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第2話 おかえりなさい at ????/??/??
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健太――――。
健太――。
「健太!」
まだぼんやりとしていた俺の意識は、その騒々しい呼び声で無理矢理覚醒させられた。
「あ……お袋」
「お袋?」
そう呼ばれたお袋は、一瞬きょとんとした顔つきをしたかと思うと、いきなりはじかれたようにけらけらと笑い出す。
「何よ? つい昨日まで、おかあさん、って呼んでたくせに。何? 急にオトナぶっちゃって」
「いやいや。オトナぶっちゃって、っていうか――」
ん? ちょっと待てよ?
「おいおい。お袋こそ、なんだか妙に若づくりしてて気味が悪いぜ? 一体どうし――」
「若づくりってのはひどい言いぐさだわね? 中学生の分際で、ずいぶんなまいきじゃないの」
いや待て待て……これは……?
若づくりとかっていう次元の話じゃない。どうみたって今目の前にいるお袋は、かるく一〇歳は若返っているように見える。いや、もっとだ。最近増えてきて困るとこぼしていた白髪はどこにも見当たらない。目元や口元のしわだってほとんど目立たないくらいしかなかった。
「? ?」
俺は慌てて身体のあちこちを触って確かめた。なんだこれ、昔寝る時に着てたライトグレーのスウェット上下じゃないか。さすがに大学に入る頃にはボロボロになったから捨てたはずのシロモノだ。っていうか、視界に入る自分の手が妙につやつやしていてさっきから気味が悪い。
「ほらほら。早くご飯食べて、支度しなさいよ? 初日から遅れちゃうでしょ?」
「お、遅れるって………………どこにだよ?」
そこでお袋――古ノ森文枝は、非難がましく片眉を吊り上げてこう言ったのだった。
「学校でしょ、学校。決まってるじゃない。あんた、今日から中学二年になったんでしょうが」
「ちゅ――!?」
冗談だろ!?
驚きのあまり二の句がつげなくなった俺は、お袋の背後にある三面鏡に映る自分の姿を見てさらに驚きまくった。おいおい、おいおいおい! この妙にふっくらつやつやぷっくりした顔は、どう見たって中学時代の俺そのものじゃないか!
底知れぬ恐怖から、俺は実家のいつもの場所に吊ってあるカレンダーを見た。そこには「平成七年(一九九五年)」の文字が平然と、当たり前のように書かれていた。冗談にしては度が過ぎている。超えている。ありえない。
こんなこと、起こりえるはずがない!
「お、おや――とうさんは?」
「もうとっくに会社に行ったわよ。なんか用あったの?」
「い、いや。特にはない……けど」
……そうか。親父もまだ生きてるってことか。
「ご、ごめん、かあさん。なんか寝ぼけてたみたいでさ」
「いやだ、もう! 顔でも洗ってしゃっきりしなさいよ。で、早くご飯食べて行きなさい」
俺は二十数年ぶりになる毎朝の日課であるふとんの片づけを済ませると、ぎくしゃくとした動作で洗面所に行き、鏡に映る自分の顔――中学二年生の古ノ森健太を見つめてつぶやいたのだった。
「………………これ、マジ?」
健太――。
「健太!」
まだぼんやりとしていた俺の意識は、その騒々しい呼び声で無理矢理覚醒させられた。
「あ……お袋」
「お袋?」
そう呼ばれたお袋は、一瞬きょとんとした顔つきをしたかと思うと、いきなりはじかれたようにけらけらと笑い出す。
「何よ? つい昨日まで、おかあさん、って呼んでたくせに。何? 急にオトナぶっちゃって」
「いやいや。オトナぶっちゃって、っていうか――」
ん? ちょっと待てよ?
「おいおい。お袋こそ、なんだか妙に若づくりしてて気味が悪いぜ? 一体どうし――」
「若づくりってのはひどい言いぐさだわね? 中学生の分際で、ずいぶんなまいきじゃないの」
いや待て待て……これは……?
若づくりとかっていう次元の話じゃない。どうみたって今目の前にいるお袋は、かるく一〇歳は若返っているように見える。いや、もっとだ。最近増えてきて困るとこぼしていた白髪はどこにも見当たらない。目元や口元のしわだってほとんど目立たないくらいしかなかった。
「? ?」
俺は慌てて身体のあちこちを触って確かめた。なんだこれ、昔寝る時に着てたライトグレーのスウェット上下じゃないか。さすがに大学に入る頃にはボロボロになったから捨てたはずのシロモノだ。っていうか、視界に入る自分の手が妙につやつやしていてさっきから気味が悪い。
「ほらほら。早くご飯食べて、支度しなさいよ? 初日から遅れちゃうでしょ?」
「お、遅れるって………………どこにだよ?」
そこでお袋――古ノ森文枝は、非難がましく片眉を吊り上げてこう言ったのだった。
「学校でしょ、学校。決まってるじゃない。あんた、今日から中学二年になったんでしょうが」
「ちゅ――!?」
冗談だろ!?
驚きのあまり二の句がつげなくなった俺は、お袋の背後にある三面鏡に映る自分の姿を見てさらに驚きまくった。おいおい、おいおいおい! この妙にふっくらつやつやぷっくりした顔は、どう見たって中学時代の俺そのものじゃないか!
底知れぬ恐怖から、俺は実家のいつもの場所に吊ってあるカレンダーを見た。そこには「平成七年(一九九五年)」の文字が平然と、当たり前のように書かれていた。冗談にしては度が過ぎている。超えている。ありえない。
こんなこと、起こりえるはずがない!
「お、おや――とうさんは?」
「もうとっくに会社に行ったわよ。なんか用あったの?」
「い、いや。特にはない……けど」
……そうか。親父もまだ生きてるってことか。
「ご、ごめん、かあさん。なんか寝ぼけてたみたいでさ」
「いやだ、もう! 顔でも洗ってしゃっきりしなさいよ。で、早くご飯食べて行きなさい」
俺は二十数年ぶりになる毎朝の日課であるふとんの片づけを済ませると、ぎくしゃくとした動作で洗面所に行き、鏡に映る自分の顔――中学二年生の古ノ森健太を見つめてつぶやいたのだった。
「………………これ、マジ?」
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