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第25話 サイアクでピッタリな二人 at 1995/4/14

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 僕たち四人はお弁当を広げ、和気わき藹々あいあいと楽しい時間を過ごしたのだった。


 ……っていうはずだったんだけど。


「……」「……」


 一言も喋らないし、視線すら合わせようとしない奴らが二人いるのだった。


「……ねえ、古ノ森君? あの二人、何かあったの?」

「ない……と思うんだけど、まだ・・。席は隣同士だよな」


 こしょこしょと耳元で囁かれる純美子ボイスの破壊力たるや、まだ未完成だとはいえハンパなかった。ぐふぐふと思わずニヤケそうになる表情筋を引き締め、今日までのフレッシュな記憶と二〇数年前の古びた記憶の両方を検索して、原因らしきものを探してみたものの――。

 と、ヒットする前に咲都子が机を叩き、立ち上がった。
 鋭い視線の先にいるのは――渋田だ。


「あーっ! もうっ! なんでコイツなんかとお弁当一緒に食べないといけないのよ!」

「コ、コイツ呼ばわりされる筋合いないんだけど? こっちだってお前みたいな……あの――」


 そこでなぜか渋田は僕の方を見て、『ほらほら! アレだよアレ!』と小声で助けを求めた。


「おいおい。さすがにアレじゃわからんぞ?」

「あの――アレだってば! この前モリケンが『これだけは読んどけ!』って言ってた漫画!」

「ん? もしかして、『幽☆遊☆白書』のことか?」

「そうそう! この女、アレに出てくる弟みたいなんだもん! デカいし、怖いし、怖い!!」


 弟ってまさか……戸愚呂とぐろ弟のことか?
 そいつは仮にも女の子に対してあんまりだろ……。


「コイツ、また言ったわね!? もうっ、ムカつく!」


『咲都子』こと野方咲都子は高身長女子である。

 全国女子の平均身長が約155センチなのに対し、咲都子はこの中学二年の時点で168センチあった。ただ、根が勝ち気な咲都子はそれをコンプレックスとは捉えずに、むしろ天から与えられた『贈り物ギフト』だと考えて、進んで話のネタにしていたほどポジティブでタフな女子だ。


 とはいえ、である。


「シブチン、そいつはさすがに……」

「ね、ね? 弟って? 『幽☆遊☆白書』ってどんな漫画なの? 男の子向けの?」

「えっと……ゴメン、河東さん。あとで説明するから、今は黙って」


 あう……とかいいながら状況を察して慌てて口を塞いだ純美子がかわいすぎて、僕は今すぐにも悶え死にそうだったのだけれど、この二人をこのままにしておくはいけにはいかない。理由は言うまでもない。なんたってこいつらは、のちに恋人となり、夫婦となる二人なのだ。

 が、行動するより先に、咲都子は身を乗り出して渋田を威嚇するようにこう言ったのだった。


「だ、誰が戸愚呂弟ですって!? あたしが好きなのは、蔵馬くらまって言ってるでしょ、馬鹿!!」


 ……馬鹿はお前だ。
 論点はそこじゃない。

 だが、さらに上をいく男、渋田はすっと立ち上がると、これまた身を乗り出して言い返した。


「く、蔵馬!? もうっ、どっちでもいい! それでいいから、女の子らしくしてろってば!」

「あたしがどうしようが勝手でしょ!? いっちいちうるさい奴ね! このっ、ホクロ男!!」

「な――っ!? ふんっ、鼻の横にホクロがある人は、人相学的にお金に恵まれるんですぅー」

「まあ、ス・テ・キ・! ……とでも言うと思ったの? アンタ、馬鹿なの?」

「馬・鹿・じ・ゃ・あ・り・ま・せ・ん・ー・! 馬鹿って言う方が馬鹿なんですぅー!」

「じゃあじゃあー! 馬鹿って言ったアンタだって馬鹿決定じゃないのさ馬鹿!!」


 軽い眩暈めまいにこめかみを揉みほぐしていると、同じ仕草をしている純美子と目が合った。


「あ、あのね? なんていうか、この二人って――」

「うん……すっごく、気が合う気がする。それに……どっちも馬鹿だ……」


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