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第48話 古ノ森健太は新たな拠点を手に入れた at 1995/5/1
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「そろそろ催促されると思っていましたよ。いやあ、ずいぶん待たせてしまいましたねえ」
LHR終わりの挨拶もそこそこに、まだ教壇付近で質問攻めにあっていた荻島センセイを掴まえ問い詰めると、僕が来るのを予期していたような少しのんびりとしたセリフが返ってきた
「だったら教えてくださいよ、もう……。LHRの前に言うタイミングあったでしょうに」
「まあまあ。少し事情がありましてねえ、部室に案内するにも準備が必要だったんですよ」
「じ、事情? 準備? なんです、それ」
「まあまあ。来ればわかります、来れば、ね?」
荻島センセイと僕の後ろから、不安げな面持ちの渋田がついてくる。階段を降りて一階へと進んでいくうちに、職員室の方へと荻島センセイは進んで行く。どこへいくつもりだろう?
一階には生徒用教室はない。四階が一年、三階が二年、二階が一年。生徒数が多すぎてクラス数が増えてしまった時だけはこの法則が崩れたが、それでも一階を生徒用の教室で使用することは今までなかった。ほとんどの文化系の部活動は、いずれかの生徒用教室を借りて行うことが通例だし、理科室や技術室などの特殊教室は今まであった部活動で使用しているはずだ。
じゃあ一体、僕たち『電算論理研究部』の拠点はどこになるのだろう?
と思い悩んでいると、見慣れない部屋の前で荻島センセイの足が止まった。
「さあ、ここですよ。入りましょうか」
「えっと……ここは?」
荻島センセイは無言で微笑んでみせると、鍵を取り出してからドアノブを回して戸を開けた。
「古ノ森君や渋田君が知らないのも無理はありません。ここはね、当直の教師用の部屋です」
ほぼすべての教室が引き戸なのに、ここだけ鍵付きのドアだ。妙に違和感があると思った。
一歩中に踏み入れると狭いタタキがあって、そこで荻島センセイにならって上履きを脱いであがる。一段高くなった部屋の床は畳敷きだ。広さは六畳くらいだろう。あまり家具らしきものはなかったけれど、左奥の壁側にこじんまりとした流しと電気ポットが置いてあった。
あとは――。
「もしかして……あの文机の上に置いてあるのって……!」
「目ざといですね、古ノ森君。『電算論理研究部』なんですから、当然必要になりますよね?」
窓側のコンパクトな文机の上には、ずいぶんと年季の入ったコンピューターが置かれていたのだ。しかも、僕のと同じ『PC―9801UX』だった。周辺機器もひととおり揃っている。そんな高価な物を、新設の、しかもまだ仮の部活動のために購入する予算なんてないはずだ。
「ははぁん。おおかた、わざわざ買ってくれたなんて、って考えてますね? それは違います」
「じ、じゃあ誰が……!?」
「これはですねえ、実は、校長先生が永年使われていた愛機なんですよ」
荻島センセイはゆっくりそこまで歩み寄ると、電源ボタンをオンにして起動してみせる。
「そろそろ買い替え時だろうと思案されていたところに、古ノ森君からの話がありましてね? ご自分でもこれからはコンピューターを積極的に活用する時代になるだろう、とお考えだったようで、君たち生徒の活動のためにこれを活用できるのなら、と学校に寄贈されたのですよ」
「そんな……ありがとうございます!」
「ははは。お礼なら言う相手が間違ってますよ? 今度お会いした時にでも言いなさい。ね?」
カリカリ……という独特の起動音とともに画面が表示された。こいつがあれば活動できる!
