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第75話 その9「好きな子と鎌倉の町を散策しよう」(8) at 1995/5/31
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「ふぅ……スッキリしたー……」
行くまでは、念のため、と思っていたのだけれど、実際に目の前にあると出るもんだよなあ、などと少々下品な感想を抱きつつハンカチで手を拭きながらトイレのドアを開けると、
「……モリケンみーっけ。うふ」
げ。桃月。
ここのトイレは店の一番奥の、細い通路を入ったところにあった。本当に細く、すれ違うのがやっとという狭さだ。通路の外にいればいいものを、桃月はドアのすぐ横にいたのだった。
「あ、あはは……。桃月さんたちも北鎌倉に来てたんだねー。全然気づかなかったよー」
「うふふふ。あたしたちは鎌倉駅の方から来たんだもーん。そ・れ・よ・り・さ……?」
急いで逃げ出そうとする僕を逃がさないように、桃月は通路を空けるフリを装って、わざとボリュームたっぷりの胸を突き出すようにして通路を塞ぎ、上目遣いに僕を見つめてくる。
「この前のハ・ナ・シ。どーしてモリケンはー、あの日ー、保健室に忍び込んでたのー?」
「し、忍び込んでなんかいないって!」
とんだ濡れ衣である。僕は慌てて手を振ろうとして――そのままだと桃月の胸にうっかり触れてしまいそうだったのでさらに慌ててできるかぎり手を引き寄せ何度も手を振って否定した。
「あ、あれは……! 保健室の鈴白センセイに頼まれて……仕方なく……!」
「でーもー? クラスのー、女子みんなのー、バストサイズとか聞いちゃったんでしょー?」
「そ、それ……は……」
はい、そうです。
とはさすがに言えない。
「聞・い・ちゃ・っ・た、んでしょー? んー?」
わかってるのかわかってないのか、桃月は逆壁ドンの状態でぐいぐいと胸のふくらみを押しつけてくる。ハ、ハチジュウハッテンサンセンチ……! イマノブラ、モウキツイノ……!
仕方なく僕は降参し、無言でうんうんと何度もうなずいた。すると、桃月は妖しげな微笑みを浮かべ、ぺろり、とピンク色の唇を舐める。そして
「……ずーるいんだー。クラスの女子全員の、スリーサイズも体重もみーんな知ってるなんて」
「みっ! 見てはいないから! センセイが読み上げた数字をそのまま書いてただけだから!」
「フコーヘーだよねー? モリケンはあたしのココ、何センチか知ってるのに……でしょー?」
「そんなこと言ったって……。あっ! ちょ、ちょっと何をするんだよぉ!? 駄目駄目ぇ!」
問い詰めながら追い詰めてきた桃月は、ほとんど全身で僕に密着してくると、小柄な体格を生かして通路の出口側から見えないような体勢をとって、あろうことか僕のベルトに手をかけてカチャカチャとやりはじめた。これには女性経験ゼロの四〇歳DTも慌てに慌ててしまう。
「こ、こんなところで……まずい、まずいって! 誰か来ちゃったら誤解されちゃうからっ!」
「んー? その誰かってー……トン子でしょー?」
どきっ!
ま、まさか、気づかれてるのか……!?
「それともー、実はロコの方かなー?」
結局どっちも言うんかいっ!
あっぶねえ、慌てて自白するところだった……。
わかってるわけじゃなくって、それとなくカマかけてきただけか。っていうか、どっちだろうが桃月には関係ないだろうに。ほっ、とした途端気が緩み、ベルトの緩んでいたスラックスが、すとん、と落ちてしまった。
「「……」」
沈黙が……気まずい……!
しかし次の瞬間、
「#$%&@*◆◎★~~~っ!?」
桃月は声にならない絶叫を上げると、僕に体重を預けたまま気絶してしまったのだった。
行くまでは、念のため、と思っていたのだけれど、実際に目の前にあると出るもんだよなあ、などと少々下品な感想を抱きつつハンカチで手を拭きながらトイレのドアを開けると、
「……モリケンみーっけ。うふ」
げ。桃月。
ここのトイレは店の一番奥の、細い通路を入ったところにあった。本当に細く、すれ違うのがやっとという狭さだ。通路の外にいればいいものを、桃月はドアのすぐ横にいたのだった。
「あ、あはは……。桃月さんたちも北鎌倉に来てたんだねー。全然気づかなかったよー」
「うふふふ。あたしたちは鎌倉駅の方から来たんだもーん。そ・れ・よ・り・さ……?」
急いで逃げ出そうとする僕を逃がさないように、桃月は通路を空けるフリを装って、わざとボリュームたっぷりの胸を突き出すようにして通路を塞ぎ、上目遣いに僕を見つめてくる。
「この前のハ・ナ・シ。どーしてモリケンはー、あの日ー、保健室に忍び込んでたのー?」
「し、忍び込んでなんかいないって!」
とんだ濡れ衣である。僕は慌てて手を振ろうとして――そのままだと桃月の胸にうっかり触れてしまいそうだったのでさらに慌ててできるかぎり手を引き寄せ何度も手を振って否定した。
「あ、あれは……! 保健室の鈴白センセイに頼まれて……仕方なく……!」
「でーもー? クラスのー、女子みんなのー、バストサイズとか聞いちゃったんでしょー?」
「そ、それ……は……」
はい、そうです。
とはさすがに言えない。
「聞・い・ちゃ・っ・た、んでしょー? んー?」
わかってるのかわかってないのか、桃月は逆壁ドンの状態でぐいぐいと胸のふくらみを押しつけてくる。ハ、ハチジュウハッテンサンセンチ……! イマノブラ、モウキツイノ……!
仕方なく僕は降参し、無言でうんうんと何度もうなずいた。すると、桃月は妖しげな微笑みを浮かべ、ぺろり、とピンク色の唇を舐める。そして
「……ずーるいんだー。クラスの女子全員の、スリーサイズも体重もみーんな知ってるなんて」
「みっ! 見てはいないから! センセイが読み上げた数字をそのまま書いてただけだから!」
「フコーヘーだよねー? モリケンはあたしのココ、何センチか知ってるのに……でしょー?」
「そんなこと言ったって……。あっ! ちょ、ちょっと何をするんだよぉ!? 駄目駄目ぇ!」
問い詰めながら追い詰めてきた桃月は、ほとんど全身で僕に密着してくると、小柄な体格を生かして通路の出口側から見えないような体勢をとって、あろうことか僕のベルトに手をかけてカチャカチャとやりはじめた。これには女性経験ゼロの四〇歳DTも慌てに慌ててしまう。
「こ、こんなところで……まずい、まずいって! 誰か来ちゃったら誤解されちゃうからっ!」
「んー? その誰かってー……トン子でしょー?」
どきっ!
ま、まさか、気づかれてるのか……!?
「それともー、実はロコの方かなー?」
結局どっちも言うんかいっ!
あっぶねえ、慌てて自白するところだった……。
わかってるわけじゃなくって、それとなくカマかけてきただけか。っていうか、どっちだろうが桃月には関係ないだろうに。ほっ、とした途端気が緩み、ベルトの緩んでいたスラックスが、すとん、と落ちてしまった。
「「……」」
沈黙が……気まずい……!
しかし次の瞬間、
「#$%&@*◆◎★~~~っ!?」
桃月は声にならない絶叫を上げると、僕に体重を預けたまま気絶してしまったのだった。
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