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第53話 あーあ。ホント、馬鹿だな at 1995/5/2
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動画配信サービスというものは、従来の価値観やライフスタイルを変化させるほど便利だ。
それまでならばどう足掻いても習得できない類の特殊なスキルや能力であろうとも、本人のやる気次第でいくらでも手に入るし、誰にも悟られることなく手に入れたその技を磨くことができる。従来型の世の中では、どんな奇跡が起ころうとも出会う可能性などゼロに等しかったその道の達人から、直々に教えを受けることだって決して不可能ではない。
しかも、無料で、最新の技術を、である。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(……わかってるって。でも、変えなきゃいけない過去だってある、だろ?)
僕が内ポケットの中のスマホに意識を向けたのはほんの一瞬だったけれど、それを敏感に察知した小山田が胸倉を掴んだままの手を激しく振った。よそ見をするな、ってことだろう。
「ずいぶん余裕じゃねえか……この俺に勝てるつもりかよ!?」
「……無理だろうね」
「こ、このっ!」
理不尽だよなあ。
僕はお前に勝てない、って正直に答えてやってるってのに、逆ギレされるだなんて。
――でも、勝たなくてもいいんだよ。負けなければ。
小山田が拳を振り上げたのは、本気で殴るつもりだったからか単なる威嚇のつもりだったからなのか、それは僕にはわからない。しかし、僕のカラダは即座に反応し、迅速に動いた。
「シッッッ!!」
小山田の拳が疾る。
が、その直前に、僕の動きは完了していた。
自分の頭部に両腕を巻きつけるような独特の構え。左手のひらを右肩の上に置き、挙げた右手を肘から曲げて、後頭部に沿うようにして自分の首の左側を押さえるようにカバーする。こうして二本の腕を使ってヘルメットのように頭部を覆うことで、相手からの打撃を防ぎながら、肘や腕を使って反撃することもできる。以前、とある動画で見つけた近接格闘術の構えだった。
「ぐ……っ!?」
喧嘩や争いごとが起こった時、ほとんどの人間が初撃に狙ってくるのは顔だ。腹部を狙ったボディーブローや太腿を襲うローキックを放つ奴は、よほどの変わり者かもしくは相当な経験者だけだろう。案の定、小山田の力まかせに振るった拳は、僕の構えた右腕に弾かれてそれてしまう。たちまち体勢が崩れて小山田はバランスを崩し、その場でたたらを踏む。隙だらけだ。
しかし――僕は手を出さない。
どれほど絶好のチャンスが訪れようとも、だ。
代わりに、ゆっくりと構えを解いてみせると、弱々しい笑顔を浮かべてこう言った。
「勘弁してくれよ、ダッチ。さっきも言ったとおり、僕は君に勝てっこない。やめてくれって」
「……くそっ」
今のやりとりで得体のしれない何かを感じ取ったのか、悪態をつきながらも小山田はもうそれ以上攻撃してこようとはしなかった。さすがに乱暴者で知られる小山田であろうとも、まだ生まれていない護身術を使う相手と喧嘩をしたことなんてないはずだ。明らかに用心している。到底腹立ちは治まらないのだろうが、かといって、迂闊に手を出すこともできないらしい。
「じ、じゃあ、お前はどうする気なんだよ? あぁ!? どう始末つけるつもりなんだ!?」
「僕は――」
あーあ。
ホント、僕って馬鹿だな。
ちらり、と純美子の方に視線を向け、彼女の感情が伝わってくる前に再び小山田を見つめた。
「――僕は、佐倉君と五十嵐君と一緒に班を組むことにするよ。それでいいんだろ、ダッチ?」
それまでならばどう足掻いても習得できない類の特殊なスキルや能力であろうとも、本人のやる気次第でいくらでも手に入るし、誰にも悟られることなく手に入れたその技を磨くことができる。従来型の世の中では、どんな奇跡が起ころうとも出会う可能性などゼロに等しかったその道の達人から、直々に教えを受けることだって決して不可能ではない。
しかも、無料で、最新の技術を、である。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(……わかってるって。でも、変えなきゃいけない過去だってある、だろ?)
僕が内ポケットの中のスマホに意識を向けたのはほんの一瞬だったけれど、それを敏感に察知した小山田が胸倉を掴んだままの手を激しく振った。よそ見をするな、ってことだろう。
「ずいぶん余裕じゃねえか……この俺に勝てるつもりかよ!?」
「……無理だろうね」
「こ、このっ!」
理不尽だよなあ。
僕はお前に勝てない、って正直に答えてやってるってのに、逆ギレされるだなんて。
――でも、勝たなくてもいいんだよ。負けなければ。
小山田が拳を振り上げたのは、本気で殴るつもりだったからか単なる威嚇のつもりだったからなのか、それは僕にはわからない。しかし、僕のカラダは即座に反応し、迅速に動いた。
「シッッッ!!」
小山田の拳が疾る。
が、その直前に、僕の動きは完了していた。
自分の頭部に両腕を巻きつけるような独特の構え。左手のひらを右肩の上に置き、挙げた右手を肘から曲げて、後頭部に沿うようにして自分の首の左側を押さえるようにカバーする。こうして二本の腕を使ってヘルメットのように頭部を覆うことで、相手からの打撃を防ぎながら、肘や腕を使って反撃することもできる。以前、とある動画で見つけた近接格闘術の構えだった。
「ぐ……っ!?」
喧嘩や争いごとが起こった時、ほとんどの人間が初撃に狙ってくるのは顔だ。腹部を狙ったボディーブローや太腿を襲うローキックを放つ奴は、よほどの変わり者かもしくは相当な経験者だけだろう。案の定、小山田の力まかせに振るった拳は、僕の構えた右腕に弾かれてそれてしまう。たちまち体勢が崩れて小山田はバランスを崩し、その場でたたらを踏む。隙だらけだ。
しかし――僕は手を出さない。
どれほど絶好のチャンスが訪れようとも、だ。
代わりに、ゆっくりと構えを解いてみせると、弱々しい笑顔を浮かべてこう言った。
「勘弁してくれよ、ダッチ。さっきも言ったとおり、僕は君に勝てっこない。やめてくれって」
「……くそっ」
今のやりとりで得体のしれない何かを感じ取ったのか、悪態をつきながらも小山田はもうそれ以上攻撃してこようとはしなかった。さすがに乱暴者で知られる小山田であろうとも、まだ生まれていない護身術を使う相手と喧嘩をしたことなんてないはずだ。明らかに用心している。到底腹立ちは治まらないのだろうが、かといって、迂闊に手を出すこともできないらしい。
「じ、じゃあ、お前はどうする気なんだよ? あぁ!? どう始末つけるつもりなんだ!?」
「僕は――」
あーあ。
ホント、僕って馬鹿だな。
ちらり、と純美子の方に視線を向け、彼女の感情が伝わってくる前に再び小山田を見つめた。
「――僕は、佐倉君と五十嵐君と一緒に班を組むことにするよ。それでいいんだろ、ダッチ?」
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