「やったじゃん、モリケン! 凄いね、これ! モリケンのと一緒じゃんか!」
「ああ。これは……何としても正式な部として立ち上げて、僕らの成果を見ないといけない」
当初は不純な動機もあった部活動の新設だったけれど、こうなると受けた恩は返さないとな。
「顧問は、私が兼任しますよ? ですが……古ノ森君なら無茶ややんちゃはしないでしょうから、あまり顔を出さずにお任せします。くれぐれも、校長先生のご意思を無駄にしないように」
「わかりました! 荻島センセイと校長先生の期待を裏切らないよう部長として頑張ります!」
LHR終わりの挨拶もそこそこに、まだ教壇付近で質問攻めにあっていた荻島センセイを掴まえ問い詰めると、僕が来るのを予期していたような少しのんびりとしたセリフが返ってきた
「だったら教えてくださいよ、もう……。LHRの前に言うタイミングあったでしょうに」
「まあまあ。少し事情がありましてねえ、部室に案内するにも準備が必要だったんですよ」
「じ、事情? 準備? なんです、それ」
「まあまあ。来ればわかります、来れば、ね?」
荻島センセイと僕の後ろから、不安げな面持ちの渋田がついてくる。階段を降りて一階へと進んでいくうちに、職員室の方へと荻島センセイは進んで行く。どこへいくつもりだろう?
一階には生徒用教室はない。四階が一年、三階が二年、二階が一年。生徒数が多すぎてクラス数が増えてしまった時だけはこの法則が崩れたが、それでも一階を生徒用の教室で使用することは今までなかった。ほとんどの文化系の部活動は、いずれかの生徒用教室を借りて行うことが通例だし、理科室や技術室などの特殊教室は今まであった部活動で使用しているはずだ。
じゃあ一体、僕たち『電算論理研究部』の拠点はどこになるのだろう?
と思い悩んでいると、見慣れない部屋の前で荻島センセイの足が止まった。
「さあ、ここですよ。入りましょうか」
「えっと……ここは?」
荻島センセイは無言で微笑んでみせると、鍵を取り出してからドアノブを回して戸を開けた。
「古ノ森君や渋田君が知らないのも無理はありません。ここはね、当直の教師用の部屋です」
ほぼすべての教室が引き戸なのに、ここだけ鍵付きのドアだ。妙に違和感があると思った。
一歩中に踏み入れると狭いタタキがあって、そこで荻島センセイにならって上履きを脱いであがる。一段高くなった部屋の床は畳敷きだ。広さは六畳くらいだろう。あまり家具らしきものはなかったけれど、左奥の壁側にこじんまりとした流しと電気ポットが置いてあった。
あとは――。
「もしかして……あの文机の上に置いてあるのって……!」
「目ざといですね、古ノ森君。『電算論理研究部』なんですから、当然必要になりますよね?」
窓側のコンパクトな文机の上には、ずいぶんと年季の入ったコンピューターが置かれていたのだ。しかも、僕のと同じ『PC―9801UX』だった。周辺機器もひととおり揃っている。そんな高価な物を、新設の、しかもまだ仮の部活動のために購入する予算なんてないはずだ。
「ははぁん。おおかた、わざわざ買ってくれたなんて、って考えてますね? それは違います」
「じ、じゃあ誰が……!?」
「これはですねえ、実は、校長先生が永年使われていた愛機なんですよ」
荻島センセイはゆっくりそこまで歩み寄ると、電源ボタンをオンにして起動してみせる。
「そろそろ買い替え時だろうと思案されていたところに、古ノ森君からの話がありましてね? ご自分でもこれからはコンピューターを積極的に活用する時代になるだろう、とお考えだったようで、君たち生徒の活動のためにこれを活用できるのなら、と学校に寄贈されたのですよ」
「そんな……ありがとうございます!」
「ははは。お礼なら言う相手が間違ってますよ? 今度お会いした時にでも言いなさい。ね?」
カリカリ……という独特の起動音とともに画面が表示された。こいつがあれば活動できる!
「やったじゃん、モリケン! 凄いね、これ! モリケンのと一緒じゃんか!」
「ああ。これは……何としても正式な部として立ち上げて、僕らの成果を見ないといけない」
当初は不純な動機もあった部活動の新設だったけれど、こうなると受けた恩は返さないとな。
「顧問は、私が兼任しますよ? ですが……古ノ森君なら無茶ややんちゃはしないでしょうから、あまり顔を出さずにお任せします。くれぐれも、校長先生のご意思を無駄にしないように」
「わかりました! 荻島センセイと校長先生の期待を裏切らないよう部長として頑張ります!」
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