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第6章 過去の友達

第71話 キレッキレの必殺技

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 バルコニーから立ち上がって手を振る女王と聖女結衣。

みなさーん(スピーカー音声→)、今日のおめでたいこの日に立ち会えたことは生涯の思い出となるでしょう。勇者を讃えるパーティーのサプライズとして重大発表があります》

 冒険者たちは聖女結衣の登場に大興奮、兵士たちは激しい拍手で場を盛り上げ涙を流している人までいる。

「サクラ、姉の持ってる杖に付いてるの、城で見たくぼみの形と同じだな」
「あの赤い石? そうだとすればあれが賢者の石」

みなさーん(スピーカー音声→)、ユリア女王のバチアニアと聖女結衣様が治めるウッドバーレン、この時いまをもって同盟が締結されました。ここに参加している皆様は、この国の専属冒険者として登録できる権利があります。今まで頑張ってきた皆様の努力が報われる時が来ました》

 地図で見るとユランダ・メシアのあるストネシアを挟むように配置された国での同盟。偶然なのか……。

 地震のような揺れが広場に広がった。

「みなさんご安心くださーい、これよりエキシビションマッチ用の闘技場を出します。危ないのでロープの中に入らないでくださーい」
 男がロープの内側に入ると、男とともに中央の噴水を中心に地面から分厚い石版がせり出してくる。1辺が30メートルはあるであろう真っ白い闘技場だった。

「勇者パーティーのレベルは非公開になっていますが、対戦するアルゴパーティーのレベルを公開させていただきます。この戦闘をご覧になって挑戦したい方は是非お申し出下さい」

 あちこちから「俺達も挑戦しようか」という声が聞こえたかと思えば「アルゴたちが負けるようならどこもダメだろう」という声も聞こえてくる。

「それでは登場して下さいアルゴチームリーダー、アルゴ・スリラン レベル40」
 闘技場にかけられた階段を登ってゆっくりと中央に歩みを進めるアルゴ、かなりの有名人なのか『アルゴ』コールがあちこちから聞こえてくる。

「続いて、剣士といえばベックス、ベックスと言えば剣士、剣士の憧れベックス・カツキ レベル36」
 ゴツいアルゴと違ってスリムでイケメンなベックス、広場に集まった数少ない女性の声援を独り占めしている。

「そして最後は、みんなが思っているだろう。そのこぶしで僕を殴って……死をかけてでもお願いしたい紅一点の格闘家アイドル、イリア・ソイナ レベル35」
 広場にいる男たちの高い声と口笛、声援と言うより推しのアイドルに自分をアピールしている声、そんな男たちに投げキッスをするイリア。
 
 そんな3人が会場のあがるとテンションマックス、ヒートアップする。

 彩衣は「全くうるさい」と目を闘技場に向けること無く食べ物をつまみ、ルルとナナは「「アルゴ様がんばって」」と祈っていた。

「申し遅れました、このエキシビジョンマッチを取り仕切るフェスティ・バチアニアと申します。以後お見知り置き下さい」
 フェスティーは手を突き出しお尻を引いてお辞儀ボウ・アンド・スクレープした。

「バチアニアって、この国と同じということは公爵ということか……つまりおエライさんってことなんだな」
「サクラと名乗って良かったな、サクヤという名だったらどうなっていたんだろうな」

「それでは勇者パーティーの登場です。バチアニアでの魔物騒動を一気に解決に導いた勇者、琢磨様、俊介様、光流様の登場です」

 地面が揺れる。闘技場の中央にある噴水が下に消えていくと、代わりに3人の男がせり上がって来た。まさしく琢磨くんたち。

「そうだ……あのふたり、どこかで見たことあると思ったら、憲久くんと一緒に異世界今日の話しを聞きに来たふたりあの時のふたりだ……。でもなんで3人がこんなところにいるんだ」
「勇者は異世界教を抜けてきたって誰かが言ってたな」

「みんなー、俺達は3人だ。みんなの中から魔法使いをメンバーに加えたいと思っている。攻撃魔法や回復薬、この戦いをみて立候補したい人がいたら後で声をかけてくれ」
「「リーダーである琢磨と僕たちで審査させてもらう。通れば君も勇者パーティーだ」」

