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第7章 聖女結衣の軌跡 《予告》
序章
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私は結衣、いつものように光輝くんと朔弥くん、沙羅ちゃんの4人で雑談をしていた。昔から慣れ親しんだこの公園で。
今日、みんなの人生を変える事件が起きるだろう。そう前と同じように……今度こそ成功させたい……。
幼い頃、妹の彩衣とともに今の両親に拾われた記憶、この世界で再び時計の針が動き出す。もう最後にしたい……。
「今日まで楽しかったなぁ」
「どうしたの結衣、今日は朝から元気がないようだけど」
「そうか? 俺にはいつもと同じに見えるけど、朔弥の気のせいじゃないか」
沙羅が動きだした。とうとう始まるんだ……。
沙羅はテントウムシ型遊具に空いている丸い穴の端に座った次の瞬間……穴という穴から黒煙が一気に噴き出した。黒煙は留まることをしらず、みるみるうちに公園全体を包んでいく。
この靄を吸ってはだめ。座り込んで両手を使って顔を覆う。そんな私に沙羅が抱きついてきた。
「何かくるぞ!」
光輝くんの言葉、とうとう彼が私を迎えに……いや、殺しにきたのかな。
上空でドライアイスのようにもくもくと吹き出す黒光りする靄……全てを吸い込むような深い黒色が広がっていく。
靄から降りてくる足……そして膝、腿、腰、腹、胸と露わになっていく姿。そして顔。黒い世界を照らしているのは黒い光、影になって本当の色を認識できない。確実なのは……「sdfghjkl;」……何かを話しているようだけど認識できない。
もうこの世界の住人では無くなったのか……沙羅によって認識を歪められていく。
「……今度こそ、これしかみんなを救う方法はない。お願い……私を守って」
胸にかけたペンダント。物心付いたときから常に身につけていないとダメなものだと分かっていた。
よし……私の空間に飛ぶことが出来た。あとは……目的地と年代を……ダメだ、力が足りない……200年も遡ってしまった……仕方ないこの場所に降り立つしか。
◆ ◆ ◆
冷たそうな石に囲まれ閉塞した広い空間、どこからともなく青い光が辺りを照らしている。
「良かった。なんとかサラソウジャの城に入り込めた。早く賢者の石を見つけないと」
ソウジャの国が崩壊して50年、地下に封印された城内はまるで巨大な迷路、何年……いや何十年……100年以上彷徨い続けた。生き物としてお腹は空くし喉も渇く。しかしそこいら中にいるのはモンスターだけ。
クロノ族が持つ未来視と私の持つホーリーバリアだけが頼り。戦う術など遺伝子レベルでしか記憶にない私にとってとても苦しい時間だった。
今まで経験した何よりも苦しい。死んでしまいたくもなる……しかし私が死んだ所でまたやり直すだけ。時間という概念のないクロノ族に幸せな死など訪れない。
100年以上続いた苦しみは私の心を蝕み希望という光が薄まってどうでも良くなってくる。
「ほんの少しでいい……ほんの少しでいいから良心を残しておかないと」
何万回もの行き止まりで絶望し、常に襲いくる飢えと乾き。魔物の血肉で日々をしのぎ、苦痛を感じながら城の中を歩き回る。こんな時に、あの時出会ったヘルメスの地図があれば……恨めしい。
人や魔物や生き物が平和に暮らす世界なんてもうどうでもいい……私だけが幸せになる方法を探したほうが楽だったかもしれない……でも……。この『でも』という想い……ひとかけらでいい……消えないで。
既に体も心もボロボロ……髪を切るのだって面倒臭い。
何年も何年も何年も何年も、建物の中では昼夜も日にちも分からない……そして……。
「見つけた……」
中央には高くなった台座がある部屋。多くの管が繋がれた半円形の箱……それをゆっくりと開いた。
真っ赤な六角形の石が光を反射して輝く。それを両手でゆっくり取り出して胸の前で握りしめた。
「お願い、私の少しだけ残っている良心。彼を……彼を彼の地で導いてあげて……残った私は……もう、私を私と認識できなくなってしまう……ごめんねみんな。朔弥くん……私を嫌わないで。もしダメだったら……もうこんなこと嫌」
結衣の体から光が天に向かって抜けていく。朔弥を導くために……
そして残った結衣の体。様々な出来事によって良心を全て失った精神。自分の力を確かめ、何が出来るのか……何をするのか……目的を見失った結衣は様々な魔法の力を使って各地を練り歩き、多くの奇跡を起したことから『聖女結衣』と呼ばれるようになった。
その力は、この苦しみのキッカケを作ったソウジャに向けられていた。ソウジャの行動を監視し、関わった国に魔物を向かわせてユランダ・メシアと敵対させる。過去に神の敵として封印されたように、次は消失させるためにたくさんの罠を張り巡らせるのであった。
===
第2部の触り (予告)となります。次回以降の話におきましてはある程度のストーリーは組みあがっていますので、もう少し材料を増やして執筆作業に取り掛かろうと思っております。
沙羅 (ソウジャ)の正体は、雫やミヅキ、リンゴを食べたメイランはどうなったのか……。
様々な謎を解決すべく冒険を続ける。先ずは、突然離れ離れになってしまったケアルナとラクナシアの再開から始まる第2部を楽しみにして……いただけると嬉しいです。
