不死王の器

カイザ

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一章 屋敷での激動

8話 再来

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 メルマへの一本道を進む途中、ハルタは結晶の光りが消えている事を思い出し。アリルに告げると、大慌てでその場に向かい、結晶にマナを込め、光りを灯した。

 あの結晶は魔避け結晶と言われているらしく、ハルタの推測通りの効果を持っていた。

 あの場所だけ力が弱まっていた為、ハルタは魔獣に捕まったのだ。



 そんな事もありながらも、メルマに着き、町を歩き始める。

「ここって住宅街なんだよな?ここを歩いた先に市場みたいな所があるのか?」
「うん。ここを真っ直ぐ進むと市場に着くの。」
「へー。ってそういえば俺、金無いんだった。」
「それならあの時渡しそびれたこれ。」

 そう言い、アリルは1レラをハルタに渡す。

「いや、別にいらないって……。」
「ううん。住み込みで手伝ってくれるんだからそのお礼も兼ねて渡したいの。」
「……それならありがたく受け取るよ。」

 住み込みはそうしないと今後の生活が困るから提案したものでそこまで感謝される事では無い。だが、事を大きくするのも意味が無いのでハルタは大人しく受け取る。


 そんな事をしているうちに道の隅に屋台を構えているのが増えていく。

「ここが、市場?」
「うん。いろんな店があるから、見て回りましょ。」
「そうだな。」

 アリルの言う通り、店を見てみる。
 覚えたてのメサイ文字で書かれた看板を読む。

「………ここは魔道具屋か。どんなもんがあるのかな?」

 魔道具と言う言葉にそそられ、屋台を覗き込む。

「いらっしゃい。」
「なぁ、おすすめの魔道具って何?」
「んー。おすすめはこれだな。」

 そう言い、屋台の人は真ん中に赤い宝石のような物が詰め込まれた、指輪を取り出す。

「これは?」
「これはマジックリングって言って、手のひらにはめて炎を出す魔道具さ。火の属性が無くても簡単に炎が出せる。」
「へー。」
「ちなみ、各属性のマジックリングもあるぞ。」
「ほう。値段は?」
「1つ5セラだ。」
「5セラ……つまり500円って所か。案外安いんだな。」
「使い捨てだからな。」
「それじゃ……無属性抜いて全部くれ。」

 無属性を抜いた6属性の魔道具を購入するため、3000円……3ネラを出す。

「まいど!」


 屋台を後にし、他の屋台を見て回る。

「なんで各属性のマジックリングを買ったの?」
「もしもの為な。俺無属性だから攻撃魔法とか無いし。」

 この異世界で生き抜く手段。人は簡単に死ぬ。だからこのくらいの準備は当然だ。

 屋台を見て回っているとハルタの肩に誰かの肩がぶつかる。

「あっ痛て。すまねぇな。前見てなかった。」

 そう言って謝って来たのは赤髪青目のアリルと似た特徴を持った青年だった。

「俺も悪かったよ。」
「あぁ。んじゃこれで解決……って隣にいるのはアリル・スーベル様じゃねーか。」

 赤髪の男はハルタの隣にいたアリルの方へと視線を移す。

「あなた。どこの出身?」

 アリルは赤髪の青年を睨みながら問う。
 それを見ていたハルタは状況がわからず、つい声が漏れる。

「知り合いか?」
「んや。俺が一方的に知ってるだけだよ。なんせそこの貴族様は有名人だからな。」
「えっ?」
「あなたも貴族でしょ。」
「えぇっ?」

 アリルの返しに赤髪の青年は「いいや」と首を振り、

「残念ながら俺は貴族じゃない。これはなんつーか。突然変異みたいなもんだな。」

 そう言い青年は自分の赤髪をかく。


「俺の名はアレン。貴族様みたいに立派な姓はねぇよ。」
「そ、そうなの?」

 アレンと言う少年の話を聞き、アリルはさっきの態度を恥じるように顔を下に向ける。

「そう言う事で失礼します。アリル様。……それと…」
「ハルタだ。またどこかで会おうぜ。」

 ハルタが名乗ると、アレンは「おう。それじゃあな。ハルタ。」とだけ言い残し、去って行った。

「それにしてもアリーって貴族だったんだ。知らなかった。」
「ん。別に隠してた訳じゃ無かったんだけど……。」
「別に気にしてないから気にすんな。……ってかなんでアレンの事を貴族って勘違いしたんだ?」

 ハルタが聞くとアリルは髪を触り、もう一つの手で自分の目を指差す。

「この赤い髪と青い目は貴族の証なの。だから、貴族って勘違いしちゃって……。」
「へー。髪も目もすごく綺麗だから納得いくな。」

 ハルタが腕を組み真剣な表情で言うと、アリルの頬がほんの少し赤くなる。

「気を取り直して買い物を続けようか。」
「そ、そうね。」



 ***

 あれから時間が経ち、太陽が落ちてきていた。


 アリルの代わりに沢山の食材が入った籠を持ち、ハルタは森の一歩道を歩いていた。

「やっぱり少し待つわ。」
「いや、こんぐらいの男気くらいださせてくれ。」

 不安な表情をしているアリルに微笑む。

 辺りは赤く染まり、1日の終わりのを知らせる。

 夕暮れを見ながら、ハルタはこんな日が続けばいいのにと願うのだった。
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