。だがしかし、どうにもカラダが動かない。
(嘘、だ。動いてないのはきっと、僕の心の方だ)
知っている。
わかっている。
そう。これもまた、古ノ森健太というひとりの男が体験した過去のひとつなのだから。
と――。
玄関のチャイムが鳴った。
キッチンで朝食の準備をしていたお袋が一声こたえて開ける。
「はーい。……あーら、広子ちゃん! 昨日はホントにごめんなさいねぇ、ウチのバカ息子が」
「い、いえいえいえ! いーんです! それより、起きてます? ……んと、上がりますね!」
………………ん?
今、『上がる』って言わなかったか!?
すると、身構える間もなく、六畳と四畳半とを仕切っているふすまが一気に、すかーん! と引き開けられて、腕を組んで仁王立ちしているロコに僕は見下ろされることになった。
「ったく! 早く起きなさいよ、馬鹿ケンタッ! 学校、遅刻しちゃうでしょうが!!」
「………………行きたくない」
「はぁ……やっぱり来てみて正解だったわ。……ほら、さっさと起きて準備・す・る・の・!」
「やっ! やめろぉ……引っ張……るなぁ……! く……っ!」
夏用の掛け布団の端を掴んで引き剥がそうとするロコとのチカラ比べがはじまってしまった。
「くぉのっ! 往生際の悪い奴め! こうなったら、こっちも本気だすんだからっ!」
「ぐぎぎぎ……! や、やめろって言って――ぶっ!?」
そもそも体勢がよくなかった。寝っ転がったままの僕と、大股開きで布団を引っ張るロコ。となれば、当然のように制服のスカートの中は丸見えなわけで。小さなリボンの付いた、澄み渡った今日の青空のようなスカイブルーががが。その強烈な刺激が脳内を駆け巡り、一点に集中。
「お、起きる……から……起きるからぁ……! 布団から手を離してくださいお願いします!」
「ふーんだ! 騙されないわよ! そーやってまた布団の中にぐずぐず潜り込む気でしょ!?」
いろんな意味で……今布団を剥がれたら……まずいんだって……ばっ!!
「う、嘘じゃないって! もう降参です! ギブです! 起きます起きてます起きましたぁ!」
「ぬぉおおお! 最後のぉ! ロコちゃんフルパワーでぇ! でぇえいっ!!」
哀れ掛け布団は一気に奪い去られ、残された僕はカラダを丸めしくしくと泣くしかなかったのだった。
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