 歓声がポツリポツリと上がる。歓声と言うよりは歓び、「私、立候補しちゃおうかなー」という魔道士と必死に止めるパーティーメンバーといった構図。

「それではみなさん、ユリア女王、聖女結衣様も見ておられます。素晴らしい戦いを見せて下さい!」

 アルゴチームは連携を意識した配置、琢磨チームは戦う気があるのかその場に立っているだけだった。

「それでは、エキシビジョンマッチスタートですー!!」

 動いたのは琢磨チーム、俊介は腰につけたナックルを装着し、光流は剣を抜く。ふたりは対にする相手に切りかかった。

 イリアVS俊介 ベックスVS光流 といった個人戦へと変わり、琢磨は右手を挙げると土が現れ斧を形作る。そのままアルゴにブーメランのように投げつけた。
 アルゴは背中の戦斧を抜くと、それを受け止めるが勢いを殺しきれずに後ろに滑ってしまう。
 琢磨の斧はそのまま霧散すると、既に新しい斧を作り出した琢磨が上空から切りかかっていた。それに気づいたアルゴは体を横にして斧を避ける。

 ズッゴーン! と巨大な音とともに闘技場を直撃、リングは傷一つつかない。次の瞬間、斧を支点として琢磨がリングを蹴って体ごと足払い。アルゴは一瞬の隙をつかれて大きく転んだ。
 更に琢磨はサムズ・アップした親指を下から上にもっていく。リングから伸びた突起がアルゴの太い右手を貫通。

「んぐっ」
 アルゴは何とか起き上がりながら突起から腕を一気に引き抜いた。

「「アルゴ」」

 アルゴの元に戻るイリアとベックス。俊介と光流も琢磨の元に戻った。

「ちょっとアルゴ、あいつらはヤバいわ。攻撃は当たらないし軽くいなされちゃうわ」
「ああ、俺もそうだ。あんな子供にやられるなんてなぁ」
「そうだな、確かに俺達とは根本的な強さが違う」

 琢磨が右手を横に出すと、俊介と光流が武器を収める。その様子を見て琢磨はポケットからポーションを取り出してアルゴに投げた。

「それを飲んで蟻たちを葬った技を受けてもらっていいかな。受け切ったら君たちの勝ち、受けきれなかったら俺たちの勝ちだ」
「なんでそんなことをする必要がある!」

「バチアニアの勇者となった俺たちの力を見届けてほしいんだ。ここに居る何人かは、何匹集まってもたかが蟻程度に思ってる奴がいると思うんだ」

 冒険者たちはそう思ってましたと言わんばかりの表情。

「そうか、お前たちはそんなことを引け目を感じていたのか……やっぱり子供だな」
「なんとでも言ってくれ、最高レベルの君たちに圧勝することはこのバチアニアを守ることにもつながるんだ」
「分かった、挑戦を受けよう」

 アルゴは転がっているポーションを拾い上げて一気の飲み干す。瞬時に腕の出血がとまるとブンブン振り回して回復程度を確認した。
 
「すいませーん、多くの蟻を一気に殲滅した技を使いますので、アルゴさんの裏側の人はコッチ側に避難して下さーい」

 俊介の言葉にいそいそと走る冒険者たち、その顔はさっきまで見せていた余裕は消え失せているようだった。

「それではいきます」

 琢磨は手刀を胸の前で構える、どんな攻撃が来ても受け止められるように構え直すアルゴパーティー。
 
 この攻撃はヤバイ気がする。彩衣も感じているようで小さく「助けたほうがいいぞ」とつぶやいた。バレないように助けるにはアレしかない。

「フォールディングファン」
 言葉と同時に手刀で宙を切るように水平に払い始める。僕は10ギラ硬貨をフリックバレットで弾く。
 ギラは琢磨くんの膝にヒット、バランスを崩し傾いた琢磨の斬った手刀が体に合わせて斜めになった。
 手刀に合わせて扇子のように広がった土の刃は空を切り裂きリングを切り裂く。軌道にあったベックスの刃も豆腐のように切り裂かれ、破片が地面に落ちる。
 
「誰だ!」
 と、膝を押さえながら声をあげた琢磨は地面に落ちている10ギラ硬貨を拾い上げるのだった。

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