不死王の器

カイザ

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二章 森の中での一日

15話 夜が明けた森の中で

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「んんっ–––––。」

 下に柔らかい感触を感じながら目を覚ます。

「……何?この状況。膝枕されてるの?俺?」

 目蓋を開ける。真上にはエレナの顔が写り、目が合う。
 よく見るとエレナの顔は少し赤くなっているのがわかった。

「ハルタ君を地面に寝かせるのもどうかと思いまして……。」
「そうか。ありがとう。 ……トレイタは無事か?」
「はい。あの後魔獣を一掃して、今は周りを見てまわってくれています。」
「……ほんと、今回のMVP……いや、功労者はトレイタだな。それに比べ俺はこんなボロボロだ。情けねぇな。」

 エレナの膝の上で、苦笑する。

「いえ、もとはと言えば全て私が悪いんです。私がハルタ君を狂人者だと疑ったばっかりに……。」

 エレナは暗い表情で自分を戒めるように言う。

「いや、言えなかった俺も悪いよ。それに今も言えない。言いたくても言えないんだ。」

 この話しさえ時が止まってしまうのではないかと心配したが、エレナの反応を見る限り、その心配はいらないとわかり、一安心する。

「狂人者じゃ、無いんですよね?」

 エレナは確かめるように呟く。だが、ハルタの答えを既に彼女は知っている。

 それに応えるためハルタは、

「あぁ。俺は狂人者じゃねぇ。誓ってやる。」


 辺りが明るくなっていく。
 夜が明け、新たな朝がやってきたのだ。

 夜明けの赤い光がハルタの顔を照らし、目を細めると、エレナは自分の頭でハルタを光から隠し、影を作る。

「なんでお前がそんなに狂人者を恨むのかは知らないし、俺からは聞かない。それでも……、余計なお世話かも知れないけど一つだけ言いたい事がある。」
「………。」

 エレナは黙ってハルタの言葉を待っている。ハルタもそれに応える。

「あんま一人きりで抱え込もうとすんな。少しぐらいは誰かに頼ってみたらどうだ?俺でもトレイタでも、知らない人でもいい。手を貸してくれって。」

「でもこれは私の問題で……。みんなを巻き込むわけには–––––」

「はいでた。一人で抱え込むなってさっき言ったろ?……俺なんて人に頼ってばっかだぜ?一人で生きていけないからな。誰かが助けてくれないと生きていけない。流石に俺程にはなっちゃいけないけどな?」

 ハルタはもう一度苦笑する。
 自分で言って置いてなんだが、とても情けない気分になった。
 それでもこの言葉が彼女に届いてくれるならと思い、言ったのだが–––––。

「私、ずっと一人だった……。」

 エレナの感情が決壊し、彼女の目から涙が溢れてくる。

「あの八年前。倒れた両親を見てから私はずっと……ずっと復讐の為に生きてきた………。一人で。 –––––辛かった。苦しかった!」

 涙がどんどん溢れ、震える唇で言葉を繋げる。

「どうして……私だけが生き残ってしまったの…………?」

 白い肌に涙のきらめきを残しながら彼女は、なぜ自分だけが生きてしまったか問う。
 だが、それにハルタは答えない。
 沈黙に耐えられなくなったエレナは下手くそに笑みを浮かべ、

「ご、ごめんなさい……。突然こんな事言っちゃって……。」
「気にすんなよ。もっと言えばいい。もっと泣けばいい。俺はそれを受け入れるからよ。」
「–––––ありがとうございます……。」



 それから、ハルタは話を聞き続けた。

 エレナの過去の事件。それからのエレナの人生。
 聞いていて苦しくなるような話だったが、ハルタはしっかり聞き、時には相槌を打った。
 話が終わる頃にはエレナの涙も枯れ、目の下が少し腫れていた。

「–––––ありがとうございます。おかげでスッキリしました。」
「そうか。ならよかったよ。」
「もっと早くに誰かに聞いてもらえばよかった。」
「そうだな……。でも、今のエレナは頼る事の大切さを知った。これからは、この八年間の分も含めてもっといろんな奴に頼れ。」

 ようやくハルタは起き上がり、エレナを正面から見つめる。

「これからは明日に向かって生きようぜ。復讐するなとは言わないけど、せっかく生き残った命だ。本当に自分がしたい事を最優先にやればいいと思うぜ?」
「そうですね。自分がしたい事………。」
「別に今すぐじゃなくてもいい。ゆっくり見つけて行こうぜ。」

 ハルタはエレナに微笑み、親指をぐっと立てる。


 気づけば辺りは完全に明るくなり、朝を迎え、トレイタも見回りから戻って来て、帰る事になった。

 壮絶な1日がようやく終わったのだ。
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