不死王の器

カイザ

文字の大きさ
上 下
9 / 39
一章 屋敷での激動

3話 死の未来

しおりを挟む
 痛い。

 何かが俺の周りを囲っている。

 右腕、横腹、太股。次々と体の一部が引きちぎられていく。

 辺りは赤い液体が徐々に広がっていき、視界もぼやけていく。

 そこで映像が途切れた。



「–––––っ!」
「どうしたの?」

 突然息を切らすハルタに、アリルは心配そうに声をかける。

「い、いやなんでもないよ。」

 さっきの地獄の様な未来の体験を思い出す。


 ––––何者かに喰い殺された。
 あの嫌な感覚が今も体に残ってる。


「フィールって痛覚とかあるの?」
「さぁ?私も体験した事が無いからわからない。ごめんね。」
「いや、謝らないで。」

 アリルは知らないだけでおそらく痛覚やらの感覚はあるのだろう。それにしても嫌な未来だった。

「それで何を観たの?」
「–––––特に。何も無かったよ。」
「そうなんだ。」

 いずれ来る死の未来を隠す。

 言えるわけがない。何かに喰われてたなんて言えるわけがない。

「それより屋敷の外はどうなってんの?」
「小さな森。そこを抜けるとメルマに着く。」
「メルマ?」

 またしても聞き慣れない単語に首を傾げる。

「ん。ハイエル王国の住宅街。そこをメルマって呼んでるの。」
「へー。」

 頷くハルタだったが、未来の出来事を思い出し、アリルに尋ねる。

「なぁ、アリー。更衣室ってどこだ?」
「更衣室?案内するからついて来て。」


 2分の時間をかけ、庭から更衣室に着くと、スマホを取り出す。

「10時22分。何時間後にあの未来が………。」

 一旦アリルを外に出てもらうようお願いし、制服に着替えた後、更衣室を出る。

「アリー。1人でちょっと外を散歩してくるね。」
「わかった。気をつけてね。」


 屋敷を出るとメルマに続く一本道が森の中にあった。

 なぞるように一本道を進む。


「さっきからなんだ?これ?」

 所々木に繋がっている光る水晶に目を向ける。
 白く輝き、夜になると道全体が輝き、きっと幻想的なのだろう。

 この水晶の光からは悪を寄せ付けないような強い力を感じる。

「魔獣避けか?」

 魔獣が生息していそうな森だ。安全に道を進めるように対策をしているのだろうか?

 推測してみるが、知識が浅いハルタには、それははたしてそうなのかと確信は持てなかった。

「もし魔獣避けで合ってるなら一個分けて欲しいな。」

 死の未来が待っているハルタには身を守れる物ならなんでも欲しい状況だった。
 だが、さすがに盗る訳にはいかないとハルタの心がそう言っていた。

「–––––ってあれ?」

 現在、見てしまった未来を変える為にメルマに向かっていたハルタだったが、ある事に気づく。

「屋敷に篭ってた方が安全だったんじゃね?」

 屋敷は広く、そしてアリル・スーベルと言う心強い味方がいる。

「俺は馬鹿か……!」

アリルを心配させまいと町に向かっていたが、強いアリルに守ってもらえればよかったんじゃないのか?情けないが。

「–––11時10分。急いで戻るか。」

 少し不安になったハルタは駆け足で屋敷へ戻る。

 森がざわめく。

 少しでも不安に感じてしまうと、それが徐々に広がっていってしまい、やがて大きな不安になる。

 単に走って汗をかいているのか、冷や汗なのかわからないが制服に纏わり付き、気持ち悪い。

「––––っ!?」

 屋敷に向かって走り続けていた中、何者かに森の中に引きずり込まれる。

「があぁぁあぁぁああーーーっ!?」

 右足に痛みを感じて咄嗟に見ると、赤目をした犬の魔獣がハルタの足に喰らい付いていたのだ。
 それに気づいてしまった瞬間。痛みが倍増し、焼けるような熱さも感じる。

「あああああぁぁあぁぁあぁっっ!!」

 痛い。なんとかしてこいつを離さなければ!

「このっ!離れろ!!」

 左足で魔獣を蹴りつけるが魔獣は離れず、更に噛む力が増していく。


 ブチブチ。

 嫌な音が聞こえる。

「がぁっ––––!!」

 ハルタの右足が喰いちぎられたのだ。あまりの痛みに声が出せなかった。
 そしてハルタの抗う力を失う頃、気づけば辺りは魔獣に包囲されていた。

 右腕、横腹、太股。次々と体の一部が引きちぎられていく。

 気を失えればいっそ楽だったのだが、痛みがハルタを許さなかった。

「ああぁっ–––––!」

 涙が溢れてくる。

 何で、何で俺がこんな目に!!

 体を動かそうとするが、どこも動けない。だって無いのだから。

死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!!

 辺りは赤い液体が徐々に広がっていき、視界もぼやけていく。



 海堂春太カイドウ・ハルタは死亡した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。

和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」  同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。  幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。  外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。  しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。  人間、似た物同士が夫婦になるという。   その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。  ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。  そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。  一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。  他の投稿サイトにも掲載しています。

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

処理中です...