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第24話 その4「女の子と一緒にお弁当を食べよう!」 at 1995/4/14
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次の日の昼休みのことだ。
「……ねー? よかったら、お弁当一緒に食べない?」
窓際の席から廊下側に視線を移動させると、四つ分ほど向こう側にある机を取り囲むようにクラスの女子数人が寄り集まっているのが見えた。それぞれの手には、弁当の入ったキルト製のピンクの巾着袋が大事そうに抱えられている。
その中心で室生秀一は、いつものはにかんだような笑顔を浮かべて白い歯を見せた。
「え、一緒に? もちろん、いいよ」
「やった!!」
快諾された途端、集まった女子連中は物凄い統制力を発揮して周囲の空き机を掻き集めてくると、それを並べて室生を中心とした広大な領地を築き始めた。さながら『最後の晩餐』か『円卓の騎士』を連想させるほどの光景だ。さすがは学年でも一、二を争うイケメンである。
そう、我らがクラスに生まれつつあるもう一つの勢力のリーダーこそが、この室生秀一だ。
あの小山田をたとえて『力による支配』とするならば、室生は『愛による融和』と表現することができるだろう。ざっくり言いかえれば『ラブ&ピース』という七〇年代のアレである。
僕は小学校の頃にすでに一度、室生と同じクラスになったことがある。
典型的な優等生タイプで、スポーツも小山田と競うレベルで得意。学業の成績は中の上だが、なにより二枚目であることが室生の最大のセールスポイントだ。当時大人気だったSMAPのキムタクを、五割増しで愛想よくした感じの爽やか系マスクをしていて、女子はもちろんのこと男子からも人気を得ていた。いわゆる『人たらし』という対人用壊れスキル持ちの、コミュ力お化けである。
「ムロ、ずりーなー? 俺も仲間に入れてくれよー」
「なんだよ、キヨー。そこ、座ればいいじゃん。ね? いいよね?」
室生を冷やかすようにして『イケメンランチ会』に混じってきたのが、室生の一番の親友、荒沢だ。荒沢の飛び入り参加に、居並ぶ女子たちは嫌な顔をするどころかむしろ歓迎ムードの様子である。そう、この荒沢清志もまた、イケメングループを構成する一人なのだった。
ただし、同じイケメンといっても室生と荒沢とでは、かなりタイプが異なる。部活からして室生がテニス部なら荒沢は野球部だ。そのままイメージを膨らませていけば比較的わかりやすいかもしれない。爽やか白い歯キラリ系王子様と熱血細マッチョ系勇者様。そんな感じだ。
「――君?」
「……」
「えと。古ノ森君、ってば」
「……え? 僕?」
ふと我にかえって視線を戻すと、すぐ隣で怒ったようにほっぺたを膨らませ、上目遣いで僕を見つめている純美子と目が合った。……って、ええ、純美子!? どうして怒ってるの!?
「さっきから呼んでるのに、もう!」
「ご、ごめんて……」
「なんて言ってたか、聞こえてた? 当ててみて?」
「えと……あの……。ホント、ごめん……」
「もうっ!」
ふくれっ面をしたまま、ぷいっ!、とそっぽを向く。
その横顔は妙にかわいくて、赤い。
「い、一緒にお弁当――!!」
そこまで勢いで口走った純美子は、自分の声の大きさに慌てたようにたちまち声を潜める。
「……一緒にお弁当食べない? って言ったの! もう、聞いてないなんてひどいっ!」
「え……? え? え!? ぼ、僕と!? ふふふ二人で!?」
「……お邪魔で悪かったわね、あたしも一緒よ。文句ある?」
あ。
……ああ、咲都子も一緒、三人で、ってことか。
なら、あいつも呼ばないとな。
「あ、あのさ? 僕も、呼びたい奴がいるんだけど……いいかな?」
「……ねー? よかったら、お弁当一緒に食べない?」
窓際の席から廊下側に視線を移動させると、四つ分ほど向こう側にある机を取り囲むようにクラスの女子数人が寄り集まっているのが見えた。それぞれの手には、弁当の入ったキルト製のピンクの巾着袋が大事そうに抱えられている。
その中心で室生秀一は、いつものはにかんだような笑顔を浮かべて白い歯を見せた。
「え、一緒に? もちろん、いいよ」
「やった!!」
快諾された途端、集まった女子連中は物凄い統制力を発揮して周囲の空き机を掻き集めてくると、それを並べて室生を中心とした広大な領地を築き始めた。さながら『最後の晩餐』か『円卓の騎士』を連想させるほどの光景だ。さすがは学年でも一、二を争うイケメンである。
そう、我らがクラスに生まれつつあるもう一つの勢力のリーダーこそが、この室生秀一だ。
あの小山田をたとえて『力による支配』とするならば、室生は『愛による融和』と表現することができるだろう。ざっくり言いかえれば『ラブ&ピース』という七〇年代のアレである。
僕は小学校の頃にすでに一度、室生と同じクラスになったことがある。
典型的な優等生タイプで、スポーツも小山田と競うレベルで得意。学業の成績は中の上だが、なにより二枚目であることが室生の最大のセールスポイントだ。当時大人気だったSMAPのキムタクを、五割増しで愛想よくした感じの爽やか系マスクをしていて、女子はもちろんのこと男子からも人気を得ていた。いわゆる『人たらし』という対人用壊れスキル持ちの、コミュ力お化けである。
「ムロ、ずりーなー? 俺も仲間に入れてくれよー」
「なんだよ、キヨー。そこ、座ればいいじゃん。ね? いいよね?」
室生を冷やかすようにして『イケメンランチ会』に混じってきたのが、室生の一番の親友、荒沢だ。荒沢の飛び入り参加に、居並ぶ女子たちは嫌な顔をするどころかむしろ歓迎ムードの様子である。そう、この荒沢清志もまた、イケメングループを構成する一人なのだった。
ただし、同じイケメンといっても室生と荒沢とでは、かなりタイプが異なる。部活からして室生がテニス部なら荒沢は野球部だ。そのままイメージを膨らませていけば比較的わかりやすいかもしれない。爽やか白い歯キラリ系王子様と熱血細マッチョ系勇者様。そんな感じだ。
「――君?」
「……」
「えと。古ノ森君、ってば」
「……え? 僕?」
ふと我にかえって視線を戻すと、すぐ隣で怒ったようにほっぺたを膨らませ、上目遣いで僕を見つめている純美子と目が合った。……って、ええ、純美子!? どうして怒ってるの!?
「さっきから呼んでるのに、もう!」
「ご、ごめんて……」
「なんて言ってたか、聞こえてた? 当ててみて?」
「えと……あの……。ホント、ごめん……」
「もうっ!」
ふくれっ面をしたまま、ぷいっ!、とそっぽを向く。
その横顔は妙にかわいくて、赤い。
「い、一緒にお弁当――!!」
そこまで勢いで口走った純美子は、自分の声の大きさに慌てたようにたちまち声を潜める。
「……一緒にお弁当食べない? って言ったの! もう、聞いてないなんてひどいっ!」
「え……? え? え!? ぼ、僕と!? ふふふ二人で!?」
「……お邪魔で悪かったわね、あたしも一緒よ。文句ある?」
あ。
……ああ、咲都子も一緒、三人で、ってことか。
なら、あいつも呼ばないとな。
「あ、あのさ? 僕も、呼びたい奴がいるんだけど……いいかな?」
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