今日、みんなの人生を変える事件が起きるだろう。そう前と同じように……今度こそ成功させたい……。
幼い頃、妹の彩衣とともに今の両親に拾われた記憶、この世界で再び時計の針が動き出す。もう最後にしたい……。
「今日まで楽しかったなぁ」
「どうしたの結衣、今日は朝から元気がないようだけど」
「そうか? 俺にはいつもと同じに見えるけど、朔弥の気のせいじゃないか」
沙羅が動きだした。とうとう始まるんだ……。
沙羅はテントウムシ型遊具に空いている丸い穴の端に座った次の瞬間……穴という穴から黒煙が一気に噴き出した。黒煙は留まることをしらず、みるみるうちに公園全体を包んでいく。
この靄を吸ってはだめ。座り込んで両手を使って顔を覆う。そんな私に沙羅が抱きついてきた。
「何かくるぞ!」
光輝くんの言葉、とうとう彼が私を迎えに……いや、殺しにきたのかな。
上空でドライアイスのようにもくもくと吹き出す黒光りする靄……全てを吸い込むような深い黒色が広がっていく。
靄から降りてくる足……そして膝、腿、腰、腹、胸と露わになっていく姿。そして顔。黒い世界を照らしているのは黒い光、影になって本当の色を認識できない。確実なのは……「sdfghjkl;」……何かを話しているようだけど認識できない。
もうこの世界の住人では無くなったのか……沙羅によって認識を歪められていく。
「……今度こそ、これしかみんなを救う方法はない。お願い……私を守って」
胸にかけたペンダント。物心付いたときから常に身につけていないとダメなものだと分かっていた。
よし……私の空間に飛ぶことが出来た。あとは……目的地と年代を……ダメだ、力が足りない……200年も遡ってしまった……仕方ないこの場所に降り立つしか。
◆ ◆ ◆
冷たそうな石に囲まれ閉塞した広い空間、どこからともなく青い光が辺りを照らしている。
「良かった。なんとかサラソウジャの城に入り込めた。早く賢者の石を見つけないと」
ソウジャの国が崩壊して50年、地下に封印された城内はまるで巨大な迷路、何年……いや何十年……100年以上彷徨い続けた。生き物としてお腹は空くし喉も渇く。しかしそこいら中にいるのはモンスターだけ。
クロノ族が持つ未来視と私の持つホーリーバリアだけが頼り。戦う術など遺伝子レベルでしか記憶にない私にとってとても苦しい時間だった。
今まで経験した何よりも苦しい。死んでしまいたくもなる……しかし私が死んだ所でまたやり直すだけ。時間という概念のないクロノ族に幸せな死など訪れない。
100年以上続いた苦しみは私の心を蝕み希望という光が薄まってどうでも良くなってくる。
「ほんの少しでいい……ほんの少しでいいから良心を残しておかないと」
何万回もの行き止まりで絶望し、常に襲いくる飢えと乾き。魔物の血肉で日々をしのぎ、苦痛を感じながら城の中を歩き回る。こんな時に、あの時出会ったヘルメスの地図があれば……恨めしい。
人や魔物や生き物が平和に暮らす世界なんてもうどうでもいい……私だけが幸せになる方法を探したほうが楽だったかもしれない……でも……。この『でも』という想い……ひとかけらでいい……消えないで。
既に体も心もボロボロ……髪を切るのだって面倒臭い。
何年も何年も何年も何年も、建物の中では昼夜も日にちも分からない……そして……。
「見つけた……」
中央には高くなった台座がある部屋。多くの管が繋がれた半円形の箱……それをゆっくりと開いた。
真っ赤な六角形の石が光を反射して輝く。それを両手でゆっくり取り出して胸の前で握りしめた。
「お願い、私の少しだけ残っている良心。彼を……彼を彼の地で導いてあげて……残った私は……もう、私を私と認識できなくなってしまう……ごめんねみんな。朔弥くん……私を嫌わないで。もしダメだったら……もうこんなこと嫌」
結衣の体から光が天に向かって抜けていく。朔弥を導くために……
そして残った結衣の体。様々な出来事によって良心を全て失った精神。自分の力を確かめ、何が出来るのか……何をするのか……目的を見失った結衣は様々な魔法の力を使って各地を練り歩き、多くの奇跡を起したことから『聖女結衣』と呼ばれるようになった。
その力は、この苦しみのキッカケを作ったソウジャに向けられていた。ソウジャの行動を監視し、関わった国に魔物を向かわせてユランダ・メシアと敵対させる。過去に神の敵として封印されたように、次は消失させるためにたくさんの罠を張り巡らせるのであった。
===
第2部の触り (予告)となります。次回以降の話におきましてはある程度のストーリーは組みあがっていますので、もう少し材料を増やして執筆作業に取り掛かろうと思っております。
沙羅 (ソウジャ)の正体は、雫やミヅキ、リンゴを食べたメイランはどうなったのか……。
様々な謎を解決すべく冒険を続ける。先ずは、突然離れ離れになってしまったケアルナとラクナシアの再開から始まる第2部を楽しみにして……いただけると嬉しいです。
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ありがとうございます。これから広がる盛大なストーリの序章(言いたいだけ)。
登録してもらえてとても嬉しいです! お時間がある時にまたお越しください♪
作品全てお気に入り登録しときますね(^^)
ありがとうございます。登録していただきコメントまで残していただけるととても嬉しいです。