上 下
75 / 539

第75話 その9「好きな子と鎌倉の町を散策しよう」(8) at 1995/5/31

しおりを挟む
「ふぅ……スッキリしたー……」


 行くまでは、念のため、と思っていたのだけれど、実際に目の前にあると出るもんだよなあ、などと少々下品な感想を抱きつつハンカチで手を拭きながらトイレのドアを開けると、


「……モリケンみーっけ。うふ」


 げ。桃月。

 ここのトイレは店の一番奥の、細い通路を入ったところにあった。本当に細く、すれ違うのがやっとという狭さだ。通路の外にいればいいものを、桃月はドアのすぐ横にいたのだった。


「あ、あはは……。桃月さんたちも北鎌倉に来てたんだねー。全然気づかなかったよー」

「うふふふ。あたしたちは鎌倉駅の方から来たんだもーん。そ・れ・よ・り・さ……?」


 急いで逃げ出そうとする僕を逃がさないように、桃月は通路を空けるフリを装って、わざとボリュームたっぷりの胸を突き出すようにして通路を塞ぎ、上目遣いに僕を見つめてくる。


「この前のハ・ナ・シ。どーしてモリケンはー、あの日ー、保健室に忍び込んでたのー?」

「し、忍び込んでなんかいないって!」


 とんだ濡れ衣である。僕は慌てて手を振ろうとして――そのままだと桃月の胸にうっかり触れてしまいそうだったのでさらに慌ててできるかぎり手を引き寄せ何度も手を振って否定した。


「あ、あれは……! 保健室の鈴白センセイに頼まれて……仕方なく……!」

「でーもー? クラスのー、女子みんなのー、バストサイズとか聞いちゃったんでしょー?」

「そ、それ……は……」


 はい、そうです。
 とはさすがに言えない。


「聞・い・ちゃ・っ・た、んでしょー? んー?」


 わかってるのかわかってないのか、桃月は逆壁ドンの状態でぐいぐいと胸のふくらみを押しつけてくる。ハ、ハチジュウハッテンサンセンチ……! イマノブラ、モウキツイノ……!

 仕方なく僕は降参し、無言でうんうんと何度もうなずいた。すると、桃月は妖しげな微笑みを浮かべ、ぺろり、とピンク色の唇を舐める。そして


「……ずーるいんだー。クラスの女子全員の、スリーサイズも体重もみーんな知ってるなんて」

「みっ! 見てはいないから! センセイが読み上げた数字をそのまま書いてただけだから!」

「フコーヘーだよねー? モリケンはあたしのココ、何センチか知ってるのに……でしょー?」

「そんなこと言ったって……。あっ! ちょ、ちょっと何をするんだよぉ!? 駄目駄目ぇ!」


 問い詰めながら追い詰めてきた桃月は、ほとんど全身で僕に密着してくると、小柄な体格を生かして通路の出口側から見えないような体勢をとって、あろうことか僕のベルトに手をかけてカチャカチャとやりはじめた。これには女性経験ゼロの四〇歳DTも慌てに慌ててしまう。


「こ、こんなところで……まずい、まずいって! 誰か来ちゃったら誤解されちゃうからっ!」

「んー? その誰かってー……トン子でしょー?」





 どきっ!
 ま、まさか、気づかれてるのか……!?





「それともー、実はロコの方かなー?」


 結局どっちも言うんかいっ!
 あっぶねえ、慌てて自白するところだった……。

 わかってるわけじゃなくって、それとなくカマかけてきただけか。っていうか、どっちだろうが桃月には関係ないだろうに。ほっ、とした途端気が緩み、ベルトの緩んでいたスラックスが、すとん、と落ちてしまった。


「「……」」


 沈黙が……気まずい……!





 しかし次の瞬間、


「#$%&@*◆◎★~~~っ!?」


 桃月は声にならない絶叫を上げると、僕に体重を預けたまま気絶してしまったのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...