不死王の器

カイザ

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二章 森の中での一日

10話 大きなすれ違い

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「––––あッ!!?あ、あぁ?」

 復活したハルタは上半身を勢いよく起こす。
 腹に空いた穴は完全に塞がっているのだが、さっきまで穴が空いていたと思うと寒気がし、身を震わせる。

「気持ち悪い……。」
「ハルタ……君?」

 やらかした。
 彼女の前で死んで、そして、復活してしまった。
 この状況を何と説明すれば……。

「何で………? どうやって治したんですか?いや、でも、あれは確実に死んでたはず……。」

 目の前に起こった不可思議の現象にアリルは戸惑いを隠せずにいた。

「……落ち着いて聞いてくれ。」

 信じてくれるかわからないが、ハルタは説明を始める。

「俺にはなんか…特別な能力があって……死んでもすぐに蘇生されて復活するって言うもんなんだが……エレナ?」

 話の最中何か違和感を覚え、エレナを見るとまるで時が止まったように固まっていたのだ。

 エレナだけじゃない。風で揺らめいていた木々も止まり、木から離れた葉っぱも宙に浮いたまま固まっていた。

「は?」
「ハルタ君?」

 突然の出来事で動揺していると、エレナに声をかけられ、肩を震わせる。

「今の……聞いてたか?」
「? 聞いてくれって言ってましたよね。」
「え……。俺の能力、聞こえて無かったのかよ?」
「聞こえてないと言うか、まだ言ってないですよね?」
「………はっ?」

 本当に時が止まっていたと言うのか?そんな事がありえるのか?

 ハルタは一度冷静になる為に深呼吸をする。

「わかった……。もう一度言うから聞いてくれ。俺にもよくわからないんだが、死んでもすぐに復活するって言う能力があってだな……。」

 またさっきと同じような事になってないか不安になり、エレナを見る。

「…………この能力を誰かに言っちゃダメなのかよ……。」

 ハルタの不安通り、先程と同じくハルタ以外の全ての時が止まっていた。

「ハルタ君?」
「…………」

 何度言っても、どうせさっきみたいに聞いてくれない。

 説明出来ずに黙っているハルタを見て、エレナは徐々に眉を引きつらせる。

「もしかしてハルタ君って……、狂人者ですか?」
「きょうじん……しゃ? なんだよそれ?」

 この場で全く関係ない単語が出て、困惑していると、エレナは歯を強く食いしばり、ハルタを睨みつける。

「狂人者じゃない人なら誰もが知っている言葉ですよ!?……もう一度聞きますけどハルタ君は狂人者なんですか?」
「た、多分違う……と思う。」
「多分ってなんですか?何で違うと言い切れないんですか?それにあの再生力もまだ説明してもらってませんし……。」
「ご、ごめん。それは説明できない……。」

 したくても出来ない。それが今の状況を苦しくしていくのを知りながらも。

 ハルタの言葉により、エレナはますます不機嫌になっていく。

「何故説明できないのですか?説明出来ない理由があるからなんじゃないですか?」
「ちがッ……。」

 否定しようとしたが、否定できなかった。

「––––––聞いてくれ。俺があの力の事を話そうとすると、俺以外の全ての時が止まって……」

 言葉を口に出している途中に気づく。時が止まっている事に。
 ハルタはどうやってもこの能力の事を誰にも話す事が出来ないのだ。

「クソ……!!これも話せないのかよ!」
「聞いてくれと言っておいてそれですか?ハルタ君……。あなたは狂人者なんでしょ?」
「ぢ、違う!!」

 声を荒げ、エレナの問いを否定する。
 それを聞き、遂にエレナも声を大きくし、

「さっきから訳のわからない事を言って、狂人者じゃないって、言い逃れするのは流石に無理がありますよ。」

 エレナはさっきとはまるで違い、怒りの形相を作りだし、ハルタを睨む。
 その目を見たハルタは死の恐怖を感じ、無意識に体が震え始める。

「狂人者は魔獣駆除の取り扱い本部からも殲滅対象になっています。狂人者の疑いがあるあなたはある程度痛めつけて、本部に連れて行く事にします。」
「や、やめ––––ッ!」

 言葉を終える前に、何かがハルタを通り過ぎるのを感じ、それと同時に頬に痛みを感じる。

「あっ––––。」

 痛む所を触った手には血がついており、それを見ると更に、痛みが増した。

「かすりましたか……。次は死なない程度にちゃんと当ててあげます。」
「うああああああああああぁぁぁああぁぁっっ!!!」

 エレナに背を向き、ハルタはがむしゃらに走り出す。

 そしてハルタとエレナの遊びじゃない本気の鬼ごっこが始まる。
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