被告人「勇者A」~勇者の証を得るためダンジョンに籠っていたら争いが終わってました~

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

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第三十五話 ひらめいたわ!

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 がばぁっ!!

「ふうっ! とんでもない目にあったぜ……!」
「あら? お早いお戻りね、《咎人とがびと》。最短記録」
「す、すみませぇん……悪気はなくってぇ……」

 俺は機械的に、むくり、と起き上がると、そろってティータイムとしゃれこんでいる頼れる魔法律士見習いエリナと洋館の女主人、サキュバスのイシェナさんを、じろり、と睨みつけた。

「ま、まあ? 半分は俺にも非があったワケだが?」

 ついでに、イシェナさんの思ったよりラグジュアリーでゴージャスだった胸元をチラ見する。

「だからって、毎回それで気絶させられてたら、そのうち回数制限とかで馬鹿になっちゃうでしょうが! やるならやるで、ちゃんとそれなりの加減をしろと、俺は声を大にして言いたい」
「それって……加減さえすれば、いくらでも蹴っていい、って聴こえるんだけど?」
「それは単に、お前の中のよこしまでどろどろと鬱屈うっくつした欲望のはけ口に――おっふぅ!」
「に……二度とその話題、口にしたら……今度こそコロス!!」

 まだ全部言ってねえだろ! 
 スナック感覚で人の尻、蹴りやがって!


 しかし、これで最悪の事態になっても、エリナを脅して言いなりにする格好のネタができた。

 ただし、その代償に俺は死ぬらしいが。
 意味ねえな、これ……。


 俺は素早くソファーの上の、エリナの隣まで戻ると、神妙な顔をしてテーブルの反対側に座っているイシェナさんにキメ顔でこう告げた。

「さて――紆余曲折うよきょくせつありましたが、イシェナさんがサキュバスだということは分かりました」
「なに勝手に話進めてんのよ」
「お前じゃ頼りにならんからだろうが」

 なにせ俺の復帰待ちで、余裕でティーパーティーしていた奴である。エリナは、むすり、と口をつぐんで、そっぽを向いた。とりあえずは俺に任せるつもりらしい。俺のターン!

「俺の推理力では……こんなさびれた場所におひとりで住んでいるのも、その、サキュバス特有の《催淫》スキルのため、ですね? それほどお強い力では……さぞやお困りでしょうね」
「あぁ! い、いえいえいえぇ……!」

 イシェナさんは俺にずっと視線を向けられているせいで、どこを見たら良いのか、自分の男性恐怖症が少しでもマシになるのか探るように、きょどきょど、と引きり笑いで顔を動かす。

「ゆ、油断さえしてなければぁ……じ、自分で制御できるんですよぉ。ただぁ、寝ている時だけはぁ無理なのでぇ。ほ、本当にぃ、万が一の時のためってことでぇ、ラピスちゃんがぁ……」
「なるほど、俺の推理どおりですね」

 にっ、と、割と白さには自信のある歯を見せて笑い返す俺。

 ただし、推理は見事に外れていた。それを知ってか、エリナが小馬鹿にしたように鼻を鳴らしたが、隣を見ることなく一切無視して構わず俺は続けた。ずっと俺のターン!

「ラピスさんからイシェナさんを紹介してもらったのにはワケがあるんです。実はですね――」


 そうしてかなり遅ればせながら、俺たちが訪ねてきたワケを手短に説明する。

 俺が勇者であること――気づいた時には魔族と人間との争いが終わっていたこと――いまや『戦犯』として審問会で罪を問われていること――そして、どうしてもこの審問会で無罪を勝ち取らなければならないということをだ。

 この程度のことは気絶しているうちに済ませておいて欲しかったが、エリナはエリナなので――ぐふっ!――仕方ない。ちなみに今のうめきは、謎の力で俺の思考を察知した蹴りのためだ。


 すべてを聞き終えたイシェナさんは、おそるおそるうなずく。
 それから蚊の鳴くような声でこう言った。

「でぇ……あたしは何をすればいいんでしょうかぁ……?」
「……と言うと?」

 まさかそう来るとは思ってなかった。ターンエンドォ!

 ……と、言うワケにはいかないので、俺なりに考えてみる。

「たとえば――の話ですけど」
「ふぁい……」
「イシェナさんは、コボルド語――コボルディッシュを話せたりしますか?」
「む、無理ですぅ……」
「――は知っていましたよ、もちろんね」

 その程度のこと、予想済みだぜ。俺のキメ顔は揺るがない。

「では……これならどうです? コボルディッシュを理解できる友人がいらっしゃいますか?」
「ふぇ……いないと思いますけどぉ……一番近いスキルを持ってるのはラピスちゃんでぇ……」
「――ですよね。それは知っていますが……が?」


 話が違うっ!!


 いやいやいや、そんな馬鹿なことってない。第一、ラピスさんがそんな無駄なことを俺たちにさせる理由がない。それに、一番近いスキル持ち、というだけで、コボルディッシュを習得しているとはイシェナさんも言っていないのだ。

 肝心なのは、イシェナさんの持つスキルが鍵ということ。
 イシェナさんが持っているのは、サキュバス固有のユニークスキル《催淫》――。

「もう! なに無駄に考えてるフリしてんのよ!」

 ちょ――まだ考えてる途中だろうが!
 勝手に割り込んで――むぎぎぎぎぎ!

「こうなったら……! 審問会に証人として来てもらって! 『七魔王』ごとサクッと《催淫》してもらっちゃえばいいじゃない! そうしたら、あんたは無罪放免! でしょ!?」
「お前……テロリストの才能あるな……って、おい!」

 この子、怖い……。
 サクッとじゃねえだろ、サクッとじゃ。

「じゃあどうすんのよ!? もっといい考えあるんなら言ってみなさいよ!?」
「今考えてるっつーの!」
「あのぅ……イチャコラしているところ申し訳ないんですけどぉ……」


「「してません!」」


「あぅ……」

 俺とエリナのシンクロ攻撃を喰らったイシェナさんは、涙目になって首をすくめた。そして、両手の人さし指をつんつん突き合わせながら言い訳めいたつぶやきを漏らす。

「でもぉ……あたしの《催淫》ってぇ……ある程度知能が低くないと通じないといいますかぁ」
「ほう、なるほどなるほど」
「……こっち見んなっ!!」
「い、いやぁ……べ、別にぃお馬鹿ちゃんじゃないと通じない、って意味じゃないんですよぅ」
「フォローになってない件」
「うっさい! ……ということはよ? 相手がコボルドなら確実に《催淫》できるってこと?」
「は、はひ……ですねぇ……」

 ひらめいたわ! って顔してるエリナの脇を肘で突きながら俺は釘を刺すつもりでこう言う。

「お、おい、エリナ。さすがにこんな俺だって、無理やり嘘の証言をさせるのは嫌だからな?」
「な、なんでよ!? こうなったらなりふり構ってなんかいられないでしょ? 死にたいの?」
「どっちの意味だよ……」
「どっちもよ」

 さっきよりもっと、ひらめいたわぁ!! って顔をしたエリナはこう続けた。

「そもそも嘘の証人に嘘の証言をさせている、あのいけ好かないエルフが悪いのよ。でしょ?」


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